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59話 Side中編

「安心して良い。おまえのような全く使い物にならないような女に用はないんでね!」

「あ、あなたたちはいったい……」

「おっと、これ以上俺たちのことを話そうとするならば一緒にアジトまで来てもらうことになる」

「う……」

「もう少し情報を俺たちに提供すれば見逃してやらなくもないぞ?」

「な……なにを話せば良いのです?」


 シャルネラも自分の身を守ることに必死だった。黒服の男たちは明らかに危険な人物であると認識できたのだから。


「この公爵邸には有能な使用人がわんさかいるのだろ? 俺たちはそういう奴らを連れ去り、他国で高く売る仕事をしている」

「な……⁉︎ だったら、どうして私を真っ先に拐わないのですか!」


 シャルネラは自身を守る以上に、プライドを傷つけられた。出来ないなりにも、表向きには誤魔化し続け万能使用人として名を轟かせていた。

 だが、悪人とは言え、全く使い物にならないと言われたことには許せなかった。


「あぁ、少し前まではおまえも連れ去る候補に入っていたさ。だが、情報は早いんだよ。全く無能で雑。そんなやつを連れ去っても買取どころか、引取料を取られちまう……」

「きーーーーーーーっ!」

「おまけに、おまえはまんまと言っちゃいけねーようなことを喋っちまうからな。全くもって……いらん!」


 シャルネラは深く傷ついた。今まで積み上げて誤魔化してきたものを、全く無関係の人間にまで知られてしまったのだから。


「く……ミリアさんさえこんなところに来なければ……」

「……そいつ、俺たちが捕まえてやっても良いが?」

「え?」


「あ、兄貴。良いんですかい?」

「構わんだろ。そのかわり、おまえがたっぷりと情報を俺たちに教えてくれればな。出来る使用人は、高く売れる……」


 シャルネラは少しだけ悩んでいた。いくらなんでも、悪者に対して情報を露呈すれば、自分もただでは済まないだろうと。

 だが、ここで逃げたらシャルネラ自身の命も危険かもしれない。


 ミリアを捕まえて伯爵邸で隔離し、いずれときが来たら領地へ連れ出して使用人として働いてもらうのも有り。

 むしろ、この公爵邸で散々厳しい生活をしているのだろうから、助けることにつながるのではないだろうか。

 シャルネラは、そう確信した。


「わかりましたわ。ミリアさんさえ伯爵邸に戻ってきてくだされば目的は達成できますし。それに、私よりも出来る使用人はこの王都にいられると困りますし……」

「いや、それってつまり女全員ってことだろ? さすがにそこまでは人攫いしねーよ」


「きーーーーーーーっ!」

「俺たちからもとっておきの情報を教えてやるよ。そのミリアって奴、ここの当主とデキているって情報が入っている」

「え……? それは困ります!」


 シャルネラにとって衝撃的だった。

 これでは確実にミリアを自力で連れ戻すことなど不可能だと分かったからだ。なおさら、黒服の男たちすらも頼らざるをえない状況にまで追い込まれた。


「だから俺たちが捕まえればおまえにもメリットがあんだろう?」

「そ、そうですが……」

「その分、おまえは他の使用人の情報、つまり貴族令嬢の情報を教えてくれれば良い。これは取引だ」

「……わかりました。私の知っている範囲であれば」

「思ったよりもおまえ、役にたつじゃねーか」


 シャルネラは、このときばかりは嬉しく思ってしまった。

 今まで誰かの役に立てたことがなかったのだ。だからこそ、必要とされている気分を味わえたことに喜びを感じてしまった。

 たとえ相手が悪党だと分かっていても。


 シャルネラと黒服の男たちは、一時その場を離れ、人のいない場所へ移動し会話を続けた。

 シャルネラは、次々と知っている範囲で使用人たちの情報を教えてしまったのだった。


「ほう? ミリアはそんなに強いのか」

「えぇ。私が手を出そうとしたとき、あっさりと投げ飛ばされてしまいましたからね……。あれ以来恐くて手出しだけはできなくて」

「なるほど」


「あと、ミリアさんは自身で気がついていなかったようですが、馬の扱いも上手いですね。もしかしたら公爵邸で乗馬を習って、買い物には馬で出かける可能性もあるかと」

「ほう」

「あとは、アエル第三王女の情報もありますわ」

「素晴らしい!」


 シャルネラは、男たちが褒めるあまり、どんどん情報を提供してしまった。


「おまえはすでに俺たちの立派な仲間だ。いつでも協力してやる」

「あ、ありがとうございます」

「アジトは王都から馬を使って三日ほど進んだ場所にある。猛牛を手名付けていてな、そいつを使って通行人の令嬢たちをさらっているのさ」


「私もそこを通るときは気をつけますわ」

「何度も言うが、おまえを捕まえる価値はねぇ」

「ま、俺たちの仲間だ。そんなことはしねーさ」


 シャルネラは複雑な気分だった。いつの間にか仲間扱いされてしまった。

 気がつかない間に悪者の味方になってしまったのだから。


「俺たちがここまで情報を教えている意味、わかるな?」

「へ?」

「裏切って喋りでもしたら、当然命はないと思うことだ。いや、命を失うよりももっと屈辱的な目にあうだろう」

「ひ……」

「ってのは喋ったらってことだ。俺たちも仲間だと思った奴には手なんか出さねーよ」


 シャルネラは、絶対に誰にも喋らないことを決意した。

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