52話
「美味い。こんなに美味い料理を食べたのは何年ぶりだろう……」
久しぶりということで、私が夕食の料理を作ったのだ。
材料は、この村で獲れるという新鮮な野菜や山菜を使わせてもらった。使用人で鍛えてきた成果というよりも、この土地で採れた作物が素晴らしすぎるから美味しいような気もする。
私とレオンハルト様も一緒に食べているのだが、はっきり言って普段食べている物よりも美味しい気がした。
「素晴らしい。ジェールリカ村で獲れた作物は大変素晴らしい!」
「お褒めに預かり光栄です。自然豊かな領地を任されたおかげであります」
「素晴らしい作物に素晴らしい料理人。これ以上の味を作るのは不可能だろう」
「さすがに褒めすぎです! それよりも、お父様の屋敷には使用人はいないのですか?」
「雇えるほどのお金はないからね。全て自分でやっているよ」
お世辞にも、綺麗な屋敷とは思えない……。部屋数はそこそこあるため、お父様一人では全てをカバーすることができないのだろう。
ずっと使用人として働いていたから、どうしても気になってしまうのだ。
「よろしければ私が掃除しますよ」
「いやいや、払えるようなお金はないのだよ?」
「そんなものいりませんよ。親子なのですから、気にしないでください」
「しかし……」
「公爵邸で鍛えられた腕前をお父様に見てもらいたいのです」
それっぽく理由をつけて説得した。さすがに納得してくれたようだが、これは全力でやらなければ。
幸い何日かはジェールリカ村に滞在することになっているし、明日は一日かけてしっかりと綺麗にしてしまおう。
「では、明日すまないがよろしく頼むよ」
「はいっ!」
子爵邸で泊まるわけだが、お父様は部屋を二つ用意してくれていた。レオンハルト様とは別々の部屋で寝ることになるのだが、ここで違和感が……。
何日も狭いテントでレオンハルト様と一緒に寝ていたため、一人でベッドに横になることがものすごく寂しいと思ってしまったのだ。
テント内では多少触れたりすることがあったものの、男女としてのなにかがあったわけではない。レオンハルト様が紳士に対応してくれたため、より安心感がある。だからこそ、一緒に寝たいという気持ちが強くなってしまった。
これはかなりマズい気がする。公爵邸に戻ったら、一緒に寝ることなどできないのだから。
モヤモヤしながら、久々のベッドで横になった。




