48話
とんでもないことになってしまった。
二人でライトちゃんに乗るだなんて想定外すぎる。
王都を出て、ここからは平原がずっと続くわけだが、レオンハルト様とずっと密着状態で移動となるわけだ。
「うぅ……うううううぅぅぅぅっ!」
「大丈夫か?」
「いえ……。ダメかもしれません」
「酔ってしまったのか⁉︎ 休憩しなけ――」
「いえいえ、体調は大丈夫なので、このまま進んでください」
緊張とドキドキでいっぱいなのだ。むしろこの幸せがずっと続いてほしいとすら思ってしまう。
だが、先ほどの事件もあり、ガイムさんと馬も心配だ。私たちもこの先なにかあるんじゃないかとすら思ってしまうくらいだ。
幸い、レオンハルト様が私のそばにいるから、彼に守られているような感覚にすらなってしまう。
少しだけレオンハルト様の胸に私の背中を預ける。心地よくて、安心してきた。
平原をひたすら進んでいく乗馬デートが始まった。
♢
途中から、乗馬訓練も含めて私が手綱を握り、進んでいく。
ジェールリカ村までの道のりはかなりあるものの、川が流れていてその周りには食べられるキノコや木の実、草もあるため、人馬ともに飢え死にすることはまずない。
後ろを振り返ると、王都がわずかに見えるかどうかくらいの景色の場所で止まる。今日は、ここで野営となる。これも初めてのことでワクワクだ。
「今日はここまでだな」
「はい。ライトちゃん、明日もよろしくね」
ライトちゃんが嬉しそうに声を出し、私は撫でてから馬具を全て取り外した。ライトちゃんは頭が非常に良く、放牧しても逃げたりすることもまずない。
「本当にミリアとライトは仲が良いな」
「ふふ……ライトちゃんが可愛いですもの」
「まさかこんな短期間で遠距離移動も可能になるほどの技術を身につけるとは。恐れ入ったよ」
「レオ……ンハルト様の教えが上手だからですよ」
私は、久しぶりにレオンハルト様のことを名前で呼んでみた。
今は使用人業務ではないし、前々から名前で呼んでくれと言われ続けていた。少しだけ緊張しながらだったが、しっかりと彼の耳には届いただろう。突然のことだったからか、一瞬だけ驚いた素振りを見せて、顔を掻いていた。
「不意打ちはズルいと思うのだが……」
「ふふ……。遠乗りデートですからね」
「そ、そうだ。誰もいないから二人っきりのデートというわけだ……。さ、ともかく寝るためのテントを設営しよう」
「はい」
外も徐々に暗くなってくる。その前にテントを出して寝る支度をしなければならない。
もちろん、レオンハルト様と私はそれぞれテントを持ってきている。持ってきた荷物は全て、メメ様が用意してくれた。
遠乗り用の荷物はなにも持っていったら良いかわからなかったため、全てお任せしてしまった。メメ様の準備ならば、不備や忘れ物などがあるわけがないだろう。
ここでようやく、メメ様が荷造りしてくれたリュックを開けたのだが……。
「あれ……、ない。……⁉︎ ない!」
「どうした?」
「テントがない……」
「なっ⁉︎」
ここで、遠く王都からメメ様のクスクス笑っている顔が浮かんできたのはなぜだろう。
「ど……どうしよう、せっかく設営のやり方も教わったのに」
「問題はそこではないだろう!」
発言もおかしくなるほどパニック中。長旅で外で寝る旅人もいるにはいる。
だが、夜はひんやりと冷たい風も吹く季節の中で寝るのは風邪をひいてしまうかもしれない。
さて、どうしよう。
「少し待っていろ。ひとまず私の持ってきたテントを設営してしまう」
「はい……」
私はやることがないため、レオンハルト様のテントを設営する手伝いをした。
二人でやれば早い。出来上がったテントは、一人で大の字になって寝られるくらいのスペースがある。外側から虫が侵入しにくいような構造にもなっていて、それなりに居心地よく寝ることができるだろう。
さて、早く仕上がった分、日が暮れるまで時間がある。落ち着くためにも頭を冷やしたい。
「川で水浴びしてきてよろしいですか?」
「構わない。私はここにいるから行ってくるが良い」
「ありがとうございます」
綺麗な川だ。川底までハッキリと浸透していてうっすらと私の顔が水面に反射して見えるくらいである。
服を全部脱ぎ、川で洗濯をしてから自分の身体も綺麗に磨く。少々寒いが、これくらいならまだ序の口だ。
リュックの中には着替えはしっかりと入っているため、それに着替える。レオンハルト様も水浴びをするだろうから、すぐにテントのあるほうへ戻った。
「お待たせしました」
「ん。……ミリアよ、それは反則だろう……」
「え、なにがですか?」