二十八話
「ハルさんハルさん! これなんか可愛いと思いませんか?」
「ん? ああ、いいね。 鉄球にトゲがついてるなんて最高にイカしてるよ」
「ですよねですよね。 しかもほら。 こんなに重いから魔人族も簡単に倒せそうです」
神様。
おかしいです。
若い女の子にやけくそ気味とはいえデートに誘われて、来た場所が武器屋。
しかも彼女はモーニングスターを見て可愛いとおっしゃっています。
なんですかこれ?
何かの試練でしょうか?
全然嬉しくないです。
「やっぱり一撃が重い武器って憧れますよね。 私の場合細腕ですから、どうしても軽い武器になっちゃって。 ハルさんはどういう武器がお好みですか?」
「うーん……軽くて、痛くなさそうな武器、かな?」
「うふふふふ。 それじゃ敵を殺せませんよ」
そもそも殺しとか争い事が苦手なんですー。
え、なにこれドッキリとかじゃないんだよね?
女の子とのキャッキャウフフなデートじゃないの?
それともこの世界のデートって武器屋巡ってその殺傷力について語るもんなの?
「えっと……アルメテルさん? 一応、聞いていい? 今までその、男の人とデートとかしたことある?」
「い、いえ。 恥ずかしながら。 あ、でも幼い頃から男の人よりも武器についてや戦いについては勉強してますからよく話を聞きに来られる方もいらっしゃるんですよ」
オーケー分かった。そこで誇らしそうにその言葉が出てくる時点で育ちが特殊すぎると理解出来る。
モーニングスターに可愛いなんて言う時点で趣味が特殊なのも理解出来る。
「アルメテルさん。 ハッキリ言います。 これデートじゃない。 ただの戦闘準備をしている相棒ってだけです」
「え!? だ、だってデートって男女で仲良く買い物とかお食事をすることではないんですか!?」
「買い物のチョイスで武器屋は選びませんよ普通。 それこそ装飾品だったり、衣類だったりを見て、一緒に遊んだりするのが普通です」
「そ、そんな……で、でも装飾品なんて魔法付与でもされていないと邪魔ですし、服だってある程度派手で無ければなんでもいいと思いますし。 い、一緒に遊ぶってなんでしょう? トレーニングでしょうか?」
……この子の周りの人間はもう少し彼女に人間らしい生き方を教えてやらなかったのか。
ああ、幼い頃から聖女としての生き方を強要されたって言ってたもんな。
これはおじさんのエスコート能力を見せる時がきたな。
「トレーニングも大事だけど、息抜きですね。 アルメテルさんはもっと色んなものに触れるべきだと思う。 今日はリフェルのおかげで可愛い格好をしているんだし、その服にあうアクセサリーを探しに行きましょう」
「え、えぇ?」
まずは自分を着飾る楽しさをしってもらおう。
これだけいい素材なんだ。
女の子が綺麗になる楽しみを知ってもいいと俺は思う。
間違ってもモーニングスターに可愛いとか言わせたくない。
「つ、疲れました……普通の女の子ってこういうことをしているんですか?」
「いやぁどうでしょう。 今日は俺の押し付けみたいなものですからね」
日も落ちはじめ暗くなってきた時刻。
アルメテルさんに似合う宝飾品や衣類を探し、途中で甘い果物を買って一緒に食べたり、シエンタールで一番有名な小麦の精製場に行ってみたり。
最後のは俺が見たかっただけなんだけどね。
「今まで行ったこともない場所ばかりでした。 疲れましたけど、楽しかったです」
いい笑顔を見せてくれるアルメテルさん。
たぶんこれは本当にそう思ってくれている顔だと思う……思いたい。
なんせこちとら童貞を拗らせたおっちゃんなのだ。
彼女いない歴=年齢だから楽しませられるかも不安だし。
この表情が作ってるのだとしたらもう女の人信じられなくなっちゃう!
「それは良かった。 あとは送り届けるまでがデートですから、帰りましょうかね。 少し遅くなってしまいました」
「本当ですね。 今日は私が無理矢理ハルさんを連れてきてしまいましたけど、とても楽しくていつもより時間が過ぎるのが早く感じてしまいました」
楽しい時って時間が過ぎるのがあっという間だもんね。
そういう時間を是非とも増やしいほしいもんだ。
薄暗くなりはじめたシエンタールの町を教会に向けてゆっくりと二人ならんで歩いていく。
今日のアルメテルさんはリフェルに着飾ってもらったのもあってとても綺麗で、デート中も道行く人達がチラチラと彼女を見ている。
こんなことを言うのもなんだが、ニゲルが独占したくなるという気持ちも分からないでもない。
勿論彼女の気持ちが大切で無視してあんな横暴な手段に出ることなんて認められないけど、そこまでして手に入れたいと思うほどに入れ込む気持ちは男としてちょっとだけは理解出来る。
「そう言えばアルメテルさんはリフェルと随分仲良くなっていましたね。 教会だと礼儀正しい人が多いから新鮮に見えるでしょうね」
「ふふふふ、そうですね。 言葉遣いや礼儀作法なんか気にもしないけど、自分に正直で私のために親身になってくれたりして、その、とても……大切な友人です」
ああいう真っ直ぐな友人は得難いものだからなぁ。
……ちょっと物騒で口が悪いけど根はとてもいい奴だ。
出来ることなら二人ともそのままでいてほしいもんだ。
「あの……本日はその、迷惑じゃありませんでしたか? 急にこんな風にやけになってお誘いしてしまいましたけど」
「迷惑なんてとんでもない。 俺もこの町を散策したかったですし、アルメテルさんがいてくれたおかげで楽しかったです」
「そうですか……うふふふ、楽しんでもらえたと思うと、なんだか嬉しいですね」
「お互いに楽しめるのがデートってもんなんでしょうね」
おぅ……なんだか気恥ずかしくなってきた。
勢いに任せてここまでやってたけどよくよく考えたらデートっていえるデートはこれが初めてなんだよな。
うーん……いやでもちゃんとしたデートするならもっと気兼ね無くやりたいわ。
俺とアルメテルさんの護衛として後ろからずっとヘクトールさんとリフェルがついてきてるんだもの。
「……実はニゲルさんの言葉、ちょっと気にしてたんです」
「ん? 何か言ってましたっけ?」
「箱入りで逢引の一つも出来ないだろうっていう言葉です。 確かに私は聖女として生きてきましたから、何が普通かということも異性への関わり方もろくに知りません。 きっとそういう部分を見透かされていたのかもしれません」
「ああ……なるほど」
男女のショッピングの初手で武器屋だもんね。
普通と違うのは間違いない。
「でも今日で私は色々学べたと思います。 ありがとうございました、ハルさん」
「こちらこそ。 お役に立てたならなによりです」
しかし……今回のデート、色んな人に目撃されて多分あの勘違い貴族のニゲルくんにも情報が行くだろうけど、彼きっと暴走しそうだよな。
俺の方に来るなら良いけど、アルメテルさんやリフェルの方に迷惑をかけられるとウザいよなぁ。
実際教会でもあんな風に傍若無人に振る舞うんだし。
どうにか心をへし折っておきたい気もするけど……。
「貴様ァ! 我が忠告したというのに聖女を、我が未来の妻を誑かすとは何事だぁ!」
そんな事を考えていたら道向かいから鬼の形相をしたニゲルが部下らしき者をかなりの数引き連れて姿を現した。
全員武装している事を考えると間違いなく殺りに来てる。
隣をチラリと見るとアルメテルさんの顔が嫌悪を通り越して無になってる。
もうアレだな。完全にストーカーだし、これと結婚したら生活大変そう。
間違いなくモラハラ夫一直線だ。
殺すわけにもいかないし、どうするかなぁ。
※腰、やっちゃった(つд;*)
初めて腰をいわしたけど、こんなヤバいと思ってなかった……動けねぇw




