20話 ミリアの長期休暇命令
「え? しばらく使用人業務をお休み……ですか?」
メメ様から信じられないようなことを言われてしまった。
週に一度の休暇とは別に、長期で休んでもらいたいのだという。
しかし、私は修行している身だし、もっともっと勉強したいのだ。
できれば休みたくはない。
「話は聞いています。社交界へ出られるのであれば、今のミリアさんにはやるべきことがありますので」
「使用人以外の仕事ですか?」
「いえ、使用人業務とは違えど、公爵邸のことを考えればやるべきことですね」
そういうことならば、私はなんでもやりたい。
レオンハルト様からドレスをプレゼントされたわけだし、返せないほどの恩もあるのだから。
「社交ダンスの練習をしていただきます」
「良いのですか!?」
「ずいぶんと乗り気ですね」
社交会と聞いたら私が最も警戒していたことといえば社交ダンスである。
昔とは違い、社交ダンスができなくともバカにされたり評価が落ちたりするようなことはない。
だが、それは中流貴族社会までの話である。
王宮で行うような王族が絡むような社交界ともなると、使用人としての家事関連も評価は重要項目ではあるが、やはり社交ダンスは欠かせない。
メメ様からダンスの練習をして良いと言われた瞬間、どれだけ気持ちが楽になったことか。
「社交ダンスは特に苦手なのです……」
「今まで練習経験は?」
「全くありません。社交界で他の人のダンスを見ながら真似していただけです」
「……それはそれですごいですね。練習なしで見ただけで実践するとは……」
仕方がなかった。
アルバス伯爵邸で住み込みで働いていたし、社交ダンスの練習ができる環境など全くなかったのである。
シャルネラ様から、『そういうものは見て覚えましょう』と言われたため、社交会に行ってから他人のダンスを見ながら真似していた。
周りからも、クスクスと笑われていたような記憶がある。
「ガイム様と私、それから何人か社交ダンスに特化した使用人で、順番にミリアさんの練習相手になるようにスケジュールを組みましょう」
「どうして、そこまで真剣に考えていただけるのですか?」
私は不思議に思い、今の気持ちをそのまま伝えた。
練習だけならば仕事が終わってからやるだけでも良いような気がしてしまう。
仕事を休んでまで練習一筋までになる必要はそこまでないのではと思ってしまったのだ。
「ミリアさんの食材を全て上手に駆使して料理に変えたアイディアは、あなたが思っている以上に世間から評価されています。ゆえに、今回の社交会ではほとんどの方がミリアさんに注目するでしょう。ましてや王宮主催の社交会。できる限り万全な状態にし、ミリアさんが使用人としてだけでなく貴族令嬢としても高く評価されるようにしたいのです。高評価であれば、公爵邸の評価にもそのまま繋がるでしょうし」
使用人として評価されているのかな私。
そこはひとまず置いといて、公爵邸のためだということはメメ様の説明で理解できた。
社交ダンスに関してはかなりの苦手意識があるが、直々に教えていただくのだから苦手も克服できるようにしたい。
「では、ご教授お願いいたします」
「今回は特に厳しくなるかと思いますからね。頑張りましょう」
「はいっ!」
この日から、私の社交ダンスレッスンが始まった。