61話
レオンハルト様とともに、王宮へ来た。
私も王族と同じ権限を持てるメダルを授かっていたおかげで、王宮内も楽々素通りである。
今思うと、ものすごいものを戴いてしまったのだなとつくづく思ってしまう。
謁見もすぐ開くことになり、私たちは応接室で待っていた。
「久しぶりだな。社交会以来か」
「ご無沙汰しております国王陛下」
「お久しぶりでございます伯父様」
私とレオンハルト様は椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。
「今日は非公式の場だ。そう固くならずとも良い。座ってくれたまえ」
陛下が上座の椅子に座ってから私たちも着席する。さっそく国王陛下は深刻な顔を浮かべていた。
「さすがに参っておる……。まさか王都で立て続けに人攫いの事件が発生するとはな……」
「概ねの話はガイムから聞きました。我々がジェールリカ村へ行っている間に深刻な状況になっていたのですね」
「あぁ。しかも君たちも命を狙われるような事件があっただろう。こうも連続して事件が起こると、夜も眠れぬほど処理に負われる」
国王陛下は大きなため息をはきながら、そのあとも連続してため息を……。これはそうとうなまでに疲れている。
「あの……陛下。気休め程度にしかなりませんが、全身のマッサージをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ミリア殿がか?」
「はい。公爵邸の使用人たちの間でやっているマッサージです。ある程度の疲労回復は見込めますが」
「どれ……試しにお願いしよう」
あっさりと承諾された。それだけ国王陛下は疲れているのだろう。
使用人たちにやっているプランと同じように、揉みほぐしとソフトな圧をかけてマッサージしていく。
「これは……すごいな。公爵邸ではいつもこのようなことをしているのか?」
「はい。任務には含まれませんが、使用人たちの間で独自にやっているケアです」
「素晴らしい。さすがレオンハルト君の使用人たちはひと味もふた味も違う」
「伯父様が羨ましいですな。私も実のところやってもらったことがなくて」
「今度やりましょう」
レオンハルト様の顔が急激に赤らめていく。ここでのろけるのはまずかったかもしれない。
だが、国王陛下は気持ち良さに圧倒されているようで気がつかなかったみたいだ。
「助かった。王宮で雇っているマッサージ師よりも優れている。ぜひとも騒ぎが解決したら、教育してほしい」
「は、はぁ……」
王宮で雇っているプロよりも上手いだなんて言われてしまった。そんなわけがあるはずもない。
公爵邸だけでなく、国王陛下までもが褒めて伸ばすタイプなのだろうか……。
「さて、ずいぶんと元気にさせてもらったから本題へ入りたいのだが、ミリア殿は疲れていないか?」
「私は平気です」
「そうか。実は、貴族令嬢を狙った人攫いの、犯人に関する情報が少しづつだが入ってきている。特に、レオンハルト君のところに仕えている名執事ガイム殿のおかげだが」
ここでもまたガイムさんが出てきた。本当に彼には頭が上がらない。
「君たちを呼んだのも、どうやら命を狙われるような事件と関係があるようでな。詳しく聞きたい」
「そうでしたか。あのときはミリアが危険かと思い、あとのことはガイムに任せてしまいましたが正解だったようですね」
「間違いないと思う。ミリア殿が拐われていた可能性も十分に考えられる」
いざ、自分が狙われていたのかもしれないと思うと、恐くなってきた。防衛のために、ガイムさんから弓の訓練も習っておきたいと思うくらいだ。
「その後、旅をしている最中に変わったことはなかったか?」
「「ありました」」
「ほう……」
レオンハルト様が、持ってきている鞄の中から大きな手綱を取り出した。
「それは?」
「私たちに襲ってきた猛牛に装着されていた手綱です」
「襲われただと⁉︎」
レオンハルト様が、王宮から離れた平野で、誰かが飼っていると思われそうな猛牛に襲われたことを詳しく話してくれた。
そうか、わざわざ手綱を持って帰ってきたのは、なにかの証拠になるかもしれないからだったのか。国王陛下は、手綱を見ながら首を傾げていた。
「これは……、もしやイーノック商会の馬具屋でしか販売していない手綱か?」
「やはりそうでしたか。この特殊な模様はそうなのではないかと思っていまして」
「たしか、あの馬具屋は全く同じ絵柄の物は作らないはず。もしも、襲ってきた猛牛と王都での事件が関係していれば、これは大きな手掛かりになるかもしれん」
レオンハルト様はものすごい功績を残したのかもしれない。つい、微笑んでしまった。




