25話【シャルネラ視点】社交会編3
王宮主催の社交界は、貴族位の最高位とゲスト枠のみが出席することを認められている。
年に一度だけ開催されるこの社交会は、侯爵令嬢である私は何度も出席してきた。
だから特に物珍しさなどもなく、いつもどおりにしていればいい。
だが、おそらく参加できるのはこれが最後だろう。
アルバス伯爵夫人となるわけだから、次回から招待されることがなくなるからだ。
むしろ、王族たちの威厳に包まれた空気を吸わなくて良くなるわけだから、私にとっては好都合。
アルバス様とののんびりした生活を送れたほうが私にとっても居心地が良く、面倒なしきたりから解放されることも踏まえて彼に猛アタックをしてきた。
さて、私にとっては最後の社交界になるわけだが、今回はふたつだけ気になっていることがある。
「アルバス様が直々に表彰されるのは楽しみですが、いったいなにをされたのか本当に心当たりがないのですか?」
「あぁ。領地に関しても私は特に干渉することもなく現地の者たちに任せっきりだしな。これといった報告も受けていない」
「おそらくアルバス様には実感がないのでしょうね。ものすごい偉業をしたのに気がつかないなんて、なんという大物なのか……」
今までの社交会で経験したことといえば、名前は忘れてしまったけれどどこかの子爵が国に貢献するような手柄を立て、国王陛下から直々に表彰されていた。
あのときは王族界隈から子爵に対しての注目が集まるような出来事だった。
つまり、アルバス様もまた、あのときの子爵と同じような運命になるのだろう。
しかもアルバス様はこのことに気がついていない。
そうとうな評価を得られるのだから、どんなものか気になって仕方がない。
「シャルネラよ、あそこにミリアがいるぞ」
「え? あ、あれ!? 一緒にいるのは国王陛下ですよね」
「そうか。ミリアのやつ、本当になにか偉業を残したのだな。来年我が家での使用人として再度迎え入れたときに鼻が高いわ」
「私としては今すぐにでも帰ってきて欲しいと思いますが……」
ミリアにはとにかく早く帰ってきてほしい……。
彼女の頭は間抜けだから、私が命令したことを素直に従ってくれるし、手柄も私のものにできる。
しかし、今の伯爵邸は新人ばかりだし、私の本来の仕事っぷりがいい加減にアルバス様にバレそうになってきているのだ。
寝る暇も惜しんで最低限の仕事をこなしてなんとか誤魔化してきているけれど、もう限界である。
疲労とストレスのそのせいで、肌が荒れてきているし若干太ってしまった気がする。
前回着たドレスではキツくて、新しいドレスを新調したくらいだ。
「残念だが、来年までという契約なのでな。まぁ焦ることもない。ミリアにはしっかりとした使用人としての修行を積ませ、シャルネラに負担がかからないようにしよう」
「あ、ありがとうございます……」
アルバス様が私のことを気遣ってミリアを修行に出させた。
だが、そのせいで私は今大変な状況になってしまっている。
もちろんそんなことを話せるわけないし、なんとか乗り切るしかない。
ストレスで髪の毛も抜けてしまってハゲそう。
アルバス様の偉業で評価され、より優秀な使用人を伯爵邸に入れてもらうしか解決策はなさそうだ。
そうなってくると、アルバス様がどんな理由で招待されたのかが気になって仕方がない。
「ちょっと、陛下にご挨拶してきますわ」
「な、国王陛下にたやすく話しかけて良いのか……?」
「私ならば問題ありませんわ」
アルバス様には言わなかったが、ミリアになんとしてでも伯爵邸に戻ってくるよう催促するチャンスでもある。
私が今すべきミッションは三つ。
一、陛下に挨拶して、アルバス様の評価をこっそりと聞く。
二、ミリアに早急に伯爵邸に戻るよう催促する。
三、レオンハルト公爵とお近づきになっておく。(あの人かっこ良すぎるし、仲良くなっておいて損はない)
私はミリアたちのいるところまで歩いて向かった。
しかし、挨拶は終わってしまったようで、国王陛下は彼女たちのいたところから移動してしまった。
ミッション一は失敗した。
こうなったら残りのミッションのためだけでもなんとしてでも……。
少し小走りでミリアとレオンハルト公爵のところへ向かった。
それにしても、ミリアったら、あんなに可愛い顔していたっけ……。
ドレスもやたらと高そうなものを着ているし、どことなく姿勢もピシッとしている。
以前のミリアからは想像もつかないのだが……。




