49話
「髪が濡れたままではないか。それに服だって……」
いつも寝ているときに着る服装である。とは言っても、肌の露出はなく、普段着よりも薄いというだけだ。隠さなければならない箇所はしっかりと隠れている……と、思ったら、少し濡れていて透けていた。
「あ……」
やらかしてしまった。大急ぎで胸元とおなかより下の部分をうまく隠す。すでに見られてしまったけれど。
「私以外の男には決して見せるな! 絶対にその格好で公爵邸をうろつかないでくれ」
「気をつけます……」
レオンハルト様は顔を真っ赤にしながら川へと向かった。
まだそういう身体の関係などないのに、見られてしまった。恥ずかしすぎてそのまましばらく動けなかったくらいだ。
一旦落ち着け、私!
ひとまず今日からジェールリカ村へ着くまでの寝るスタイルを考えなくてはならない。
テントは無いし、ライトちゃんのそばで寝ることに決めた。馬と一緒なら、ぬくもりを感じることもできるし幾分か暖かいはずだ。ライトちゃんとの絆はバッチリだし、寝ている間に蹴られてしまう心配もほぼない。
そうと決まれば準備をしなくては。せめて葉っぱをかき集めて、土のうえで寝ないようにしなければだ。準備を始めようとしたら、もうレオンハルト様が戻ってきた。
「なにをしているのだ?」
「寝床を作ろうと思いまして、葉っぱをかき集めるところです」
「そんなことはしなくても良い。テントで寝て構わない。私が外で寝る」
「さすがにそれはダメです。レオンハルト様のテントなのですから」
「ダメだ。ミリアが外で寝たら風邪をひいてしまうかもしれない。私は何度も遠乗りをしているし、そこそこ鍛えているから平気だ」
「いえいえ、テントをお借りするわけには……」
「とにかく使ってくれ」
こういうとき、レオンハルト様は頑固である。気遣いは大変嬉しいが、これは概ね私が最終確認をしなかったのがいけなかった。
メメ様からは、確認しなくて良い(むしろ確認しないでと言われていた)と言われていたため、つい……。
「せっかくテントを設営したのに意味がないでしょう……」
「ミリアが使ってくれれば意味がある」
「もう! だったら一緒に寝ますか!」
「な⁉︎」
あ、勢いで本音を言ってしまった。これでは私が誘っているみたいではないか……。
だが、レオンハルト様は紳士だし、恋人になってからもなにも発展していない。今回も絶対に一緒にテントを使おうなどとは言わなかっただろう。状況が状況だし、レオンハルト様が外で寝られてしまうよりはマシだ。
「ミリア……。私も男なのだよ。この意味が分かるか?」
「はい。しかし、レオンハルト様が外で寝られるというのなら、一緒にテントを使ったほうがこのあとの長旅を考えたら最善策かと……」
仮になにかあったとしたら、それはそのときだ。健康第一。
それに、なんだかんだでレオンハルト様が一時の感情で暴れるようなことはないと思っている。多分。
「おのれ……メメめ……」
「え?」
「まったく……。メメには帰ったらお仕置きをさせねばだ。ミリアよ。私がなにか変な行動をしようとしたら、覚えた護身術で逃げるように」
「そんなことしませんよ。どんなレオンハルト様でも受け入れるつもりです」
「おい、それをこれから一緒にテントを使う前に言わないでくれ」
レオンハルト様が首を傾げ、顔を真っ赤にしながらテントへ向かっていく。
私も一緒にテントの中へ……。
二人だと思ったよりも狭い。元々一人用のテントだし無理もないか。
だが、決して寝られないわけではない。むしろ外よりも暖かいため、冷える心配は回避された。
「ミリア……」
「はい?」
「いや、なんでもない。すぐに寝る」
「はい。おやすみなさいませ」
レオンハルト様がすぐ真横にいる状態だが、私はあっという間に寝てしまった。
乗馬に慣れたとはいえ、長距離を高速で走ったのは初めてだ。身体中が筋肉痛になりそうだし、疲れていた。
レオンハルト様、暖かい寝場所を提供していただき、ありがとうございました。