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36話

 使用人業務が終わり、レオンハルト様の部屋に入る。


「ミリアよ。昨晩は徹夜したそうだな?」

「申しわけございません。どうしてもすぐに書かないといけない手紙がありましたので」

「縁談……か」

「はい……」


 レオンハルト様がイラッとしたような表情を一瞬だけした。すぐに弁明する。


「もちろん全て断るつもりですよ。ただ、正式にお断りするにしても遠くに住んでいるお父様からの返信と許可が必要なので、先にその旨を書いた手紙を書いていたのです」

「なるほど。気遣いは素晴らしいな。ところで、何件縁談が来ていたのだ?」

「昨日だけで八件でした。今日も来ているそうでして……」


「は、はち⁉︎ そんなにたくさんの返信を一晩で書いていたのか」

「はい。なるべく早いほうが良いかと思いましたので」


 今日もたくさんの手紙が届いている。メメ様が覚悟しておいたほうが良いという理由は分かった気がした。

 徹夜禁止令が出てしまったため、明日の休憩中に書くことになるだろう。ところが、レオンハルト様がなぜか頭を下げてきた。


「迷惑をかけてしまいすまない。交際していることを公開してしまえば縁談の話も減るはずだった」

「気にしないでください。手紙を書くこと自体は苦ではありませんし、しっかりと誠意をもってお断りします」

「本当に誰に対しても心配りがしっかりしているのだな。だが、無理はしないでほしい。徹夜などせず、空いている時間に少しづつ書くようにしてもらいたい」

「はい……。心配おかけして申しわけありませんでした」


 深く頭を下げて謝罪した。使用人業務に支障はなかったものの、眠い素振りは何度か見せてしまったため、メメ様がすぐに気がついたのだ。

 もう徹夜はしないこともしっかりとレオンハルト様に告げる。


「寝るときはしっかりと寝るように。不規則な生活は身体を壊しやすくしてしまうからな」

「はい……」

「ところで……だ。私との交際に関してはミリアの父親に報告したのだろう?」

「はい。書状にその旨も記載してすでに送ってます」


「緊張してきた」

「なんでですか⁉︎」

「私との交際を認めてくださるかどうか……」


 レオンハルト様は、こんなときだけは後ろ向きらしい。

 何年もご無沙汰してしまっているが、お父様が理不尽な縁談を突きつけてくるとは考えにくい。それに、レオンハルト様は王家の親族だ。身分的にも人柄的にも申し分ないと思う。

 ただ、お父様は家柄でどうこう考えるような人ではないとは思うが。

 そのこともレオンハルト様に伝え、心配しないよう話した。


「人柄的にもって……。ミリアにそう言われると照れるものがあるな」

「本当のことですからね?」

「ありがとう。それにしてもミリアの親はジェールリカ村の領主だったか。馬を走らせても一週間はかかる距離か」

「全然会えませんからね……」


 寂しい感情が、少しだけ顔に出てしまった。レオンハルト様はすぐに察してしまったようで、心配しながら聞いてくる。


「会いたいのか?」

「まぁ……、会えるなら会いたいですね」

「よし、決めた」

「はい?」

「会いに行こう」

「はい⁉︎」

「私もミリアと勝手に交際させてもらっている。一度挨拶をしたいと思っていた」


 その気持ちは大変嬉しい。

 だが、馬車で移動したら往復で一ヶ月以上公爵邸を開けることになってしまうだろう。

 レオンハルト様が言っていた馬乗りで移動しても往復二週間はかかる。


「ミリアは馬乗りはできるか?」

「いえ、未経験です」

「ふむ……。ミリアが良ければの話だが、覚えてみる気はあるか?」

「興味はあります!」


 乗馬はしたことがない。

 ただ、馬の操縦もできるようになれば、今後使用人としての業務にもメリットがある。買い出しにでかけるときに馬を使えば効率が良いのだ。


「ミリアも操縦できるようになれれば、一緒にジェールリカ村に行けるようになる」

「むしろ、良いのですか?」

「実現できれば、二人きりの旅行だな」

「ひゃい⁉︎」


 レオンハルト様は顔を赤らめながら頬を掻く。私は想像しただけで恥ずかしくなってしまった。

 幸い、冒険ものの小説で登場するようなモンスターは存在しない。道中には動物がちらほらといるだろうが、夜は火を炊いておけば危険は少ないと思う。盗賊団なんてものも滅多にいないくらい平和な世界だし、二人で旅行することも可能だ。


「ミリアは次の休みは二日後だったな? その日に馬乗りの練習をしてみるか?」

「はい! 是非ともお願いします」

「体力を使う。何度も言うが、決して馬乗りの前日に徹夜や無理をしないように」


 よほど私のことを心配してくれているのだと思う。手紙の返事は徐々にすることにして、無理はしないことにした。

 乗馬ができるようになれば、食材の買い出し担当も任せてもらえるかもしれない。なんとしてでも技術を身につけよう。

 ところで、誰が教えてくれるのだろうか。思い出したときには自室へ戻ったため、聞きそびれてしまった。

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