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43話

「ミリア様は今日も主人様から呼び出しですか?」

「え⁉︎ えぇ……」


 ここ最近、毎日レオンハルト様から呼び出しを受けている。

 内容は使用人業務とは全く関係ない。ただ一緒に時間を過ごすという恋人としてのお付き合いをしているわけだが、事情を知らない使用人たちは当然このように聞いてくるのだ。

 さすがに誤魔化すのも限界がある。

 今日聞いてきた使用人は、ニコリと微笑んでそのまま去ってしまった。これってもうバレているのではないだろうか。私は心配になりながらレオンハルト様の扉を開ける。


「もうバレそうです……。どうしましょう」

「そうか。もう少しだけ皆にはバレないようにしたかったが……」


 レオンハルト様に、真っ先に相談した。メメ様には、すでにバレているような気がすることも話す。すると、レオンハルト様は軽く頷き、なぜか謝ってきたのである。


「すまない。実は、メメは最初から知っていたのだ」

「え⁉︎」

「今回、使用人の皆には黙っておくように決めるキッカケをくれたのもメメなのだよ」


 どういうことなのか全くわからない。

 ここ最近、メメ様が異常に私を外に出そうとしなかったことと、なにか関係があるのだろうか。

 さすがに今回ばかりは事情を聞きたいと思う。


「今は私たちが交際している情報が関係者以外に漏れないほうが良い。念のために……だ」

「なにか危険があるのですか?」


 心配になってしまった。

 レオンハルト様の身に危険が迫っているのかもしれない。彼に危険があるのならば、交際自体を延期したほうが良いのかもしれないとも思ってしまう。

 そのことを言おうとしたのだが、先に口を開いたのはレオンハルト様だった。


「ここ数日、何者かは調査中だが、この公爵邸に監視の目が入っているらしい」

「え……」

「メメが最近買い出しに出ているだろう? 毎回何者かにつけられているそうだ。ミリアが一緒に買い出しに行ったときも、使用人たちで出たときもだ。公爵邸の近くに不審な人間がうろついているという情報も掴んでいる」


「物騒ですね」

「主に、あの社交会があった日からだ。もしかしたら、ミリアの高い評価を妬んだ者の仕業かもしれないし、もしくはたまたま偶然にこのタイミングで公爵邸を恨む者が命を狙ってきているのかもしれない。情報がまだわからない以上、特に交際していることが外に漏れるのはマズい。仮に私を狙う者だとしたら、ミリアにまで被害が及んでしまうからな……」


 やたらと交際のことを黙っているように言われていたこともこれで納得した。主に私のためだったなんて思いもしなかった……。


「そうだったのですか。使用人たちにも黙っているということは……」

「疑うのは本当に申しわけなく思う。だが、可能性がゼロではない以上、安易に公表するのはマズい。リスクは最小限に留めておいたほうが良い」

「うーん。ここの使用人たちはみんな優しいですし、なにか裏があるような人はいないと思いますけどね……」

「私もそう思っている。あくまで念のためだ」


 ますます交際のことがバレないように気をつけなきゃ。


「実のところ、一度白紙に戻しほとぼりが落ち着いたらにしたらどうかとメメからも心配されてしまったくらいだ。だが、さすがに断った」

「へ?」

「ミリアを絶対に手放したくない! これだけは絶対に譲れない」

「あ、あの……その……。ありがとうございます……」


 大事な話をしているのに、つい照れてしまった。

 同時に、脳内で激しく反省をした。レオンハルト様は、なにがあっても私と距離をおこうとしなかった。


 だが、私は一時的に距離を置いたほうが良いかもしれないなどと考えてしまったのだ。なんという愚かな考えをしてしまったのだろうと……。

 情けなくなって、少量の涙を溢しはじめた瞬間、レオンハルト様がグッと私を抱き寄せてきた。


「なぜ泣く?」

「私自身が情けなくて、です。主人様はこんなにも私のことを大事にしてくださるのに……」

「大事なのは当たりまえだ。たとえどのような困難があろうとも!」


 レオンハルト様が、やや強い口調で怒ってきた。突然のことだったから、驚いてしまう。


「ミリアは立派で相手想いで華やかで、そして綺麗だ。仮にミリア自身で情けないと思っていたとしても、周りから見ればそう思うことはない」

「はわわわわわ……」

「ミリアには元気で笑っていてもらいたい。その姿を私はずっと見ていたい……」


 余計に涙を溢してしまった。本音だけで言えば、レオンハルト様と一度でも距離を置くだなんて嫌だ。周りが邪魔をしてきて、引き裂かれる運命なんてごめんである。

 現状どうなっているのかがわからないのに、私が勝手に妄想しただけで勝手に考えていたことだ。


 しかし、レオンハルト様はどんな状況でも私を手放そうとはしなかった。メメ様も私を守ろうとしてくれて動いている。

 それだけ大事にしようとしてくれているのだ。

 アルバス伯爵邸にいたころ、こんなにも大事にされたことなどなかったし、公爵邸に来てからはみんなが私のことを気にかけてくれる。嬉しかった。


 今までのことを考えていたら、涙が止まらなくなってしまう。強がっていただけなのかもしれない。

 レオンハルト様は、ずっと無言で私の頭をよしよしと撫でてくれていた。

 私もレオンハルト様の胸元を借りて、気が済むまで涙を溢した。


 アルバス伯爵邸での大変だった生活も、今日で思い返すことはもうやめよう。

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