29話 ミリアの社交会編7
「彼女の名はミリアという。現在レオンハルト公爵のところで使用人の修行をしているそうだが、使用人としても素晴らしいと聞いている」
なんという勿体ないお言葉……。
国王陛下にそのように言われてしまうと、私は本当にできる使用人なのかと勘違いしてしまうから誉め殺しは勘弁してほしい。
「彼女が、本来処分するような食材を駆使し、食べられるようなものを発案した。我が娘アエルがそこに着目し、今では王都の活気がうなぎ登りになった。ここにいる一部の者たちも恩恵を受けているであろう。ゆえにここで表彰及び与えたいものがある」
ここ最近、社交ダンスの練習や使用人たちからのマッサージの日々だった。
公爵邸からは一歩も外へ出ていない。
そのため、王都がどのように変化しているかなどわからなかった。
陛下の言葉と周りの反応を見ている感じだと、おそらく本当のことなんだと思う。
アエル王女に感謝しなくては。
「まずはこれを……」
「き……金貨……ん、なにか違うような……」
金貨よりもサイズが少し大きく、私の名前が掘られていた。
しかも、純金でできているようだ。
「王家が認めた者だけに授けるメダルだ。これさえあれば王族と同等の権利が与えられるというパスポートみたいなものだ」
「パスポート?」
「つまり、検問所でこれを見せれば素通り、貴族王族しか利用できない施設も無料かつ自由に出入り可能になる。むろん、この王宮もな」
「す……すごい! ありがとうございます。大事にします」
「うむ。万一紛失されても再発行はできぬが、名前が彫られている。悪用は絶対にできぬ仕組みになっているが、扱いには気をつけてくれたまえ」
肌身離さず持ち歩くことにしよう。
それにしても王族と同じ権利か……。レオンハルト様たちと対等になってしまったということである。
アルバス伯爵邸に戻ったとき、爵位だけで言ったら侯爵令嬢のシャルネラ様よりも上の立場になってしまうということか。
シャルネラ様に恥じないように、もっともっと公爵邸で修行しなければな。
ふと、シャルネラ様がいるほうを見てしまった。
アルバス伯爵は驚いているようだったが、シャルネラ様は歯を食いしばりながら悔しそうにしていた。
八つ当たりだけはされないように気を付けておこう……。
国王陛下と一度握手を交わし、私たちは元いたところへ戻った。
「さて、ミリア殿に関しては今後の活躍に期待することとして、本日はもうひとつ。アルバス伯爵よ、こちらへ来たまえ」
アルバス伯爵はニヤニヤとしながらシャルネラ様と一緒に国王陛下の元へ歩いていく。
彼らもまた、なにか表彰されるようなことをしたのだろうかと思いながら二人のゆくえを見守った。
「陛下。これはこれはわざわざこのような貴重な場にご招待くださりありがとうございます」
「ん」
「して、わたくしめにはどのような報酬を……」
「報酬ではない。その逆だ」
「「へ!?」」
アルバス伯爵とシャルネラ様の声がかぶった。
国王陛下がものすごく怒っているような……。




