27話 ミリアの社交会編5
私がアルバス伯爵邸で使用人をしていたころは、シャルネラ様からの命令や提案は絶対服従だった。
身分としてもシャルネラ様のほうが上というのもあるが、それ以外にも逆らうようなことをすれば仕事量を何倍にもされ寝る暇もなくなるような状況になることもあったからだ。
だがそれも仕方のないことだと思っていた。
当時の私は仕事が遅いと思っていたし、せめて迷惑をかけている分くらいは従わないとダメだろうと思っていたからである。
「話は終わったのか?」
「はい。お待たせしてしまい申しわけありません」
「ミリアが謝ることではないだろう」
レオンハルト様は、なんの話をしていたのかなどと聞いてくることはなかった。
シャルネラ様からも話した内容は内緒にしてほしいと言われているため助かる。
今回、初めてシャルネラ様の提案を拒否した。
アルバス伯爵邸が大変な状況になってしまっていることには同情する。
だが、私はもっと公爵邸で使用人のことを勉強していきたい。
いや、使用人だけではない。
公爵邸にいると、それ以外のことまで色々と学ぶことができるのだ。
仮に今、アルバス伯爵邸に戻ったら取り返しのつかないことになるのではないかと嫌な予感がした。
それに、久しぶりにシャルネラ様と話してみて、違和感にも気がついたのだ。
「ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「構わんぞ」
「仮にですが、アルバス伯爵からの命令で帰ってこいと言われてしまった場合、私に拒否権というものはないですよね?」
使用人というのは契約関係にある。
公爵邸に一年間修行という身で仕えている状態のため、もしも今聞いたことのような状況になった場合はどうなるのかがわからなかった。
シャルネラ様がさきほど言っていたことを考えると、もしかしたら予定より早く帰らなければならないこともあり得る。
だが、本音としてはまだ帰りたくない……。
「ミリアの意思次第だ。帰りたければ止めることは私にはできない」
「私の意思で良いのですか?」
「もちろんだ。ただ、私個人の気持ちとしてはこのまま公爵邸にいてほしいと思っている」
「良かった……。ありがとうございます。もちろんお世話になりたいと思っています」
「本当か!?」
レオンハルト様はどういうわけか驚かれていた。
それにどことなく嬉しそうな表情を浮かべてくれている。
「本音としては、アルバス伯爵邸には帰りたくないな……と思っていまして。あ、これは絶対に秘密にしてください」
「そうか。まぁ無理もないだろう。それではそのように変更しておくとするか」
「え?」
変更とはどういうことだろう。
レオンハルト様に尋ねようとしたのだが、タイミング悪くこれから陛下の挨拶と社交ダンスが始まるところだった。
私はレオンハルト様と踊ることになるのだが、大丈夫かどうか今さらになって心配になってきた。
ガイムさんたちのスパルタレッスンを無駄にするわけにはいかない。
教えていただいたとおりにしっかりと披露できるようにしたい。




