57話
「ん、んんんんん……」
「大丈夫ですか?」
「あ……。私」
「浴槽内で睡眠は命に関わります。私が近くで見張っていたから気がついたものの……」
メメ様はホッとため息をはいていた。公爵邸に帰ってから、やらかしすぎだろ私……。
「申しわけございません!」
「いえ、そこまで頭を下げなくても良いのですよ。よほどお疲れだったのは知っていますから」
「気をつけます」
「良いのですよ。今回はミリアさんの行動を予測して準備万全にしておきましたし。ただ、今後浴室を使われる場合、私がそばにいないこともあると思いますから、そのときは気をつけてくださいね」
「さすがに専用浴場をお借りすることはもうないと思いますが……」
「むしろ増えるでしょう。ミリアさんと主人様は毎日……」
「あっ! テントが無くてレオ……主人様と一緒にテントで過ごす日々でしたよ……」
メメ様がニヤリと微笑んだ。
「性格上、お二人ともなかなか行動に出ませんからね。このままではいつまで経っても手すら繋がないかと思いまして」
「もしかして……」
「はい。申しわけないとは思いましたが、テントはあえて入れませんでした。もちろん主人様のテントがどれくらいの規模か確認したうえでの行為でしたけれどね」
心の中で、メメ様に大感謝している。毎晩レオンハルト様と一緒に過ごせたからこそ、今まで以上に彼のことを好きになっていた。
それぞれ別々で寝ていたら、ここまではならなかった。
「怒っても良いのですよ?」
「そんなことはしません。むしろありがとうございます」
「いえ。行き過ぎた真似をしたとは思っていましたが、結果的に良い方向に向いたようでホッとしています」
一度メメ様は離れ、冷えた水を持ってきてくれた。ゆっくりと飲み干し、火照っていた身体が少しづつ冷めていく。
「至れり尽くせり申しわけございません。明日からはしっかりと使用人業務を再開したいと思います」
「……残念ではありますが、ミリアさんは業務をお休みしていただく必要があります」
「え? そんな……」
「もっと重大な案件をやっていただく必要があるからです。すでにアエル王女もそちらの件に関わっていまして、王宮に帰られています」
使用人業務を止めてまでやらなければいけない案件とはなんだろう。
アエル王女も関わるくらいだから、重大なことくらいはわかるが、果たして私に務まるのだろうか。
「どのようなことをするのかご存知ですか?」
「ここを出発された際、馬の進行の妨げになるような事態になったでしょう?」
「あぁ……、そう言われてみれば」
「王族の者及び王族同様の権限を持つミリアさんが巻き込まれた以上、放っておけません。国の総力を上げて捜索をしています。そのため、ミリアさんと主人様には、王宮から調査の協力要請が届いております」
出掛けている間にとんでもないことになっていたのか。
たしか、王都を出た直後にも猛牛に襲われた。そのことも報告したほうが良いのかな。
私はその辺はよくわからないからレオンハルト様の判断に任せてしまうとは思うが。
はぁ……。せっかく帰ってきたのに使用人業務ができないなんて……。
私はその事件を起こした人たちに対して怒りを覚えた。




