46話
「やれやれ……。ミリアさんは万能使用人ですな。すでに護身術ができているではありませんか」
「へ? これが護身術だったのですか?」
訓練として、ガイムさんが襲ってきたところを私が投げ飛ばすという訓練だった。ガイムさんから教わったやり方は、かつてシャルネラ様をうっかり投げてしまったときの行為とほとんど一緒だったのだ。このやり方だったら、簡単にできる。
最初の一回目の訓練でガイムさんを綺麗に投げたのだ。
「まさか自己流でここまでしっかりとできるとは。さすがに今回は私もお手上げですな」
「え……では訓練は無しということですか?」
「ミリアさんは基礎体力も充分ありますし、この投げ方ならば相手の力をうまく利用できていますし大丈夫でしょう。だとすれば、私が教えできるのはその先の訓練になりますゆえ……」
「その先の訓練は私に教えていただけないのですか?」
「使用人には教えていません。唯一、主人にだけ教えています」
それは剣術や槍術といった、本格的な戦闘用の技術らしい。実戦で使うことなどないだろうが、興味はある。
「覚えたいのですか?」
「できれば」
「ダメです。これは怪我のリスクが非常に高いためお教えするわけにはいきません。大事なお身体を傷つけるわけにはいきませんから」
こればかりは断られてしまった。剣術の訓練でレオンハルト様も何度か軽い怪我をしているらしい。
「主人の許可なしではこればかりはご遠慮ください」
「わかりました……」
「そうガッカリすることもありません。ミリアさんの護身術の技量がそれだけあれば、主人と二人で遠乗りされても安心です」
「そんなにですか?」
「ご自身では気付かれていないようですが……。実戦のとき、私は最初から本気で襲うつもりで向かいました。しかし、見事に破れたのです。こんなこと今までありませんでしたのに……」
「気がつきませんでした……。手加減してくれていたのかと」
「ほっほっほっ。この公爵邸は、そんなぬるくありませんよ。最初にどれだけ危険なのか、自分の身を守るにはどうしたら良いのかをわかってもらわなければなりませんからな。心を鬼にして毎回本気で倒しにいきますので。私も今一度鍛えなくてはですな」
私の護身術訓練はわずか一日だけで終わってしまった。
当日の後日談。
訓練の最中、見学していた使用人がみんなに報告してしまったらしい。最初からガイムさんを投げ飛ばしてしまったことが使用人たちの間で噂になってしまい、すぐにメメ様の耳にも入ってしまった。
「シャルネラさんの無茶苦茶な教育についていけたたまものですね……。でも、シャルネラさんの部下など、なりたくありませんが」
ついに、メメ様からも呆れられてしまったのだった。




