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十三話


 シエンタールを早朝に出て半日。

 スレイプニルの健脚で三十分は人間の歩きだとどの程度なのか、まだ到着しない。

 アロスフィアさんの家遠くない?

 こんな遠くても魔物の誘引が出来るとかどんな吸引力なのか。まあ近すぎたら戦闘が起きたとき巻き添えになってしまうだろうから遠い方がいいんだろうけど。

 いやでもこんな遠くても魔物だけじゃなくて攻めてくる敵国に対しても町の防波堤になってるって言ってたよな。

 どんな位置関係になってるんだ?


「もう少しだね。 今日は魔物もいないみたいだし良かったねおっちゃん。 怖い思いしなくて済んで」


 ニシシと笑うリフェル。

 そういう事言うのはフラグになるので勘弁してください。

 漫画とかゲームではフラグ建てた時ほど厄介なのが現れたりするんだから。

 

「おっちゃんの日頃の行いがいいからだろうさ。 リフェル一人ならきっと出てきてたな」


「いや自分で言うのはどうなのさ」


「確かに。 そういやリフェルは傭兵としては一人でやってるのか? 他の人と組んだりはしないの?」


「あー、オレはこういう性格だから他人と組むのが苦手でさ。 よく揉めちまうから一人なんだよ。 実際戦闘なんかも突撃するタイプだから他人と合わせるのが難しいんだよな」


 ちょっと恥ずかしそうに話すリフェル。

 性格的にはさっぱりしてて別に組みにくいという事は無さそうだけど。

 戦闘に関してはよく分からんけど、確かに難しい事は考えずぶった斬るって感じの性格ではありそう。


「リフェルの性格は別に悪くないだろ。 むしろ取っつきやすくて付き合いやすいと思うけど」


「そりゃあおっちゃんが穏やかな性格してるからだよ。 傭兵の男ってのは荒くれが多いし、女は女でジメジメした嫌がらせしてくる奴もいるし、いちいち気を遣ってやるのが面倒なんだよ」


「はぁー、傭兵稼業も大変なんだな」


「まぁな。 実際戦闘ってのは命を賭けた殺しあいだからな。 そういう状況で信頼出来ない相手に背中は預けられないよ」


 なるほど。戦闘中に背後から狙われたらどうしようもないもんな。戦闘中の事故って事にしたら犯罪としても立件出来なさそうだし……うわっ怖い。

 実際にそういう案件沢山ありそうだけど、そういう時に犯罪の証明ってどうやるんだろ。


「おっちゃんはお人好しだから強くて頼りになるなら相棒にしたいくらなんだけどな」


「はっはっは! おっちゃんはケンカもろくに出来ない弱々さんだぞ? 無理だよ」


「自分で言うなよ。 何かちょっとした魔法とか使えないのかよ」


「無理。 あ、いや魔法みたいなのはあるけどサポート専門というかなんというか」


 マーケットアプリは戦闘なんて無理だからな。

 そういやアルメテルさんを助けようとした時に全力で投げつけたけどヒビ一つ入ってないんだよな。

 頑丈すぎるだろ。元の世界のスマホなんて脆さの代名詞みたいなもんだよ。


「そっかぁ……まあ、もしあの屋敷をクビになったら言いなよ。 サポーターとしてオレが拾ってやるよ」


「それは助かる。 この歳でクビになると再就職も大変だからな」


「おう!」


 うん、いい笑顔。

 こういう活発系の女性とはあまり交流がなかったんだけど、歳下でフランクな感じがとても話しやすい。

 俺もちょっと楽しくなってきてる。

 …………本当におっさん臭いな気を付けよう。

 そんな事を考えていると隣から盛大な腹の音が聞こえてきた。


「……わりぃ。 朝は食べてなかったから」


 恥ずかしそうにするリフェル。いや別に生理現象なんだし恥ずかしくなる理由はないと思うんだが。

 いやでも昼も過ぎた時間だし、ずっと歩きっぱなしで俺もお腹空いたし休憩してもいいかも。


「別に気にしなくていいよ。 俺もお腹空いたし休憩するか。 ご飯食べよう」


「あん? おっちゃんご飯なんてもってないだろ」


「え、なんで分かるの?」


「だって何も匂わないし」


 判断基準そこかい!犬みたいな嗅覚してんのか?

 まあいい。

 ふっふっふっ。リフェルになら別に見せても問題無いだろうし、護衛のお礼も兼ねて良いものを選んじゃうぞ。


「さっき言ってた俺がサポーターとしての魔法を使えるってのを見せてやるよ」


 スマホを取り出しマーケットアプリを開く。

 初めて見る物体にリフェルも興味津々といった様子だ。

 さて、何を選ぶか。

 外だから調理とかの手間はかけられないから、出来合いの物にするか。

 ガッツリ食べたいし……メンチカツサンドとかいいな。

 メンチカツサンドを三つと麦茶を二つに……手を拭けるようにおしぼりを二つ。

 あ、らーめんサラダがある。これ美味しいんだよな。

 これも二つと。


「よし、注文完了」


「な、なんなんだこれ! 今何してたんだおっちゃん!」


「ふっふっふっ。 まあ見ていたまえリフェルくん」


 興奮気味のリフェル。

 見たこと無いものに対する興味が凄いな。

 楽しそうでなにより。

 すぐに目の前にダンボールが現れ、驚きのあまり一瞬で後ろに飛び退くリフェル。

 なんかアロスフィアさんの時の反応を思い出すな。


「大丈夫大丈夫。 食べ物を……えっと、あれだ。 召喚したんだ」


「た、食べ物を、召喚? 意味わかんねぇ」


 そりゃそうだ。そもそも俺もよくわかってないもん。


「まあ騙されたと思って食べてみなよ。 めちゃくちゃ美味しいから」


 ダンボールを開けて中身を取り出す。

 流石にサービスが行き届いているマーケットアプリさん。メンチカツサンドがホカホカである。

 らーめんサラダは常温で麦茶は冷えすぎていないちょうどいい温度。

 おしぼりもホッとする温かさだ。

 本当にいい仕事しやがるぜ!


「はい、これで手を拭いて」


「お、おう。 あったけぇな」


 この温かいおしぼりってついつい顔を拭いちゃうんだよな。昔はおっさん臭いと思ってたけど、今ではむしろ拭かないと落ち着かない。

 こちらの仕草を見てリフェルも同様に真似をして、スッキリしたのか目を輝かせている。


「開き方は分からないだろうから準備するよ」


 麦茶のペットボトルの蓋を開け、メンチカツサンドは箱入りなので箱を開け、らーめんサラダの蓋を開けてフォークを準備する。

 完璧である。


「これ、本当に魔法……なのか?」


「おう。 よしじゃあ食べるか。 いただきます」


「あ、おう。 貰うぜ」


 おっかなビックリといった様子でまずはメンチカツサンドを手に取り、少し躊躇った後に一気にかぶりついた。


「ん? ~~~~~~!? う、旨い! な、なんだこれ!?」


「メンチカツ旨いよな。 喉につまりやすいからちょくちょくその水分も取ってな」


 年相応とも言える可愛らしい表情を見せてくれると、ご馳走した甲斐があるというものだ。

 夢中でかぶりつき、喉につまりそうになると麦茶を飲み、またかぶりつく。

 ものの三分もしないうちに食べ終わった。

 結構なボリュームがあったけどあっという間だったな。


「こ、これ……もう一個、食べていい?」


「そう言うと思って一個多く買ってるからいいよ。 あとそっちの麺も食べてみなよ。 美味しいから」


「おう! た、楽しみだぜ!」


 らーめんサラダ。

 これは豚骨スープをベースにしたドレッシングにたまご風味のちぢれ麺とゆで卵、レタスやニンジン、コーンやきゅうりが入った食べやすいタイプだ。

 初めて見るであろうそれをフォークを器用な持ち方で食べ始め、またまた目を輝かせる。

 うーん……こういう姿は本当に可愛いな。


「う、旨い……旨いよおっちゃん! なんだこれ!」


 感動しながらも手が止まらない様子。

 でも流石に麺を啜るのは難しそうで、ちょっと苦戦している。

 ちぢれ麺だからまだフォークでも食べやすい方だけど、パスタとかだともっと苦戦しそう。


「俺も久しぶりに食べたけど、美味しいよな」


 掻き込むように食べ、気づけば全て胃の中に収めたリフェル。

 いくらなんでも食べるの早すぎるだろ。

 余韻に浸っている間に俺も食べ終えて、一息。

 黄金の小麦畑を見ながら、爽やかな風が吹く中でこういったご飯を食べるのはなんだかピクニックみたいだ。

 気温も丁度いいから眠たくなってくる。


「…………最高だったぜおっちゃん」


「おう。 リフェルが喜んでくれて何よりだ」


「また頼んでもいいか? というか毎日食いたいくらいなんだが」


「それは無理かなぁ」


「なんでさ?」


「使うのに色々と制限もあるし、基本的にはアロスフィアさんとエメリーさんに使うものだから……あ、あの屋敷の人達で、まあ俺のご主人様みたいなもんだ」


 ただでさえ半日のクールタイムもあるし個数制限もあるし、今の状況だと他の人に分配する余裕も無いんだよなぁ。

 

「うぁ……こんなもん食べたら他ので満足出来なくなるじゃねぇか」


 そう言われると確かに。

 いやでもこの世界のご飯も美味しくない訳じゃないからな。

 教会の朝食はなんか薄味だったけど。


「……あ、そうだ。 リフェル、ご飯を対価に依頼を一つ出してもいいか?」


「よし任せろどんどん任せろじゃんじゃんよこせさぁよこせ!」


 項垂れていたのも束の間、そう聞いた途端に凄い食いついてきた。

 というか顔が近い近い近い!

 もう少しで触れそうな距離とかやめて童貞にはキツイ距離ですよそれ。


「ええい、離れい! リフェルは俺がお金を取られたの見てたろ? 一応エメリーさんがあの二人組を手配してもらうように町の衛兵さんにお願いしてくれたらしいんだけど、リフェルも依頼の合間とかでいいから見つけてくれないか? 捕えたりとかは危ないから見つけるだけでいいから」


「よし、任せろ。 …………別にあんな雑魚二人危なくもないぞ?」


「他にも仲間がいるかもしれないだろ? リフェルが強いのはBランクってので分かるけど、それでも危ないことはあんまりさせたくない。 友達だからな」


「は、ぬるい奴だな。 っていうか勝手に友達認定すんなよ」


「え、駄目なのか!?」


 いやまあ勝手に友達っぽい関係だなあと思って認定しちゃったけど。

 若い女の子に友達認定はキモかったかもしれん。

 自重しよ。


「いや、別に駄目じゃないけど……」


 モゴモゴと恥ずかしそうにするリフェル。

 ははーん、さては友達とかそういうの口にするの恥ずかしいタイプだな。

 昔の俺もそういうの照れるタイプだったから分かるぞ。


「ああ、もう! とにかく分かった。 さっきの飯の為なら勿論やってやるさ!」


「おう、ありがとな。 でも無理はしなくていいからな」


「あいよ。 おっちゃんも私が見つけてくるまで死ぬなよ? おっちゃん甘すぎて変なことで死にそうだからな」


 茶化したつもりなんだろうけど、実際に甘さで死にそうになってるから笑えないんだよなー。

 しかし俺の自衛手段ってどうすればいいんだろ。

 ケンカは百歩譲って出来るようになったとしても、勝てるかどうかはまた別問題だからなぁ。

 そこも考えておかないと。






「つ、着いた……夕方になっちゃったか」


「なぁ、おっちゃん。 一応確認だけど、本当に入ってもおっちゃんは死なないんだよな?」


 アロスフィアさんの屋敷の周りの林にようやく到着した。

 あれから三時間近く歩き、日も傾き始めた頃合いである。

 スレイプニル達の足の速さに驚くばかり。

 今度またニンジンでご機嫌取りしておこう。


「大丈夫だよ。 また町に行くこともあると思うから、その時に時間が合えばいいな」


「おう、楽しみにしてるぜ」


 歯を見せて笑うリフェル。本当に気持ちのいい奴だ。


「あ、でも夜になりそうだけど泊まっていくか? たぶんあの二人なら許可してくれると思うけど」


「いやいやいやいやいや! こんなおっかない所に行くくらいなら帰るよ!」


 全力で拒否されちまったぜ。

 うーんアロスフィアさんもいい人だし、害意が無ければ通れるって言ってたからリフェルも大丈夫だとは思うんだけどなぁ。

 …………まぁ無理強いしても仕方無いか。


「分かった。 くれぐれも気をつけてな。 あ、あとこれは送ってくれた報酬な」


「え? 借りがあるからいいって……って金貨じゃねぇか、そんなにいらねーよ」


「いいから。 色々あって少し多めに貰ったから。 それでいい飯を探してくれ」


 背中ぶっ刺されて貰った金だけど、正直ちゃんと護れなかった申し訳なさの方が強いから俺の罪悪感を軽くする為にも是非貰って欲しい。


「……ほんとお人好しだな。 じゃあ貰っとくよ。 んじゃ、またなおっちゃん!」


「ああ、本当に気をつけてな!」


 リフェルはしつけー!と叫びながら走っていった。

 …………え、めっちゃ速くない?

 もしかして俺の足に合わせてたから時間がかかったのかな。

 あのスピードで帰れるなら日が完全に落ちる前に着きそう。

 侮りがたし異世界人の脚力。


「さて、やっと帰ってきた。 早く風呂はいって寝たい。 あとアロスフィアさんとエメリーさんとも話したいな」


 うっすら見える屋敷の明かりに妙な安心感を覚える。

 早く二人に会いたい。

 そんな、ちょっと恥ずかしいセンチメンタルな気持ちになっていることに自分でも驚くのだった。

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