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31話 ミリアはお礼を言う

「改めて、よろしくお願いします」


 レオンハルト公爵邸で使用人生活が始まった。

 見習いとしてではなく、正式に。

 その旨の挨拶を、執事のガイムさん、使用人の仲間や門番にまで、公爵邸で関わっている人たち全員にした。


 最後にメイド長メメ様に感謝の言葉を伝えた。

 するとメメ様は、私の身体をギュッと抱きしめてくれる。


「良かったですね。これで心置きなく過ごせるでしょう。まぁ、いつかはこうなってくれると思っていましたけれどね」

「ここにいるみなさんのおかげです。メイク講座や日々のマッサージ、それからダンス講座も掃除講習も料理教室もなにもかもですよ」

「後半はむしろ私たちが教わっているようなものですけれどね」


 そんなことはない。

 今まで私がやってきたことを伝えてみて、それがやりやすいかどうかを客観的に判断することもできた。

 教えるのも勉強だと気がつくことができたのである。

 すべて公爵邸に来たからできたことだ。


「社交ダンスの件もありがとうございました。めいいっぱい練習させていただけたおかげで、みなさんからお褒めの言葉もいただけました」

「ならば良かったです。ミリアさんの上達っぷりも素晴らしかったですから、妥当な結果だと思いますよ」

「ガイムさんの指導がわかりやすかったのと、たっぷりと時間を使わせていただけたおかげです。本当にありがとうございます」

「ふふ……。ミリアさんは本当に謙虚ですね。もっと誇ってもよろしいでしょうに」

「みなさんのおかげですから、私だけではこんな結果にはならなかったと思いますし」

「はぁ……。ミリアさんを奴隷のようにしていたどこかの誰かさんにも今の言葉を教えてあげたいくらいですわね」


 おそらくはシャルネラ様のことだろう。

 私はもう彼女と会うこともないだろうし、正直なところ会いたいとも思えなくなってしまった。


 社交界の終了時に彼女から冷酷な睨み顔を見せられたときは鳥肌がたつくらいに怖かった。

 まるで、『これからあなたに復讐しますわ』と言ったような訴えをしているかのようだったのだから。

 ただ、すぐにレオンハルト様が私の手をギュッと握ってくださり、恐怖も和らげた。


 私はきっとレオンハルト様のことを……。


 おっと、ダメだダメだ!

 国王陛下からメダルを授与され、私は王族と同じ権利を得ることができた。

 だからと言っても、公爵邸の使用人としては新米である。

 私が彼に気があっても、決してそのような態度を本人に見せてはならない。

 使用人としてしっかりと働いていきたいのだから。


「そういえば、さきほど主人様がミリアさんのことを探していましたが」

「どこにいますか? 真っ先にお礼を言いたくて、部屋を訪れたのですが、いなかったのです……」


 公爵邸は広い。

 初めて来たときは迷子になるんじゃないかと思うくらいであった。

 レオンハルト様が今どこにいるかなど、全てを把握できるような規模ではないのである。


「花壇に行くとおっしゃっていましたよ」

「申しわけありません。すぐに向かいたいのですが」

「ふふ、謝ることではありませんよ。どうぞ、ご健闘をお祈りしますね」

「はい?」

「いえ、なんでも」


 メメ様は、ふふっと笑いながら私を見送ってくれた。

 ご健闘とはいったいなんのことだろうか。

 使用人になったあかつきに、なにか難易度の高い特別任務を与えられるとか?


 考えれば考えるほど、そうなのかもしれないと思い込んできた。

 ここは気合いを入れてご主人様=レオンハルト様の元へ向かう。


「ご主人様っ!」

「ミリアよ、来てくれたのか」

「申しわけございません。私に用事があったのですね。公爵邸全土で挨拶回りをしていたもので……」

「気にすることはない。むしろ、皆にお礼を言っていたのだろう? 素晴らしいことだ」

「は、はぁ……」


 なにが素晴らしいのかはよくわからない。

 むしろ、みんなに協力をしてもらったのだからお礼を言うことは当然のことだ。

 今はそれよりも、これから与えられる激務かもしれない任務を言い渡されることに頭がいっぱいだった。


 さぁ、新たなミッションよ、どんと来い!


「ミリアに大事な話がある」

「はいっ!!」

「嫌なら断ってくれても構わない」

「絶対に断りません!!」


 私の覚悟はできている。

 たとえ公爵邸全ての部屋を一日で掃除したまえなどと言われても、気合でなんとかやってみせる。

 実際には無理なことではあるが、それくらいの気持ちがあるのだ。


 だが……。

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