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十一話

予約投稿の日を間違えて来週になってたよ(*´∀`*)w


「おほん。 えーっと、それでエメリーさん。 これからどうするんですか?」


「ふふふ、落ち着いたみたいですね。 まだ撫でていてもいいんですよ?」


「やめて本当に。 でもありがとう」


 一頻り涙を流して気合いを入れ直そうとしたのにそんな茶々をいれないでほしい。でも安心感がヤバかった。

 メンタルを病んだ時にはまたお願いしたいくらいには癖になる。


「二日もあればアルメテル様の解呪は終わりますが、このままだとまた呪いをかけられてしまうでしょうから、まずは犯人を見つけないといけませんね」


「それは確かに。 でも呪いを放ってきた相手って分かるもんなんですか? そんな抽象的なものを放ったっていっても言い逃れできますよね?」


「それは問題ありません。 呪いというのは効果が高い分、反動や失敗した時のリスクというものがあります。 あの呪い、名前を『絞扼魔蟲』というのですが、あれは失敗すると術者に返ります。 そしてその術式の仕様上恐らく術者は近くにいるでしょう」


 おー、流石専門家。格好いいな。

 でも術者が近くにいるってなんで分かるんだろ。

 俺なら呪ったら後はバレないように離れるけどな。


「なんで術者は呪いが発動したって分かってるのに逃げないんですか?」


「この呪いは経口で触媒を摂取する必要があります。 流石にこの教会の聖女様が口にするものに触媒を混入させるのは、中のものでないと難しいでしょう。 普通に発動させるなら魔蟲をそのまま食べさせるのですが、バレないようにとなると粉末状にでもして小分けに摂取する必要があります」


「ああ、成る程。 内部の人間が術者で、いきなり居なくなったらそいつが犯人って言ってるようなものですね」


 仕入れる食材にも仕込んだり出来るんじゃ、とも思ったけどそれだと食べた人達全員に呪いが発動しちゃうよな。

 持ち運びの時に混入させるのも、粉末状にして毎回入れるとなるとバレるリスクも高そうだし、となると内部の犯行って考えるのが自然なのかな。


「じゃあ内部の人で呪いが返った人が犯人?」


「とも言い切れませんね。 知らず知らず術者に仕立て上げられた可能性もありますから」


「え、じゃあ犯人を見つけるの難しすぎるんじゃ……」


 相手が操られてたり、知らず知らずって事だったら監視カメラとかがないこの世界じゃ犯人を見つけるのはかなり難しい気がするんだけど。

 術者が割れたら指示してた人も逃げるだろうし。


「そこは大丈夫です。 私に考えがありますので」


 自信あり気な笑みを見せるエメリーさん。

 うーん……まぁエメリーさんなら大丈夫かな?

 でも普段のエメリーさんだと安心だけど、ちょっと怪しいところもあるからなぁ。

 しかし二日かかるとなると、しばらくは付き添わないといけないのかな。

 アロスフィアさん放っておくのも何だか気が引ける。


「まずは先程の神父のペレグリンに教会の人間を全員集めてもらいましょう」


「え、呪いが返るのを待たないんですか?」


「時間の無駄ですからね。 さっさと片付けましょう」


 自信ありげな表情を見せるエメリーさん。

 なんか名探偵みたいで格好いいな。

 何も思いつかないけど、どうやって犯人を見つけるんだろう。

 アルメテルさんにはちょっと申し訳ないけどちょっとワクワクしてしまう。





「ご指示通り教会で働く者を集めましたが……一体どうされるのですか?」


 エメリーさんの指示でペレグリンさんが礼拝堂にスタッフ……じゃなくてこういう時なんて言うんだろう。信徒?教徒かな?

 ここで働く教徒を全員集めてもらったのだけど、思っていたより人数が少ない。

 合計二十人でこの大きさの教会を綺麗に維持しているなんて驚きだ。

 年齢層もバラバラで若い子供もいれば結構なお年寄りもいる。

 女性が十五人、男性が五人と女性の比率が高い。

 集められた人達はそれぞれ何事だろうという表情をしている。


「それでエメリーさん、ここからどうするんです?」


「簡単です。 私の魔眼で見るだけです」


「魔眼? おぉ……」


 魔眼ってなんだろうと思っているとエメリーさんの右目が色を変え、瞳孔が開いた。

 金色の瞳がアロスフィアさんのような深紅の色に変化し、瞳孔の周りに黒い輪っかのような紋様が二重三重に浮き上がってきた。


「呪いというものは相手と自分にパスが作られます。 呪いが発動するにはそのパスを辿って相手に負の感情が乗せられ、呪いが返される時にはそのパスを辿って逆流するのです。 私の魔眼は魔力の流れやそういったパスを見る事が出来ます」


 ……すげーな。

 名探偵かと思ったら推理も糞もない裏技感。

 いやこの場合はエメリーさんが超絶有能すぎて推理するまでもない状況だったのか。

 そらあんなに自信満々の表情になる訳ですよ。


「いましたね。 そこの貴方、聖女様の食事か何かに触媒を混入させましたね。 聖女様に呪いを与えたのは貴方です」


 エメリーさんが容赦なく指を指したのは男性。

 そこそこ歳のいってるガッシリとした身体つきの男性で、いかにも優しいおじさんといった印象を受ける。

 こんな人があんな陰湿な呪いを?


「な、なんですか急に!? お、俺は何も知りませんよ!」


「言い逃れは無駄です。 貴方と聖女様の間にパスが出来ているのはこの眼で分かります。 既に呪いも対処したので呪いが貴方に返ってくるでしょう。 そうすれば言い逃れも出来ませんよ?」


 エメリーさんの言葉に周囲の人達が男性に信じられないといったような視線を向けている。

 同僚がまさか聖女様を害するなんて普通考えられないよな。

 ……今更だけど聖女様ってどのくらい偉いんだろ。


「くそっ!」


「待ちなさいランドルフ!」


 ペレグリンさんが男性、ランドルフさんを呼び止めるも静止を振り切って礼拝堂の出口へと駆け出した。

 呪いが返ってくれば自分が犯人だとバレるし、返ってきたら自分が苦しんで死ぬことになる。

 ならアルメテルさんを直接殺すつもりか?

 追いかけないと、と思った次の瞬間。

 エメリーさんがいた場所から静電気が弾けるような音がしたと思ったら、いつの間にかランドルフさんの目の前に立っていた。


 ランドルフさんも驚いた様子を見せるが、懐から肉厚のナイフを抜きエメリーさんに向けて突き出した。

 鈍く輝く刃が刺さればいくらなんでもエメリーさんが死んでしまう。

 が、その考えも杞憂で終わった。

 ランドルフさんの手首を掴み取り、そのまま捻り上げてゴキリという骨が折れる音がした。


「ああああ! くそっ! 離せ!」


「煩いですね。 暴れるようならここからもう一捻りいきますよ」


 折れているのに更に力を込めるエメリーさん。

 酷い……けど命を奪おうとしたのはランドルフさんだ。

 当然の報いと言えば当然だ。


「ランドルフ、なぜこんなことを……」


 ペレグリンさんが信じられないといった様子でランドルフさんを見ている。

 ランドルフさんからすれば自分のところの教徒が聖女を呪い殺そうとしたなんてかなりの大問題だし、それ以上に裏切られたようで辛いのかも。


「ペレグリン卿は、あの女がやった事を知らないはずがないだろう! あの女は私の娘を! 村を見捨てたんだぞ!」


 おっと何か込み入った事情がありそうだ。

 見捨てたとは一体……?


「それは違う……見捨てた訳ではない。 ただ、あの方の力が及ばなかっただけだ。 決して見捨てた訳ではない」


「違う! 聖女の力とは強大なものだ! 村の人間を全て、娘も救えたはずだ!」


 なんか分からないけど言いがかり臭いな。

 ただ、ランドルフさんの声から確かな怒りを感じる。

 これは説得でどうこう出来そうにない気がする。

 こんなに剥き出しの怒りの感情を見るのは初めてだけど……怖いな。


「貴方に何があったのかは知りませんし、興味もありませんが絞扼魔蟲の触媒をどこから手に入れたのかは気になりますね。 あれはそう簡単に準備出来るものではありません」


「ふん……どれだけ痛めつけられたとしても私は喋らんぞ」


「そうですか。 まあこのまま組合に引き渡すので取り調べは組合の連中が行うでしょう。 あの連中は……というよりこの町の傭兵組合には私よりも優しくないのがいますから、その強気を持ち続けられるといいですね」


 尋問でもするのかと思ったけど、あっさり引き下がったエメリーさんはランドルフさんの後頭部に拳を落として意識を刈り取った。


「まさかランドルフがあの事をここまで根に持っていたとは」


 ペレグリンさんが悲しそうにランドルフさんを見てそう呟いた。

 村がどうこうとかいう経緯をペレグリンさんは知っているのか。


「ハルさん。 私はこの男を組合に引き渡してきます。 ここで待っていてください」


「あ、はい。 分かりました」


 軽々とランドルフさんを抱えていくエメリーさん。

 自分より一回りは大きい男を片手で担いでいくなんて凄い力持ちだ。

 そんな会話をしているといつの間にか集められた教徒の人達はペレグリンさんの指示で散っていた。


「ペレグリンさん……話せないなら別にいいんですけど、あのランドルフさんとやらが怒っていた村の件って何か聞いてもいいですか?」


「そう、ですね。 今回解決していただいたお礼も兼ねて……なにより聖女様を誤解されては困りますから話しておきましょうか」


 ペレグリンさんはそう言うと近くの長椅子に腰を下ろし、隣に座るように促してきたので従うと、少しずつ話し始めた。


 三年前。

 ランドルフさんが住んでいた村をかなり強い力を持った魔物が襲ってきたらしい。

 村の人間では対応出来ない程に強い魔物で村の人間の半数以上が重症、一割は死亡というかなり悲惨な状況だったらしい。

 そこにやってきたのがアルメテルさん。

 重傷者達にとにかく癒しの魔法を片っ端からかけ続けていたと。

 本来のアルメテルさんなら村の人数程度なら全員回復させても魔力が尽きることはなかったらしい。

 実際に過去にも相応の数を癒した実績もあったそうだ。

 しかしその時は半数程度で魔力が尽き、他のクレリオ教徒が強制的に治療を中断させたそうだ。

 結果、ランドルフさんみたいな人達が聖女が途中で治癒を止めたと勘違いしたとの事だ。


「その時はなんで魔力が足りなかったんですか? 過去にもっと多くの人を癒したことがあるのに」


「……聖女アルメテルが村へ向かう最中に、村を襲った魔物が彼女達を襲ったのです。 かなりの強さでアルメテル様を警護する為に腕利きの教会騎士を護衛につけていたのですが、それでも苦戦するほどでその戦いの中で魔力をかなり消耗していたのです」


「ああ、そういう……」


 村を襲った魔物を相手に戦い、その後も傷ついた人達の為に癒しの魔法を使い続けて限界が来たと。

 人間である以上限界はあるだろうし、どう考えても八つ当たりじゃないか。


「その事をランドルフさんは知っているはずなんですよね?」


「はい……しかし、ランドルフは聖女の力が尽きるはずはないと考えていたようです。 娘を失ったこともその考えを後押ししてしまっているようですが……ただランドルフがあそこまで感情的になるとは思っていませんでした」


 娘や友人を失う苦しみは経験したことないからランドルフさんの気持ちは理解出来ないけど、だからといってアルメテルさんを殺そうとするその気持ちは否定したい。


「……部外者なんであんまり変なことは言えないですけど、頑張ってください。 その、色々と」


「ええ、ありがとうございます」


「あ、最後に聖女様に挨拶していってもいいですか?」


「ええ、呪いの件を解決してくださったのです。 聖女アルメテルも喜ぶでしょう」


 ペレグリンさんに頭を下げてその場を後にする。

 多分これから大変だろうなぁ。

 聖女の立ち位置はいまだに分からないけど、もし相当上の立場だったらそれこそ自分の監督下で起きた事件だから責任問題になるだろうし。

 ……俺だったら心労で禿げて胃に穴があくかもしれない。

 頑張ってペレグリンさん。

 どこか落ち込んで小さく見える背中に心の中でそうエールを送っておいた。





 

 

 アルメテルさんの部屋の前までやってきて気付いたことがある。

 普通に考えて女性の部屋に男一人で入るのって普通に問題じゃね?

 なんで誰も付き添わないの?さっきの出来事が衝撃すぎて皆警戒緩めすぎじゃないかと思うよ本当に。

 俺が女性の寝込みを襲うような変態だったらどうするつもりなのか。


 ……落ち着け俺。

 ちょっと声をかけて帰るだけだからね。

 うん、ちょっと動揺してた。


「失礼します。 少し落ち着き……」


 部屋に入って目に入ったのはアルメテルさんの側に立つ一人の男性。

 俺が入ってきた事に驚いたような表情を見せる。

 この人はたしかあの礼拝堂にいた男性のうちの一人……なんでここに?

 その手には抜き身のナイフが握られている。


「ちっ! 組合の雇った傭兵がまだ残っていやがったか!」


 男がナイフを振り上げた。

 何をするかは見て直感でなんとなく分かった。

 アルメテルさんに止めを刺す気なのだと。

 犯人は一人じゃなかったのか。

 そんな考えが頭の中を過り、身体は動いていた。

 入り口からアルメテルさんの位置まで距離がある。

 そのまま走っても振り下ろすまでに間に合わない。

 咄嗟に懐に入っているスマホを男に投げつけると、真っ直ぐに飛んだスマホが男のこめかみに直撃した。

 痛みで少しは時間を稼げるかもしれないけど、倒せる訳じゃない。

 稼いだ時間で男に飛びついて押し倒したけど、抑え込もうにも相手が大柄で力負けしそうだ。


「このガキ! 離しやがれ! この女は村の連中を見殺しにしやがったんだ!」


「は、話しは聞いたけど! どう考えても八つ当たりだろそれ!」


 踠く男をなんとか抑えたいけどこれは難しそうだ。

 自分の貧弱さがこんな時に疎ましい。


「あ、アルメテルさん! 動くの辛いかもしれないけど逃げて! 長くは抑えてられないから!」


 今の騒動で目が覚めたのか起き上がった様子が視界の端に映った。

 たぶん今の状況が意味分からないと思うけど、襲われているということはきっと分かってくれるはずだ。

 というかマジで早く逃げてほしい。

 でないと俺も逃げられないんだけど!


「えっ……え?」


「くそっ、いい加減離れろこいつ!」


 抑えていたナイフを持った腕を拘束から外された。

 一瞬、自分の血の気が引くのを感じた。

 まずい、まずいまずいまずいまずいまずい。

 次の瞬間、自分の背中に肉にナイフが突き立つ感触が襲ってきた。

 痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 ナイフで刺されるってこんなに痛いのか!

 逃げたいしのたうち回りたいけど、今手を離したら男がアルメテルさんの方に行ってしまう。

 今まで苦しんだアルメテルさんにこれ以上の苦しみを与えるのはダメだ!


「離せこいつ!」


「いっ……!? アルメテルさん、お願い早く! だれか、呼んできて!」


「このっ! 離せ離せクソがっ!」


 一刺し、二刺しと何度もナイフが背中に突き立つ感触が気持ち悪くて血と胃の内容物も吐きちらし、刺される度に力が抜けていく。

 駄目だ……意識もどんどん薄れてきてる。

 あ、走っていく足音が聞こえた。


「待ちやがれ!」


 乱暴に自分の身体が引き剥がされ、床に放り投げられた。


 

 ……アルメテルさん……この部屋からにげられれば……きっと、なんとか……なるかなぁ。

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