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17話 ミリアはレオンハルトと一緒に買い物へいく

「ごめんなさい……」

「お気になさらず。風邪が治るまではお大事になさってください」


 使用人が風邪をひいてしまったため、今日は私が代わりに料理を担当することになった。

 幸い持ち場の掃除はすでに終わっていたため、辛そうにしていた使用人と交代した。


「食材の買い出しからか」


 そういえばさっき代わった子は馬車の操縦ができるから、彼女が買い出しに行って数日分の食料を大量仕入れしていたっけ。

 私は馬の操縦ができないため、操縦できる使用人に同行してもらわなければならない。

 一日分の食料だとしても、公爵邸全員分を作るためにはどうしても馬車移動でなければならないくらい買う必要がある。


 だからと言って、風邪をひいている使用人に頼むわけにはいかないし、全員手が空いていなければ私一人で何度も往復してでも買い物に行くつもりだ。

 大丈夫。伯爵邸のときと比べれば、買い物を何度も往復する程度ならまだマシなのだから。


「どうかしたのか?」

「あ……ご主人様。お疲れさまです」


 馬の操縦が可能な使用人たちに声をかけようと思ったが、持ち場の仕事が忙しそうだっため、やめておいた。

 自力で買い物へ行く準備をしていたら、レオンハルト様から声をかけられる。


「今から食料の仕入れをしに行くところです」

「ミリアの今日の作業は部屋の掃除ではなかったのか?」

「そうですよ。え、全員の行動スケジュールを把握しているのですか?」

「いや、た、たまたまだ」


 レオンハルト様が少しだけ焦りながら、群青色の瞳を泳がせている。


「料理担当の方が体調不良だったので、交代しました」

「なるほど。では、私も一緒に行こう」

「え?」

「馬の操縦はできないだろう? 私の専属護衛に同行させれば馬を使い買い物へ行けるぞ」

「し、しかし、ご主人様にそのようなことをさせてしまうわけには」

「それは問題ない。私も外へ出かけたいと思っていたからな」

「ありがとうございます!」


 なんという助け舟だろうか。

 レオンハルト様はすぐ準備に取り掛かってくださった。


「気をつけて乗りたまえ」

「ありがとうございます」


 レオンハルト様が先に馬車へ乗り込み、私の手を掴んでくださる。

 ドキッとしてしまったのは内緒だ。

 だが、そこまでならまだ良かった。


 カーテン付きではあるものの、敢えて民間人も利用しそうな馬車を選択したのだろう。

 荷物を積む荷台は別にあるものの、客席は比較的狭めで、レオンハルト様と私のふたりきりという状況。

 しかも、席が進行方向に一列に設置されているため、必然的にレオンハルト様と近距離で隣同士となる。

 こぶしひとつ分くらいしかレオンハルト様との隙間がない。

 横からレオンハルト様の匂いがわかるほど近くに来たことは初めてだ。

 やたらと緊張してしまっていた。


「ミリアは本当に優しいのだな」

「いきなりどうしたのですか?」

「使用人の療養のために、自ら交代し仕事を引き継いだのだろう?」

「身体が辛いのに働くのは大変ですからね」

「仮に、私が同行できず馬車が使えなかったらどうしていた?」

「歩いて買い物へ行っていました」

「はぁ、本当にミリアというやつは……」


 レオンハルト様が大きくため息を吐き、すぐにこちらをじっと見てきて、群青色の綺麗な瞳がさらに輝くように微笑んできた。

 これは、かなりやばい。


「なにかあれば、私に言ってくれ。決して一人で抱え込むでないぞ。今回のように」

「ど、努力はいたします」

「うむ。それにしても……」

「はい?」

「ここへ来たときと比べて、本当に笑顔を見せるようになったな」


 笑顔というよりも、この顔になっているのは、主にあなたが原因だからです。

 レオンハルト様が無自覚なのか知らないが、じーーーーーっと見られてしまっては恥ずかしくて冷静さを保っていられないのだ。


「ここでの仕事は毎日楽しいですからね……」

「たしか、一年の契約であったな」

「はい」

「ふむ……」


 時間はどんどん過ぎていく。

 残りの時間でできるだけ色々なことを覚えたいし、使用人修行生活そのものも満喫したい。

 できることならば、永久にここで働きたいと思ってしまうが、さすがにそうような申し出をするのは勝手すぎるし遠慮する。


「ミリアよ」

「は、はい」

「次の休みはいつだったか?」

「四日後です」

「その日、なにか予定は入っているか?」

「いえ、特にはありませんのでいつものように書庫で読書をしようかと考えています」


 休みの日は基本的に読書もしくは同じ休みの使用人と一緒にテラスでお茶をするくらいである。

 こうして公爵邸の外へ出るときは食料の仕入れくらいだし、どこかへお出かけしたいという気持ちはあまりない。

 どちらかというと、インドア派である。


「王都には美味い店がたくさんある。良ければ一緒に行かないか?」

「へっ!? 行きたいです!!」


 私の目がギラギラと輝いていたことだろう。

 即答でレオンハルト様に返事をした。彼の顔をじっと見ながら。


「そ、そうか。そこまでの反応をしてくれるとは……。では、当日楽しみにしていてくれたまえ」

「ありがとうございます!!」


 インドアではあるが、おいしい店へ行けるならどこへでも行きたい。

 そういう店の情報は使用人たちから教えてもらっていた。

 だが、元々がインドアであるため、一人で行く気にはなれなかった。


 もしも行くことができれば、料理の研究もできると思うし行きたかったのだ。

 レオンハルト様に感謝したい。


「何度も言いますがありがとうございます。おかげで新しい料理も作れるようになれるかもしれません」

「あ、あぁ……そうだな」

「あれ……?」


 レオンハルト様がなぜか少しだけガッカリとした表情をしていた。

 なにかまずいことでも言ってしまったのだろうか。


「着いたようだ。どれ、私も一緒に同行しよう。馬車までの荷物持ちくらいは役に立てるだろう」

「ありがとうございます」


 すぐに元のレオンハルト様の表情へ戻った。

 さきほどの表情は気のせいだったのかな……。


 買い物を二人で済ませ、大量の食材を馬車へ積み込み、公爵邸へ戻った。

今日の更新はここまでにします。

ハイペース更新にもかかわらず、ここまで一気読み(?)してくださりありがとうございます!!

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