32話 ミリアは告げられる
「私と、交際をはじめてくれないだろうか?」
「はいっ!! ……はいっ!? えぇぇぇぇぇええ!?」
「むろん、冗談ではないぞ」
嘘でしょう!?
嘘じゃなければユメの中に違いない。
私はほっぺをギュッとつねってみたが、痛かった。
ユメじゃない!?
現実だとしたら嬉しすぎてキュン死にしてしまいそうな勢いである。
しかし、今までそのような素振りや良い感じの雰囲気はなかったはずだ。
「あ、あの……。とても嬉しいですし、できることならば私のほうからお願いしたいくらいでして……」
「本当か!?」
「ただ……、私のどこがそんなにご主人様の心に刺さってくださったのかわからずで」
「は……恥ずかしいだろう。そのようなことを公開するなど……」
「申しわけございませんっ!」
頬の痛みはあったものの、どこかユメの中なのではないかと未だに疑ってしまっている。
そのためつい、思ったことをそのまま伝えてしまった。
逆の立場だったら恥ずかしいのに……。
「ただ、これだけは言っておく。別にミリアがメダルを授与され王族と対等になったからなど、そのような地位や名誉で近づこうとしたわけではない。ミリアの身近にそのような者がいたわけだし疑うのも無理はないだろう」
「いえ、そんなことは微塵にも思っていませんが……」
「多少は疑っても良いのだぞ。おそらく、ミリアは今後そのような目的で迫ってくる男がわんさかと湧いてくるだろうから」
「え……?」
この国では今のご時世、地位や名誉よりも使用人としての功績のほうが評価は高い。
そのため王女ですら使用人として修行し、家事などで一人前にならなければならないと英才教育を受けるほどである。
公爵邸で正式な使用人になったからと言って、いきなり言い寄ってくる人はいないと思うが。
「話を戻そう。私はミリアのことをこの公爵邸に来る前から一目見ていた。だからミリアがここで修行すると聞いたときは嬉しかったものだ」
「全く気がつきませんでした」
「当然だ。私は隠すのに必死だったからな。だからこそ、昨日の社交会であれだけの高評価を得たことで、別の男から言い寄られると思うといてもたってもいられなくなってだな……。今こうして先に伝えておきたくて……」
「ありがとうございます」
レオンハルト様の気持ちは十分すぎるほど伝わってきた。
私も彼のことを気になっていたし、できることならと思っていたくらいだ。
おそらく、今日ここでレオンハルト様に言われないままだとして別の男性から交際を申し込まれたとしても、『好きな人がいるので』と言ってお断りしていたと思う。
それくらいにレオンハルト様のことを慕っている。
「改めてよろしくお願いいたしますご主人様」
「嬉しくて死にそうだ……」
「いえ、私のほうが幸せですからね?」
レオンハルト様とお付き合いができることは特に嬉しい。
ただ、私にはそれだけではないのだ。
この公爵邸で楽しく使用人生活を送れることと、優しい仲間と一緒にいられることで、幸せすぎてたまらない。
これに関しては、レオンハルト様よりも私のほうが幸せですと堂々と言ってしまうほどだった。
「ところで……だ。ミリアと交際させていただくわけだが、交際とはなにをすれば良いのかわからないのだが」
「はい!?」
「実のところ、私は将来このように交際などをすることを想定していなくてだな……」
「そんなことを言われましても……。私もずっと伯爵邸で使用人生活で缶詰状態だったもので、その辺に関しては全くの無知でして……」
私に過去最大級のミッションが訪れたのかもしれない。