37話
「では馬乗りの練習を始めようか」
「主人様自ら教えてくださるのですか?」
「あぁ。これもデートだ」
照れることを言わないでほしい。教えてもらうからには真剣にやるつもりだが、より緊張してしまうではないか。
「デートと言っても、乗り方を間違えたり落馬したりすると命を落とす危険もある。決して気は抜かないようにしてほしい」
「はいっ! 教えてもらうことは全て厳守します」
「よし。では、ひとつ心得てほしいことがあるのだが、私たちは馬という生き物に乗せてもらい、運んでもらう。馬を道具と考えず、パートナーとして接してもらいたい」
「はい、心得ておきます。主人様は優しいのですね」
「いやいや、むしろ当然のことだよ」
当たりまえのように言っているが、意外と馬車をただの乗り物として思っている人も多いのではないだろうか。
少なくともシャルネラ様は馬に対して、完全に道具扱いだったな……。馬の操縦ができることは凄いと思っていたけれど、よく馬を怒らせていたっけ。シャルネラ様が帰ってきてから、私が馬をなだめることをよくやっていた。
そのため、馬と関わりが全くないわけではない。おかげでレオンハルト様の言っていることもすぐに納得できた。
「ではやってみよう。決して馬の後方には立つな」
「蹴られたら命に関わるのですよね?」
「そうだ。人間の脚力の比ではないくらいの力があるからな」
さっそく、私はこれから乗せてもらう馬の正面に近寄り、顔をそっと両手で撫でる。気性も穏やかそうで、人に慣れていそうな馬だ。
「思ったよりも手慣れているな」
「はい。伯爵邸で馬の世話は時々やっていましたので」
「そうか。ならばすぐに乗り方を教えても問題なさそうだな。馬に装着させる馬具の使い方や取り付け方も知っているのか?」
「教わったことはありませんが、取り付けと取り外しはできます」
「思いのほか、すごいな……。では試しにやってみてくれ」
私は久しぶりに馬具を装着する。
本当に気性が穏やかで素直に言うことを聞いてくれる優しそうな馬だ。この子となら、友達になれそうな気がした。
「手綱も完璧だな。ならば実践といこう。何度も言うが、決して無理をせず歩くことから始めよう」
「はい」
レオンハルト様の厳しめな乗馬レッスンを受けて、日も暮れようとしていたころ、私はすでに乗りこなせるようになっていた。馬との相性もバッチリで、仲良くなれたような気もする。
「一日でここまで乗れるようになれるとはな。さすがだ」
「いえ、主人様の教え方が大変わかりやすかったからですよ」
「そうか……。だが、絶対に無理はするな。何度か練習し、慣れてもらえれば、ジェールリカ村へ向かえるようになるだろう」
「楽しみです」
レオンハルト様とほぼ二人っきりでの乗馬レッスンもあっという間に終わってしまう。かなりの運動だったが、楽しいデートだったと思う。
ただし、寝る前になると事態が急変。太ももからお尻、腰あたりが激しい筋肉痛に襲われてしまった。
これは慣れないと連日の長距離移動に耐えられそうにないな……。なるべく馬乗りを日常的にできるようにしよう。