40話
レオンハルト様からは、馬の操縦をして買い物に行く許可をもらえた。
ただし、かなりの心配をされ、必ずメメ様の言うことを聞くようにと忠告されたが。
馬車の準備を私がして、出発の準備が整った。
「たった一日だけのレッスンで、もうここまで準備ができるのですね。さすがミリアさんです」
「主人様の教え方が上手だったから覚えやすかったのですよ」
「ミリアさんに対しての指導は、そうとうなまでに熱がこもっていたようですね」
「ほえ⁉︎」
「まるで特別な存在だからというような指導だったのでしょう」
これは、やばい、ヤバイ、ヤヴァイ!
メメ様が私たちの関係を早くも勘づかれているようだ。私は大慌てで誤魔化した。
「あ、ほほほ……、ほら。私、この前の社交界で王族としての権利を授かってしまったわけですし……」
「そういえばそうですね。なおさらミリアさんに怪我をさせるわけにはいきません。私も責任を持ってしっかりとミリアさんのことを指導しなければ」
しまった。むしろメメ様に対して余計な責任感を与えてしまったのかもしれない。
「もしも落馬などの事故が起きた場合は、私も打ち首の覚悟をもって――」
「そんなことしなくて良いですから! 馬に乗り辛くなってしまいますよ……」
「それくらい大事な任務なのですよ。アエル王女相手でももちろんそうですが、王族と同等の権利を持っている相手に怪我をさせるわけにはいきません」
「えぇ……どうしよう……」
どんなに気をつけていても、事故は絶対に防げるものではない。シャルネラ様は、何度か落馬してしまい擦り傷を作ったことがあった。私も覚悟を決めて乗馬するつもりである。
だが、怪我をして周りの人たちが責任を負ってしまうのなら抵抗がある。
「言い方を誤りましたね。申しわけございません。それくらい身体を大事にしなければいけない立場であるということを覚えておいて欲しいのです。主人様もそれだけ厳しく安全面では気を配っての熱血ご指導だったのでしょう」
「良かった……。では、打ち首処刑なんてことはないのですね?」
「主人様がそれを望まれたらありえますが、あのお方はそういうことは望まないでしょう。もちろん、私がミリアさんのことを故意に落馬させて怪我をさせたとなれば話は違いますけれどね」
「そんなことをメメ様はしないことくらい分かっていますよ。でも、私の不注意で怪我をしないよう気をつけます。もちろん、馬にも怪我などさせないように操縦しますから!」
「ふふ。自分だけでなく生きものに対しての気配りもできるのですね。安心しました。それでは行きましょうか」
どうやら、私とレオンハルト様が恋仲であることは、バレていなかったようだ。今後もボロを出さないように気をつけなければ。絶対に!
無事に買い物も済ませ、荷台にたくさんの食料を積んで公爵邸に戻ることができた。
「ミリアさんの技量ならば、一人で買い物に行くことも可能でしょう。ですが、もうしばらくは私も同行できるようにしましょう」
「ありがとうございます!」
「それに……、少々気になることもありましたからね」
「はい? なにか私の操縦で問題がありましたか? 教えてくださると嬉しいのですが」
「いえ。ミリアさんの操縦ではありません。ですが……」
メメ様はそれ以上教えてくれることはなかった。ものすごく言い辛そうな顔をしていたし、私も聞くのはやめておく。
なにかあったのかな。