16話【Side】使用人総辞職
今回は短めです。
「はぁ!? 全員一斉に使用人を辞めるとはどういうことですの!?」
「全くもってわからん。ただ……彼女らには、なにかあればいつ辞めても構わない代わりに、給金をやや下げるという条件で契約をしていた。婚約など色々事情があるからな。だから、なにも文句は言えぬ……」
アルバス伯爵邸には、アルバス伯爵とシャルネラの二人だけが残された、ガランとした豪邸と変わってしまった。
シャルネラを除く使用人全員が、別の場所で働くために総辞職したのである。
さすがにアルバス伯爵もこの事態には動揺を隠しきれないでいた。
シャルネラはこの異常事態はむしろ好都合だと思っていたが、顔には出さなかった。
「これでは屋敷内全てを掃除することなんてできませんね……(堂々とサボれるわぁ)」
「安心したまえ」
「へ?」
アルバス伯爵の冷静な態度を見て、シャルネラはごくりと唾を飲み込む。
「ミリアは一年間の修行、アエル王女も一ヶ月だけの臨時の採用だったことは知っているだろう?」
「はい……」
「アエル王女が滞在してもらっている間に使用人の募集はしっかりかけておいた。幸いまだ面接もしていないからな。この際全員採用にしてしまおうと思う」
「え」
アルバス伯爵は相手の立場を考えることが苦手である。
メイド長のシャルネラがたった一人で全員の新人教育などできるはずがないということも考えることができないのだ。
いっぽう、シャルネラも全員の教育のことなど全く考えていない。
新人相手ならば、全員を手懐けて自分の駒にしてしまおうと企んでいた。
「承知しました。お気遣いありがとうございます」
「なぁに、今週末にはシャルネラと入籍するのだからな。妻のためを思って尽くすのは当然のことだろう」
「一生添い遂げます」
シャルネラの目的は達成した。
アルバス伯爵は、シャルネラのミリアに対する行動など全く気が付くこともない男である。
シャルネラにとって、そんなアルバス伯爵は自由に生きていくうえではうってつけの相手だった。
さらに入籍までしてしまえば、多少のことがあったとしても離婚問題に発展するケースは稀だ。
週末になってしまえば、今まで以上にワガママが通るようになる。
シャルネラはそう思っていたのだった。
しかし、アルバスが採用した使用人たちは、シャルネラをさらに苦しめるような人選になってしまったのである。




