34話【Side】追い込まれたシャルネラ
社交界でシャルネラ本来の仕事技量がバレた。
もはやシャルネラは誤魔化し通すことができず、途方に暮れながら掃除をしている。
「これが……本来のシャルネラなのか!?」
「う……うぅ……。忙しすぎて死にそう」
アルバス伯爵は、想像以上の仕事の悪さを見て呆れていた。
すでにシャルネラに対しての愛情も薄れてきている。
「なにを言っているのだ。私のほうが手も動いているではないか。この期に及んでサボろうとして弱音を吐いているのではあるまいな!?」
「そんなことはありません! 妻の私を疑うのですか!?」
「事実、私を騙してきていただろう」
アルバス伯爵にとって、実は仕事ができるミリアを失ってしまったことを激しく後悔していた。
その発端がシャルネラだと思っているため、あたりが強くなっている。
だが、実際のところはアルバス伯爵の監督不行届も原因だった。
アルバス伯爵もまた、自分自身の非は認めようとしていなかったのだ。
「なにを言っているのですか! 陛下は監督不行き届きだとも言っていたではありませんか!!」
「責任をなすりつけるな。そうやってミリアにも責任を押し付けていたのか。くそう……こんなことさえハッキリとしていれば……」
「していればなんなのですか?」
「シャルネラなどと結婚などしなかった!」
「ひどい。ひどすぎます!」
シャルネラと結婚したことによって、地位や実績でメリットがあるとアルバス伯爵は思い込んでいた。
だがむしろ周りからの信頼を失い、社交界で大恥をかく結果となってしまい、今となってはシャルネラのことをお荷物としてしか見ていない。
「騙すような奴と……ましてや使用人としてダメな奴などと結婚するわけないだろう!」
「そんなこと言われましても、もう結婚しているのだから簡単に取り消すことなんてできませんからね! 私はあなたの所有する領地でのびのびと生活するのがユメなのですから!」
「なるほど……。シャルネラが私に言い寄ってきたのは領地が目的か」
「気がつかないなんて、本当に間抜けな伯爵様ですこと。もう掃除も料理もなにもしませんわ」
「あぁ。わかった。こちらもそれ相応の対処をする」
アルバス伯爵はシャルネラの勝手な態度を見て、我慢する必要などはどこにもないことがわかった。
すでに信頼も地の底。
それならば汚名をかぶることすら躊躇する必要などなかったのである。
「シャルネラよ。お前と離婚する」
「そんな勝手なことが許されるわけないでしょう」
「お前は知らないようだな。今回のような場合は特例として成立できるのだよ」
「え!?」
「国王陛下直々の許可が降りれば成立するのだ。シャルネラは今後一人で生きていくがよい」
シャルネラは結婚してしまえばなにがあっても離婚などありえないことと思い込んでいた。
しかし、アルバス伯爵の自信に満ちた言葉を聞き、再び途方に暮れるのであった。
「な……そんなバカなことって……」
「私も今回の件で貴族界隈からの信頼を大幅に失った。私は一からやり直すつもりだ。だが、シャルネラがいては……邪魔だ」
「ひ、ひどい。あまりにも酷すぎです。どうしたら離婚だけは中止してくれますの?」
「無理なことを言うな。これだけ迷惑をかけておいて中止などありえない」
「アルバス様だって非が無いわけではないでしょう!」
アルバス伯爵はふと、国王から言われたことを思い出す。
監督不行届。
だが、アルバス伯爵にとって、なにがいけなかったのかは理解ができないでいたのだ。
ここまでコケにされたのだと思い込み、シャルネラに対して無理難題を申し付けるのである。
「ミリアだ」
「はい?」
「ミリアを連れ戻せるのならば離婚は中止しても良い。シャルネラもあの女がいればまたうまく利用して伯爵邸を良きものにする自信があるのだろう?」
「まぁ、今までみたいに強制労働は厳しいかもしれませんが……。連れ戻せれば策はあります」
「決まりだ。ミリアをうまく口説き、伯爵邸に使用人として連れ戻せ。それが達成できれば離婚も白紙に戻し、シャルネラの望むスローライフを実現させて見せよう」
「わかりました。そういうことならば、私は今まで以上に真剣に行動してみせますので」
「期待している。ミリアはすでに貴族界隈で高評価を得ている。その女がここに戻ってくればまだ信頼も名誉も起死回生できるであろう……」
そうアルバス伯爵は言いながらも、一度国王から絶大な評価を受けたミリアを連れ戻すのは至難の技だと思い込み、あまり期待はしていなかった。
だが、シャルネラのずる賢さを目の当たりにし、もしかしたら奇跡が起きれば可能かも知れないという僅かな望みにかけることにしたのだ。
シャルネラはミリアを連れ戻すために、再び作戦を練るのだった。
しかし、ミリアはすでにレオンハルトと恋仲になっていることを二人は知らない。




