23話 ミリアの社交会編1
社交会当日。
メメ様たちにドレスを着させてもらい、そのうえメイクまで完璧に整えてもらっている。
この日まで、使用人たちからの悶絶込みの美容マッサージを徹底的に毎日受けていたため、顔のハリも良くなっているような気がする。
「ふふふふふ、今のミリアさんなら美容もダンスも全てにおいて、他の王族ご令嬢様たちにも引けをとることはないでしょう」
「いやいや……。さすがにそこまでは」
「ミリアさんは自己評価が低過ぎるところだけは欠点ですね。まぁそうさせたのもあのお方が原因でしょうし、ギャフンと言わせてきちゃいましょう」
「あのお方?」
「行けばわかりますよ」
メメ様はクスクスと笑いながら、私の顔を丁寧なメイクで仕上げてくれた。
「ダンスは執事長からのスパルタレッスンで完璧でしょうし、きっと良き一日になるかと。あまり緊張せず、楽しんできてください」
「はい。ありがとうございます。ところで、メメ様は出席されないのですか?」
メメ様は侯爵家のご令嬢だから、招待はされていたはずだ。
しかし、今日のメメ様はいつもどおりのメイド服を着用されていて、外へ出られる気配がない。
「今回は辞退させていただきました。絶対にお会いしたくない人が参加されるということなので」
「はい?」
「普段は感情を抑えることができますが、その人に対しての怒りは絶大なので。余計なトラブルにならないよう、私は大人しく公爵邸を守ります」
よほど嫌いな人なのだろう。
誰ですかとは聞けないが、対象者がわかれば、あまり関わらないように気をつけようと思う。
「できあがりました。過去最高の出来でしょう」
「ありがとうございます!」
「あらあら、ちょうど良いタイミングで主人様のお出迎えですね」
「はい?」
顔をドア方面に向けた瞬間、私の顔は真っ赤になってしまった。
金髪のサラサラな髪と群青色の綺麗な瞳を何倍にも引き立たせるような、ピシッとしたタキシード。
ただでさえレオンハルト様が使用人たちを大事にする優しい性格を見てきているから、さすがにこれではよからぬ意識までしてしまう。
だが、あくまでレオンハルト様と私は主従関係。
今まで何度も好意を持ってはダメだと抑えてきたではないか。
グッと気持ちを抑え、作り笑顔をする。
「ご主人様、大変お似合いです」
「う、うむ……。ミリアも素敵だ」
「素敵だなんて……」
さすがメメ様だ。
私が自分でメイクをしたら、こうはならないはずである。
綺麗な私になれたのはメメ様のメイク技術や、日頃の美容マッサージを受けていたからだろう。
今日の私は、一日限定ではあるものの、綺麗なミリアとして自信を持って堂々とすることにした。
そうでなければ、一生懸命頑張ってくれた使用人たちに失礼だろう。
「ひとまず王宮へ向かおう。そろそろ出ないと遅れてしまう。さぁ」
レオンハルト様が手を私に向けてきた。
これは……、手をつないで行こうと言っているのだろうか。
主従関係でこんなことをしてしまっていいのかわからないが、せっかくの申し出を断るつもりなどはない。
「よし、では向かおう」
私の心臓よ、もう少し落ち着いてほしい。
♢
公爵邸から王宮までは距離としてはそんなにないが、それでも馬車移動である。
近距離であっても、公爵であるレオンハルト様が外を歩くなどといった行為はしない。
前に買い物へ行ったときと同様に、レオンハルト様が先に馬車へ乗り、私をエスコートしてくださる。
「気をつけて乗りたまえ」
「ありがとうございます」
ダメだ。
今日はレオンハルト様の顔を直視できない。
完全に意識してしまっているではないか。
客室へ入るタイミングで、目をそらして注意散漫になっていたせいで、つまづいてしまった。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……。申しわけございません」
全く大丈夫ではない。
レオンハルト様が支えてくれたおかげで怪我こそしなかったが、抱きついてしまっている状態である。
すぐに離れようとしたのだが、レオンハルト様が腕をグイッと力強く押していて抜け出せない。
「ご主人様?」
「はっ! すまない!! どうも今日のミリアは動揺しているか緊張しているようだから心配で」
レオンハルト様はすぐに私から離れ席についた。
私の心拍数が激しい状態のままなかなか元に戻らない。
真横にレオンハルト様がいて、なおかつご主人様としてではなく一人の男性として見てしまっているからだ。
このような状況で無事に社交会を終えることができるだろうか。




