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二十九話


 楽しい時間は終わりを迎え、面倒事が歩いてやってきた。

 たぶんお目付け役として背後に隠れていたであろうリフェルとヘクトールさんもニゲルが現れたのを確認すると嬉々とした様子で出てきた。

 尾行するのはいいけど、俺が気づけていたってことは隠すつもりはなかったんだろうなぁ。

 ……アルメテルさんに変に手を出さなくてよかった。

 いや手を出す度胸はありませんけども。


「我がわざわざ忠告してやったというのにその日のうちに懲りもせず逢瀬を重ねるとは……余程死にたいらしいな貴様」


 多くの私兵らしき連中を連れたニゲル。

 その顔にはありありと怒りが浮かんでいる。

 血圧があがって血管が浮き上がり今にもはち切れんばかりだ。

 相当お怒りのようだけど、流石に頭おかしいんじゃないかこいつ。

 普通に考えたら婚約御断りされてるんだから諦めるだろう……あれ?

 前にもなんか似たような事があったな。


「随分と器が小せぇなぁお貴族様は。 だからアルに見向きもされないんだよバァカ」


「というかフラれてるのに夫気取りとか普通に頭おかしいんじゃないかな? 頭殴って治してあげるから」


「……二人ともついてきていたんですか? え、もしかしてずっと見てたんですか!?」


 え、気付いてなかったの!?

 素人の俺でも気付いたのに!?

 背後から現れた二人を見て明らかに動揺しているアルメテルさん。


「バッチリ。 色気の無いデートしてんなぁって思ってた。 聖女なのに真っ先に武器屋に案内するとか女として終わってんなぁって」


「頭のおかしいって定評のあるボクでも武器屋には誘わないよね」


「そ、そんな!? ぶ、武器屋楽しいじゃないですか! 格好いいのとか不思議なのとか色々見物出来るんですよ!」


 …………こんな事口が裂けても言えないけど、君ら三人たぶん女子力どっかに落としてきてるから、あんまり人の事言えないんじゃないかな。

 なんだったらたこの四人の中で俺が一番女子力高い自信あるよ。


「貴様らもいたか。 小娘二人には虚仮にされた仮もある。 存分にいたぶってやるぞ」


「うひゃー怖いこと言ってるねー。 こんな町中で私達と戦争するつもり? 言っておくけど例え貴族でもこの状況じゃ犯罪の言い逃れなんて出来ないよ? 目撃者も多すぎるし、私達みたいなか弱い女子を囲んで襲うなんて他のお貴族様達も見逃さないんじゃない?」


 か弱い女子、という単語にどうしても引っ掛かるけど、確かにどう考えてもこれ犯罪だよな。

 あれだけの数の傭兵か私兵か分からないけど、それだけ揃えてたった四人を囲もうとしてるんだ。

 調べられたら一発でバレるだろうし、貴族のコネや権力を使うにしてもこっちには聖女様までいる。

 クレリオ教を完全に敵に回すし、下手したら貴族位の没収だってありえそうだけど。


「ふん。 見られていればな。 我には財力という力がある。 これを発明したものは間違いなく天才だな。 ――開門、虚構大園」


 ニゲルが懐から四角いキューブを取り出し、何事かを呟いた瞬間。

 キューブがまるで内側から押し開けられるように開いた。

 キューブからは青白い光が眩く漏れはじめ、視界の全てを白一色に染め上げたかと思うと、それは少しずつ弱まっていった。


「……なんじゃこりゃ」


「うおっ!? なんだここ! オレ達さっき町にいたよな!?」


「これは……位相結界ですね。 以前魔人族と戦った時に閉じ込められた事があります。 その時は結界を展開した道具を破壊することで脱出出来ましたので、ニゲルが持つあの箱を破壊すれば抜け出せると思われます」


 俺やリフェルが驚いていると、アルメテルさんから冷静な言葉が返ってきた。

 こういう時に知識とかで頼りになる人がいると心強いよなぁ。


「位相結界かぁ……こんな魔道具バカみたいなお値段しそうだけど、こんな事のために使うかなぁ。 費用対効果とか考えたら割に合わないと思うんだけど」


 うーん?と頭を捻るヘクトールさん。

 今までの流れでなんとなく分かったかも。

 ニゲルのアルメテルさんに対する異常な執着。

 合理性に欠けた感情論による行動。

 魔人族との戦いでもあった似たような結界。


 ほぼほぼ答えは出てそうだけど……。

 いやでもニゲル達だけの戦力でこっちを潰せると思うのは戦力に対しての目算が甘いような気もするけど……。

 あの私兵達がもしかして強いのかな。


「……リフェル、ヘクトールさん。 ニゲルの手下ってあれ傭兵が混ざってたりします?」


「んんー? いや、オレが知る限りはいないな」


「仕事柄人は覚える方だけど、あの中に少なくともシエンタールの傭兵はいないよ」


「なるほど。 ちなみに強さ的にはどう?」


「んー……見た感じだから完全に当てになる訳じゃないけど、せいぜいBランクが二、三人ってところかなぁ」


「ヘクトールさんの眼力なら当てになるよ。 ありがとう」


 あの手下達は傭兵の仕事で無理矢理雇われた連中ではないって事なら遠慮しなくてもいいよな。

 こっちには二人程好戦的な人がいるけど、今回はテストも兼ねて是非とも彼等に出てきてほしい。

 だって向こうから誰にも見られない空間に引き込んでくれたんだよ?

 お膳立て完璧じゃないですかやだー。


「よし。 えー、あー……ごほん。 ニゲルさん。 色々と誤解もあるようですし、少しお話しませんか? 貴方は俺がアルメテルさんを奪おうとしてると思っているのかもしれませんが、私達はただの友人です。 そして貴方は婚約を断られた立場です。 つまり私と貴方はアルメテルさんと恋愛だの婚約だの関係無いんですよ」


「何を言い出すかと思えば。 貴様は我がカルニゲル家の権力を知らんようだな。 クレリオ教側からすれば我が家の権力は決して無視できんものだ。 聖女と結婚させて我が家の権力を取り入れる事が出来ればクレリオ教はマルクートで絶大な力を振るうことが出来る。 婚約は必ず成立する」


 ニゲルはそう言うけど、教会側としても断ったってペレグリンさん言ってなかったっけ?

 つまりここからニゲルが婚約を認めてもらうにはアルメテルさん本人を落とし、更には教会側が認めるだけの功績や金やらのメリットを見せないといけないと思うんだけど、これはどう考えてもおかしいよな。


「……アルメテルさんの意志がそこに無いようだけど、彼女にだって恋愛の自由はあるでしょう?」


「馬鹿か貴様は? 我に必要とされたのなら女は黙って言うことを聞けばいい。 むしろ我に認められたことに感謝して頭を下げるべきだろう」


「…………貴方はアルメテルさんの事が好きではないんですか?」


「まるで子供のような事を言うな貴様は。 だがまあ敢えて言うなら嫌いではない。 見た目も身体も悪くない。 我の事を理解できん頭は残念だが、それは躾ればいくらでも変えられる」


 あー無理だ。こいつ心から無理。

 なんだこのパワハラセクハラ野郎は。

 考え方が気持ち悪すぎる。顔面ビンタしてやりたいわ。

 いや、ていうかやろう。

 どうにかして性格を矯正してやりたい。


「だ、誰の頭が残念ですか! もう怒りました! 謝っても許してあげませんからね!」


 今まで我慢していたであろうアルメテルさんが激おこだ。

 あんな言い方されたらそりゃ怒るよ。

 見た目も身体も性格も全部いいのに。

 ちょっと常識がずれてるけど。


「手を貸すよアル。 女を物としてしか見てないやつは死ねばいい」


「ボクもちょっとこれはムカつくし、ボクもヤルヤルー」


 二人はなんかイキイキしてるな。

 大義名分を得て遠慮無くやれるもんね。

 怖いよ。


「ふん、やるつもりか? ならば数の力、金の力で押し潰してやろう」


 武器を構えた三人を見て妙に勝ち誇った笑みを見せるニゲル。

 まあ後ろに控えてる人達も強いんだろうし、人数も多いからそりゃあ得意気になるよね。

 ニゲルの言葉に反応してぞろぞろと動き始めた私兵達。

 その顔には下卑たものが浮かんでおり、この諍いが終わったあとに女性陣にどんなことをしようか、なんて考えているのがありありと伝わってくる。

 性欲に忠実すぎだろ。


「リフェル、アルメテルさん。 今から俺の魔法で使い魔を喚んで先制の一撃を撃ってもらいますね」


「お、なんだ新しい魔法覚えたのかよおっちゃん。 いっちょ派手なの頼むぜ」


「分かりました! 先制はお譲りします!」


「…………連中もニゲルについてなければ怖い思いしなくてすんだのに」


 一人だけ何が呼び出されるか知っているヘクトールさんだけが憐れみの表情を浮かべている。

 知らなかったら確かに怖いよね。


「おいでニグレド田中さん! 先制一発! 出鼻を挫いてやって!」


 スマホから召喚の欄を選び、ストックされているニグレド田中さんを呼び出す。

 淡い魔方陣が浮かび上がり、中心から黒いドロリとした液体のようなものが溢れだし、その見た目の異様さから私兵達の足が警戒から止まる。

 ついでにリフェルとアルメテルも止まってる。

 中からズルリと現れたニグレド田中さんの異様な外見に俺とヘクトールさん以外の全員が動きを止めてしまっている。

 田中さんは睥睨するように私兵達を眺め、両手の十指を全て敵である私兵達へ向けて黒々とした光を宿した。


「な、なんだアレは!? 魔人族か!?」


「なんかヤバい雰囲気が出てるぞ!」


「障壁を張れ! デカイのが来るぞ!」


 私兵達が田中さんを見て口々に驚いている。

 中には田中さんの指に宿る光を見てヤバいと思った人達が的確な指示を飛ばしている。

 なんだかんだで優秀な人達もいるんだろうなぁ。


「死なない程度にやっちゃえ田中さん!」


 俺の意図を理解したのかは分からないけどちゃんと受け取ってくれたと思った。

 半殺しというかまあ気絶させて動けなくするとかそんなレベルでと。

 けど、どうも田中さんにはきちんと伝えないとダメだったようだ。

 次の瞬間。

 田中さんの指がウニョウニョと一瞬にして分裂した。

 言ってみれば十門あった砲台が一気に百門近くに増えた。

 黒い光は幾条にも分かれ、光の雨となって降り注いだ。


「あ、あれー……?」


 田中さんのレーザーが的確に敵の腕や足を貫いている。

 しかも一回目の照射で終わるかと思いきやまるで機関銃の如く撃ちまくってる。

 牽制射撃で終わり、その後に突撃しようとしていた三人がタイミングを見失って立ち尽くしている。

 あ、でも何人か障壁で受け止めている。

 けど貫通してやっぱり撃ち抜かれてる。

 ニゲルとその近くにいた三人だけは分厚い障壁のおかげで何とか助かっている。


「……ねぇハルさん。 流石に敵を持っていきすぎだよ。 ボク達の出番無くない?」


「おっちゃん……確かに派手なの頼むって言ったけどさぁ」


 戦闘狂二人としてはお気に召さないようだ。

 仕方無い、この辺りで一旦止めておこう。


「田中さん、撃ち方止め!」


 田中さんに指示を出すとピタリとビームの連射を止めてくれた。

 指示がちゃんと通ったのは良いけど、細かい指示を出さないと大雑把に色々とやってしまいそうで怖いな田中さん。

 死なない程度に、って言葉をつけてなかったら本当に全員殺っちゃってたかもしれない。

 というか多分殺ってる。

 ……扱いには気を付けよう。

 アルベド萬太郎くんだけはちゃんと知性があって会話も出来る常識人なんだよな。

 次にこういう機会があったら萬太郎くんにお願いしてみよう。

 ルベド佐藤さんは可愛いからペット感覚で触れあいたいな。


 おっと話がそれた。

 田中さんの一斉射撃によって生き残ったのはニゲルを含めて四人。

 ヘクトールさんの攻撃を止めた強固な障壁のおかげで生き残った連中だ。


「き、貴様等! そんなバケモノを使うとは卑怯だぞ!」


「たった四人に大勢引き連れて襲おうとしたバカは卑怯じゃないのか?」


 リフェルの口撃が辛辣すぎる。

 でも事実だからどうしようもないな。

 ただ俺も自分が敵を襲った時に田中さんみたいなのがいたら、そう言いたくなる気持ちは分からんでもない。

 あんな超大量のレーザーを雨のごとく撃ち込んでくるとか対応のしようがない。


「田中さん、あの障壁を壊せますか?」


 驚いていたアルメテルさんだが、もう受け入れたのか普通に話しかけてる。

 ……あれ?そういや俺以外の命令って聞くのかな?

 様子を見ていると田中さんはアルメテルさんの質問に頷き、腕に極太レーザーブレードを発生させ、一瞬で移動しニゲルの作り出していた魔法障壁を一瞬にして破壊した。

 ガラスが砕け散るような音が響き、ニゲル達の顔色が明らかに変わった。


「そ、そんな! 一千万エルクもした魔道具だぞ!?」


 ニゲルがめちゃくちゃ驚いてるけどそんなに高いものだったんだ。

 そんなものがあんなに綺麗に砕け散ると気持ちいいな。


「さて……ニゲル・カルニゲルさん。 覚悟はいいですか?」


「メインディッシュはアルに渡して、オレは周りの連中を貰うかな」


「ボクも暇だから周りの連中もーらい☆」


 明らかに怒っているアルメテルさんに火のついた戦闘狂が二人楽しそうに笑っている。

 多少強かろうと後ろに田中さんも控えいる以上勝ち目は無い。

 いざとなればルベド佐藤さんとアルベド萬太郎くんも喚べる。

 …………生きていられるといいな。

 俺は見守っておくよ。


 しばらく男達の悲鳴を聞きながら、今夜のご飯について考えていた。

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