62話
「レオンハルト様が退治したおかげですね」
「ミリアがいてくれたおかげだよ」
「え?」
「あのとき、私一人だったら、無視して素通りしていた。ミリアが恐がっていたから、ムキになって戦ってしまったのだ……」
「がっ……」
変な声を出してしまった。これは、『俺のミリアになんてことをしやがるんだ!』といった感情から行動に出たものかもしれないと思ってしまったのだ。
もしそうだとしたら嬉しいが……。
「ほう、やはりそうだったか。二人とも。応援しておる」
国王陛下がニヤリと微笑んだ。すぐに表情は戻り、手綱を手に取る。
「大至急この手綱で調査を始める。その場所付近一帯も騎士団に調査させよう。少なからず、猛牛の飼い主くらいは特定できるはずだ」
「助かります。ミリアを恐がらせた罪は重いので……!」
レオンハルト様が笑顔でいながら怒っているようだった。これは間違いなく本気で怒っている。
絶対に怒らせてはいけないタイプだ……。
「レオンハルト君……。犯人を捕まえたとしても、殺すようなことはせぬようにな」
「努力します。ミリアを危険な目に遭わせたことは絶対に許しませんが」
「う……うむ……」
国王陛下までも引き気味だ……。
「私は元気ですし、平気だったのですから、変な気を起こさないでくださいね!」
「だが、ミリアのことをどうにかしようとしたかもしれない相手を……」
「レオンハルト様が汚れたら嫌ですよ? お気持ちだけで充分嬉しいですからね」
「ミリア……」
私のために怒ってくれるのはとても嬉しい。
だが、度が過ぎる行動だけは避けてもらいたい。レオンハルト様と、ずっと一緒にいたいのだから。
「こほん。他にはなにかあったかね?」
国王陛下が再び尋ねてくる。ここ最近濃い毎日を送っていたから順番に思い出していく。
「あ! そういえば!」
「なにか?」
「事件とは関係ないと思いますが……。お茶会のときに公爵令嬢から聞いたお話ですが、公爵邸の周りに黒い服を着た恐そうな男たちとアルバス伯爵邸のシャルネラ様が一緒にいたという目撃情報を聞きましたよ」
「あぁ。その話か。ガイムからも聞いていたが、ミリア殿も気になったのであれば、やはり調べる必要がありそうだな」
「シャルネラ嬢と言えば……。もう一点私からも報告がございます」
「うむ……」
レオンハルト様は、お父様に届いていた手紙を国王陛下に渡した。
「この字は、シャルネラ嬢が書いたもので間違いないという話です。国務に関することを利用し、ミリアの父親を脅迫されていました」
国王陛下がじっくりと手紙を読んでいく。徐々にその表情は強張っていき、先ほどのレオンハルト様とはまた違ったタイプの恐さをもっていた。
やがて、起立の姿勢で待機している護衛たちに怒声を放った。
「至急シャルネラ嬢をここに連れてくるよう伝えよ! むろん、アルバス伯爵もだ!」
「は、はい!」
これは大変なことになりそうだ……。
だが、お父様を脅迫したことに関しては、私も頭にきている。できることならば彼女にはお父様に対して謝罪してほしい。
「ふぅ……ミリア殿には本当にすまないことをしたと思っておる」
「な、なぜですか?」
「アルバス伯爵の使用人シャルネラ嬢の噂をもっと早く知っておく必要があった。ミリア殿が一番の被害者だろう……」
確かに今思えば酷い毎日だったと思う。朝から夜中まで働かなければ終わらない日々だったし、買い物も全力疾走を余儀なくされていた。
今同じことをしろと言われたら、断ってしまうと思う。
それくらい、公爵邸での使用人ライフが居心地が良すぎるのだ。
「得たものもありますから使用人生活に関しては気にしていませんよ」
「ふぅ……ミリア殿はどこまでお人好しなのか」
「ただ、お父様に対して送った脅迫のような手紙は許せません。どれだけ苦しんで悩んでいたかは見たときに気がつきました」
「うむ。すでに二人には罰を与えている状態だ。おまけに国務がらみで問題を起こしたのだ。これは相当な制裁を受けてもらう必要がある。むろん、夫であるアルバス伯爵もな」
あとは、王都で人攫いをしているという犯人が捕まってくれればいいのだが……。
国王陛下も仕事が大変なのに、問題ごとをさらに抱えて四苦八苦しているのだなと思ってしまった。また会う機会があったら、そのときは揉み解しをして元気になってもらおう。
使用人生活のおかげで、多方面で役立ってきていると実感できて嬉しかった。




