22話【Side】招待状
「何度言えば分かるのですか! 時間までに終わらせていただかないと困るのです!」
「「「申しわけございません……」」」
「仕事が丁寧にできない、おまけにノロマ、こんなことでは伯爵邸の使用人は務まりませんわよ」
シャルネラは疲弊していた。
新しく入ってきた使用人は民間人出身のうえ、今までの使用人たちと比べても経験も浅いど素人である。
さらに、シャルネラには新人教育ができるような知識はない。
上手く指導できず、使用人たちもどうしたら良いのかと悩んでしまう有様だった。
さすがに今の状況が、アルバス伯爵の耳にも入るようになったのである。
注意を受けたシャルネラであるが、ミリアがいない今、どうすることもできなかった。
「なんとしても早急に仕事ができるようになっていただかないと困るのですよ。休憩時間と就業時間延長で頑張ってもらいますので!」
シャルネラは、ミリアに命令していたやり方と同じように指示することにした。
だが、当然うまくいくわけもなく……。
「どうやれば早くできるようになれるのか、お手本を見せていただきたく……」
「え!?」
ひとりの新人使用人がそう言うと、別の使用人も続けて不満のような発言が続く。
「主人様からは、メイド長が素晴らしい仕事をすると自慢げに語られていました。さすが主人様が奥様にしたというところをぜひとも見てみたいのです」
「うぅ……」
「これからこの部屋もメイド長が掃除を始めるのでしょう? ぜひ見学を……」
「なっ!!」
現在みんながいる場所は、たった今シャルネラが掃除を終えたばかりの部屋である。
シャルネラも必死に掃除をしていた。
だが、その部屋をこれから掃除するのだろうと言われてしまい、なにも言い返すことすらできなかったのである。
「み……みんなでやりましょう! 見ているだけではダメ! 私が指示するのでそのとおりにやるのです!」
シャルネラは必死だった。
むしろ新人の使用人たちの仕事を見て、どうやったら綺麗にできるのだろうか盗もうとしていたくらいである。
だが、さすがに新人使用人よりはシャルネラのほうがまだ仕事はできる。
だからこそ、どうやって教えていったら良いのだろうかと頭を悩まされていた。
(ミリアさん、早く帰ってきてください……。私の仕事をやってもらえるのはあなたしかいないのですから……)
シャルネラはどうにかしてミリアとコンタクトをとりたかった。
ミリアが公爵邸での修行が辛過ぎて逃げたい状況だとシャルネラは思い込んでいる。
この状況でシャルネラが救いの手を出せば、ミリアは今まで以上に服従してくれるだろうと。
さすがに限界だったため、アルバス伯爵にミリアと会いたいことを報告しに向かう。
♢
「シャルネラは本当にミリアのことを心配しているのだな」
「えぇ。そりゃあもう……。あの子は仕事は遅いですが、前向きに頑張る子でしたから」
「師匠として会いたいのだな。ちょうど良い。実はな、もうじき行われる社交界へ私もなぜか呼ばれている。侯爵以上でないと本来参加できない社交界に……だ」
シャルネラは困惑している。
彼女は元々侯爵令嬢であるため、王家が主催する最大規模の社交界に出席したことは何度かある。
しかし、それとミリアになんの関係があるのかさっぱり理解できなかったのだ。
「私も信じられぬことではあるのだが、どうやらミリアがなにか国に功績を残したらしく、特別枠で招待しているらしい」
「あのミリアさんが……!」
「だが、それは私も同じこと。侯爵令嬢のシャルネラと結婚はしたものの、それだけで伯爵の私が招待されるような前例はなかっただろう。つまり、私も知らない間に功績を残していたようだ」
「さすがアルバス様。実績や功績を無意識に成し遂げてしまうなんて、私も鼻が高いですわ」
シャルネラは、ミリアがどんな功績を残したかなど知らない。
よほどのことがない限りは王族主催の社交界へ招待されるはずがないことも知っている。
シャルネラにとっては、ミリアになんらかの功績が残された状態で再び自分の配下になってもらえると思うとワクワクしていた。
そのうえ、アルバス伯爵の評価も上がると思い込んでいる。
だが、どうしてアルバス伯爵が招待されたのかという本当の理由は二人は知らない。莫大な報酬か、領地をもらえるのか、もしくは侯爵への爵位昇格か、ただただ楽しみにしているだけだった。




