70話
さらに一ヶ月後。
ついにレオンハルト様と籍を入れ、公爵邸を出る日が来たのである。
この日までは、使用人たちが今後どうするかはなぜか教えてくれなかった。おそらく、当日までどうするか各々考えていたのだろう。
大量の馬車、そして御者までも雇っているようで公爵邸の庭が馬だらけ。
次から次へと荷物が荷台へ積まれていく。どうなっているのだろう。
「ミリア。予定どおりに私たちは乗馬で向かう。もちろん、馬はライトちゃんに担当してもらうが」
「はい。またよろしくね、ライトちゃん」
ライトちゃんは遠乗り後も大事にしていたため、私の愛馬となったのだ。ライトちゃんの顔を撫でてから馬具を装着した。
「さて、大規模な引越しになるが、心残りはないか?」
「大丈夫です。みんなとは挨拶もしましたし。でも……」
「でも?」
「誰一人お見送りしてくれないのは寂しいですね……」
レオンハルト様が首を傾げて不思議そうな表情をしていた。
「知らなかったのか?」
「へ?」
「ここで働いていた使用人は、アエル以外全員ミレニガンへ向かうことになっている」
「え⁉︎」
「さすがにアエルは王女だからな。王都に残る必要がある。だが、彼女には今後公爵邸の使用人リーダーとして全てを任せている」
そう言われてみれば、アエル王女と挨拶をしたとき、彼女だけが大泣きをしていた。
これからは公爵邸を守っていくからいっぱい帰ってきて欲しいなんて言われていたっけ。
「全員とは、ガイムさんもですか?」
「そうだ。ガイム、メメ、そして使用人たちも皆一緒だ。すでに公爵邸使用人としての新人も集めてあるから問題はない」
「知りませんでした……。でも、よくみんなついてきてくれましたね。王都から遠い場所なのに」
「ミリアについていきたいという理由だろう。私だって、ミリアと一緒でないと嫌だし。気持ちはわかる」
場所は変わるが、これからも今までどおりに仲間のみんなと使用人ライフを送れることがわかって、ホッとした。
そして嬉しかった。
「幸せです」
「そうだな。ミリアはもっと幸せになってほしい」
そう言いながら、レオンハルト様は私の手をギュッと握ってきた。続きはこの後で……。
二人でライトちゃんに乗り、使用人たちとは別々に行動しミレニガンを目指す。
ジェールリカ村へ遠乗りしたときのことを思い出すなぁ。
王都にしばらくの別れを告げ、レオンハルト様の手綱捌きで出発する。
今回も私の背中はレオンハルト様のガッシリとした胸に預けた。
長らくありがとうございました。
これにて区切りが良いので一旦完結とさせていただきます。
今作は11/10に発売されます。
書籍版もどうぞよろしくお願いいたします。




