12話 ミリアが公爵邸に仕えて二ヶ月
公爵邸で修行を始めてから二ヶ月が過ぎた。
生活にもすっかり慣れ、公爵邸にいるみんなとも毎日楽しく仕事ができていている。
いつの間にか、私が掃除や料理、ガーデニングのノウハウを教える側になるとは思ってもいなかったが……。
今日は週に一度のお休みの日で、ゆっくりとくつろいでいる。
使用人は一週間に一度、完全休暇が与えられて、夜のマッサージタイムまではどこへ行っても、なにをしていても自由である。
私は外でしたいことは特にないため、公爵邸にある書庫をお借りして、読書を嗜むことが多い。
「ここにいたか」
「あ、ご主人様。お疲れさまです」
「ん。今日は休みなのだろう。あまり堅苦しくなることもあるまい」
「そう言われましても……」
私にとっては難しい注文である。
主人であるレオンハルト様に対して気を張るなと言われてもそうもできないのだ。
主従関係もそうだが、それに加えて群青色の綺麗な瞳を見るだけで緊張してしまう点もあるため、色々な意味で緊張してしまう部分もある。
書庫には数万冊にも及ぶ本が管理されていて、テーブルと椅子も多数設置されている。
レオンハルト様は、私の座っている正面によいしょと腰掛けた。
もちろん、他に誰もいないため二人きりである。
いささか緊張感が高まり、心拍数も上昇しているような気がした。
「もう二ヶ月か……。感謝している」
「え? なにがでしょうか?」
「なんというか……。ミリアが来てから公爵邸そのものの雰囲気が変わったような気がしてな。それに私自身も前よりイキイキと活動できているような気がする」
「私もこんなに毎日楽しく使用人として仕事ができるなんて幸せです。ありがとうございます」
ここにいられる期間は残り十ヶ月しかない。
それまでに悔いのない生活を送っておきたいと思っている。
「ところで……だ。ミリアの仕事があまりにも素晴らしいのに、わざわざここで修行をしてほしいと頼んできたアルバス伯爵のことが気になってな……」
「え……えぇ」
「一ヶ月ほどスパイを送り込んでいた」
「すぱい?」
私には聞き慣れない単語を耳にした。
使用人として、言葉も色々と熟知しておきたいところではあるが、わからないことはわからない。
恥じることなくレオンハルト様に意味を聞いた。
「まぁ、簡単に言えば王宮の人間を送り込んで伯爵邸の内部調査をさせていたということだよ。ミリアの話も参考にしてな」
「いつの間に……」
「伯爵邸の執事、ではなくメイド長か。元々こちら側には少々良からぬ噂も耳にしていたのでね。ミリアがここにいなかったとしても、どちらにしろスパイを送る予定だった」
「そうだったのですね。でも、メイド長のシャルネラ様は厳しかったですし罰も激しいものではありましたが、おかげでマッサージ大好評をいただけましたよ」
「マッサージ? それはなんのことだね?」
「え……?」
夜の全員でマッサージプランについて、レオンハルト様には黙っているようになどとはメメ様たちから言われていない。
レオンハルト様は、私たち使用人が全員でマッサージをして美容と健康を整えていることを知らなかったのかも。
「そうか、私の知らないところで皆なにか頑張っているのだな?」
「まぁ、そんなところです」
「納得した」
「なにがですか?」
「ミリアの肌艶がここへ来たころと比べて一層良くなっていると思ってな。他の使用人たちも最近イキイキとしているし」
私の顔が真っ赤になってしまったことだろう。
群青色の綺麗な瞳を私に向けて平然とそのようなことを言ってきたのだ。
しかも、まるで言って当たり前だというような態度である。
私の表情の変化を察知したのか、言いだしたレオンハルト様本人までも恥ずかしそうな顔をしはじめた。
「た、他意はない。与えている任務以外で進んでなにかをしようという者たちが公爵邸を管理してくれていて嬉しいのだ」
「メメ様が発案したそうですよ」
「そうか。メメからも話は聞いている。ミリアがものすごい向上心で頑張っているのだと」
「覚えたいなと思うことがいっぱいありますから。ここに来てから毎日が楽しいです」
裏庭の野菜や果物を育てたり、収穫してそれを料理にしてみたり、美容も意識するようになったり、私の生活習慣と意識もだいぶ変化があった。
ここへ来られて本当に良かったと思っている。
だからこそ、さきほどの話でスパイがどうのという件は気になっていた。
「ところで、スパイの件ですが」
「あぁ。その者は数日後にこの公爵邸で使用人として働いてもらうことになっている。そのときに改めてミリアには話を聞くかもしれぬが」
「は、はい」
話と言われても、毎日使用人として働いていました、くらいしか喋ることないのだが……。
ストックなくなっちゃいました。
どろんこ聖女と次の新作と料理令嬢も並行して書いていますので、明日からは……それでも頑張ります笑。