二十五話
なんかそんなに時間は経っていない筈なのに、めちゃくちゃ久しぶりに感じるクレリオ聖教会。
相変わらず青白い色合いのせいか町の中でも一際目立つなぁ。
なんというか悪い意味では無いけど、精神を清められて無理矢理改心させられそう。
俺の場合流されやすいからなぁ。
「あー……ここの、というかクレリオ教の教会ってなんというか浄化されそうで苦手なんだよねー。 私ってほら、性格悪いからさー」
「分かります。 俺もこう、やましい心をみすかされそうというか、真人間にされそうで」
「えーなになに、ハルさんにやましい心あるの?」
「そりゃあもう……色々とですよ」
表に出さないだけであんなことやこんなことをしたいと思ってますよそりゃあ。
男なんですもの。
あんまり突っ込まれたくないので礼拝堂に入ると、そこそこ朝も早い時間だというの結構な数の人が御祈りをしたり教会勤めの人らしき方々が信者の方と話をしている。
教会ってもっと人は少ないもんだと思ってたけど、結構な人の出入りがあるんだ。
……言っちゃなんだけど、正直日本で育って近所に教会もあったけど人の出入りなんてほぼほぼ見たこと無かったから、教会ってそんなもんだと思ってた。
神社なんかも年始に初詣に行く事はあるけど、それ以外で賑わってるイメージってあんまり無いもんな。
やっぱりこの世界は本当に神様……たぶん俺がイメージする神様とは違うだろうけど、神様が身近にいるからこういう場所も賑わってるのかな?
「おお、ハル様ではありませんか。 リフェル様と聖女アルメテルから此方へいらっしゃるだろうとは聞いておりましたが、これ程早くいらっしゃるとは。 ご案内いたしますよ」
「ペレグリンさん。 お元気そうでなによりです。 案内ありがとございます」
「いえいえ。 聖女アルメテルを救っていただいたのですからこれぐらいは。 それにその……大変申し上げにくいのですが、ハルさんにはもしかするとかなりの御迷惑をおかけするかもしれません」
…………なんて?
前半はいい。いや救ったのは実質エメリーさんだからそこの部分は俺にとってはあまり反応する部分じゃない。
気になるのは後半の言葉だ。
かなりの御迷惑をおかけするかもってなんで?
ペレグリンさんからはかなり苦労人な印象を受けるし、優しい感じだから嫌いじゃないけど面倒事はもうさすがに遠慮したいんだけども。
チラリとヘクトールさんに目を向けると、ヘクトールさんも「さぁ?」といった様子で肩を竦めてみせる。
「えっと、迷惑をかけるというのはどういう意味なんですか?」
「……そうですね。 先に説明しておきましょうか。 実は聖女アルメテルにとある貴族から婚約の話が来ているのですが、本人も教会側としても拒否しているのです。 相手は元々家格は高い貴族なのですが、ここ数年は落ちぶれていたのに最近はどうも力をつけてきているようなのです」
「え、それがハルさんとなんの関係が?」
ヘクトールさんが疑問を投げる。
まったくだ。今のところ俺に迷惑をかける要素が無いのだけど。
「……相手がここに乗り込んできた時にリフェル様が、聖女アルメテルには気になる相手がいるから婚約などしないと口にしてしまい、それを聖女アルメテルも認めてしまったのです」
「もしかしてその時に俺の名前を出したとか……まさかですよね?」
ペレグリンさんが気まずそうに顔を逸らした。
嘘だと言ってよ!
咄嗟の嘘に俺を巻き込むないでよね!
いやでもそれで納得したなら諦めてくれるのでは?
「あはー、ハルさん関係無さすぎて逆に面白いね! それでそれで? 相手はなんて言ってるんですか?」
「一旦は引き下がったのですが、やはり元々家格の高い貴族ですのでプライドが許さなかったのかハル様を探して聖女アルメテルに相応しい男か見極めると……彼はクレリオ教の教徒でもあり、金の力で時間のある教徒を使って貴方を探しているようなのです」
「……帰っていいですか?」
自分だったりアロスフィアさんやエメリーさんが発端の面倒事なら喜んで、いや喜びはしないけど、それでも全然受け入れられる。
けど他人が起こした騒動に巻き込まれるのはハッキリ言って嫌だ。
「これに関しては私はただ頭を下げるしか出来ません。 本当に申し訳ない」
くそぅ……ペレグリンさんはいい人だし、日本人としてこうやって申し訳なさそうに頭を下げられるとこっちがなんか罪悪感を抱いてしまう。
ここでの用事が終わったら即帰ってほとぼりが冷めるまで隠れよう。
うん、それがいい。
「ねぇねぇペレグリンさん。 因みに聖女様に婚約を申し込むなんて結構な馬鹿がやることだと思うんだけど、この町に住んでる貴族でしょ? 誰か聞いてもいい?」
「………………です」
「え? なんて?」
めちゃくちゃ言いにくそうな小さい声で応えるペレグリンさん。
よっぽど言いにくいんだろうに、気にせず聞き返すヘクトールさん。
前から思ってたけど、デリカシーどこに落としてきたんだ。
「ニゲル・カルニゲル様です」
「うぅわぁ……アレに? まあ婚約は成立しないだろうけど、これはハルさん見つからない方がいいね。 というかニゲルのお手付きがここにいるかもしれないなら、ここに呼ぶのってどう考えても悪手だよ。 せめて別の場所に呼んでくれないと」
ヘクトールさんがあからさまに嫌そうな声を出した。
ここまで嫌悪感たっぷりな声は初めて聞いた気がする。
そこまで嫌うなんて逆にどんな人なのか気になる。
「私もそう申したのですが、聖女アルメテルがどうしてもハルさんに御会いしたいというもので。 リフェル様だけであれば教会の外で会っていただくのですが、聖女アルメテルはあまり迂闊に外に出せなくなってきていますから」
「なになに。 ハルさん聖女様にも気に入られてるの? なにその人脈形成」
「俺はついでというかエメリーさんのおまけです」
金魚のフンみたいなもんだからな。
俺単体だったらそもそもこの教会に近づくことすらありえなかったし。
「それよりそのニゲル? って人はどんな方なんですか? ヘクトールさんがそんなに嫌うなんて珍しいですよね」
「一言で表すなら鬱陶しいかな」
「……あまり言いたくはありませんが、正にその通りかかと」
あー、分かっちゃった。
詳細な説明がないのに二人の声とペレグリンさんの表情でなんとなく察したよ。
要は面倒くさい奴だってことね。
ちょっとしか関わったことないけど、優しい雰囲気のペレグリンさんがこんなに言い淀みつつ否定しないとか絶対に録でもない奴だ。
そんな奴に目をつけられるどころか婚約を申し込まれるとかアルメテルさんも大変だな。
アルメテルさん苦しんでる時は幼くも見えたけど、幾つなんだろ。
相当な歳の差があったりすると余計にキツいだろうしなぁ。
リフェルに会いに来たのになんか嫌な展開になりそう。
※本編とは一切なんの関係もありません。
突然現れた謎の貴族ニゲル・カルニゲル!
無理矢理アルメテルを奪おうと立ちふさがる!
そんなニゲルの野望を打ち砕くのはニグレド田中!
見下し高笑いをするニゲルにニグレド田中が全力のビームを放たんとしている!
次回『穴の空いたニゲル・カルニゲル!』




