クリスマスパーティー準備
周囲の木が雪化粧をし始めた頃、瑠璃と小百合はクリスマスパーティーの準備の為に買出しに出かけようとしていた所だった。今年のクリスマスは瑠璃と小百合の二人で可能な範囲で準備をして開催をする予定になっていた。これから飾りつけの装飾品を買出しに出かける所だ。
「瑠璃ちゃーん。タクシー来てるからもう行くわよー」
「はーい、今行きます」
瑠璃は慌ただしくコートを着て、小百合と共に玄関を後にした。一足外に出ると、凍えそうな風が体にまとってきた。コートを着ていてもブルブルと少し体を震わせていた。
急ぎ足でタクシーへと乗り込むと、車内の暖かさからホッと一息ついて雑貨屋へと向かっていった。
雑貨屋ではどこにどんな飾りつけをしようかと相談しながら買う物をカゴにいっぱい入れていた。買い物を済ませた二人は両手に袋を持ちながら店を出た。
そのまま帰らずにご飯を食べてから帰ろうという話になったので、飲食店を探そうと歩き始めると、目の前から一人の男がやってきて、目の前で止まった。その男が止まると同時に小百合の歩みも止まった。
小百合も歩みを止めたことに疑問を思った瑠璃は声をかけるも、返事は返ってこなかった。心配して小百合の顔へ視線を移すと怯えた表情をしていたのが覗えた。表情だけじゃなく、体もブルブルと震わせて怯えた様子をしていたのを見てただならぬ事態だと認識していた。
「待ってたぜ……俺の顔、覚えてくれてたみたいだな」
瑠璃はその言葉を聞いて訳が分からなかったが、この男から離れなければならない様な気がして荷物を手放し、小百合の手をつかみ引っ張って走ろうと思ったが、小百合の体は動かなかった。
「お前に恨みはねえが俺の復習の為に今度は死んでもらう。お前のおやじが悪いんだ、お前のおやじのせいで俺の会社は……」
男は懐から何かを取り出した。それを見た瞬間に瑠璃は小百合の前へと出た。目の前にある物が刃物だとはっきり分かっても、その場から動かず小百合を守ろうと身構えた。胸の内では恐怖心しかなかったが、自分だけ逃げるという選択肢は瑠璃に無かった。
「邪魔だどけ! どかねえならお前から殺るぞ!」
男に脅されても瑠璃は動かなかった。本当は怖くて足も動かせなくなっていた。男は腕を引き刃物を構えると、瑠璃はもうだめだ、と思いながらギュッと瞑った。
刺されると覚悟して瞑ってから数秒後、グサッと刺される感覚がするだろうと思っていたが、その感覚が訪れる事は無かった。疑問に思った瑠璃は恐る恐る目を開けてみると、そこには倒れた男と、息を切らせていた小百合の姿があった。瑠璃は理解が追いつかず、二人を交互に見つめる事しかできなかった。
「瑠璃ちゃんは……殺させない……」
「くそっ……いてぇ」
男は地面に仰向けになったまま痛がっている様子だった。
「くそっ……なんで俺はこんな事も成功できないんだよ……」
「成功……? 人を殺す事を成功させて何になるって言うの……?」
「復習だよ! お前のおやじのせいで俺の会社はつぶされたんだ。お前のおやじの一番大切なお前の命を奪って復習してやるつもりだったんだ!」
「だから、それで何になるって言うの? 私が死んでしまったらお父様はきっと悲しむと思うわ。でもね、そうなったってあなたの会社が元に戻るわけじゃ無いし、あなたは捕まるだけで成功なんてしても何も良い事も無いのよ」
「うるせえ! 何も知らないくせに黙ってろ!」
「知ってるわよ! あなたが自分で会社をつぶした事も、あなたの事、高橋 大志っていう人の事を。私は過去と向き合おうと思ってあなたの事も調べたのよ」
男の名前は高橋という名前みたいだ。過去という言葉を聞いて瑠璃は、小百合を誘拐した犯人なんだろうと思った。
「なっ……お、俺の何を知ってるって言うんだよ」
「あなたが二十歳の頃、一人で育ててくれた父親に先立たれて、会社を引き継いでその会社を倒産させた事も知ってるのよ」
「と、倒産したのはお前のおやじのせいだ! お前のおやじが俺の会社を切ってから何もかもうまくいかなくなったんだ!」
「お父様にも聞いたことがあるわ。あなたに何度も経営についてアドバイスをしようとしたけど、何も聞かなかったって。昔から取引のある会社だからなんとか手助けしてやりたかったけど、何も聞いてくれなかったって言ってたわ」
「そんなの俺の会社を良い様に使うつもりだったんだろ! 昔から取引してたとは言ってもそんなうまい話信用なんてできるか! それにその上から目線の言い方も気に食わなかったんだ!」
「だからあなたの会社は倒産したのよ。信用もせず、社員の人も信頼もしてなかったんでしょ? あなたが社長になってから昔から働いていた社員の人もやめさせたみたいね」
「それは……あいつらが俺の言う事を聞かなかったから切ったまでだ」
「あなたより社員の人の方が経験豊富で色々と知ってるはずなのに信頼しなかった。あなたは自分が未熟だと認めて社員を頼っていたら今でも会社は続いていたかもね」
「な、何を勝手な事を……お、俺は未熟じゃねえし、おやじが生きてた時はみんな俺の言う事を聞いてたんだ」
「それはあなたじゃなく、あなたのお父様の事をみんな認めていたから聞いてくれたんでしょう。あなたが自分の事を未熟だと認めて、社員の人を信頼していたらきっと未来は今と違う結果になっていたかもしれないわね」
「な、何を知ったような事を! お前のようなガキに何が分かるって言うんだ!」
「ちょっとは分かるわよ。少し前まで私は、自分の未熟さを認められずにいたもの。でも私は一人の人と出会えて、自分の中にある未熟さに気が付き、認めることが出来て前に進めた。あなたはそんな人と出会わなかったからそうなってしまったのね。……可哀そう。」
「や、やめろ、俺をそんな目で見るんじゃねえ! そんな哀れんだ目で見るんじゃねぇ……」
「倒産した後に私を誘拐するような事を考える時間があるのなら、その時間でなぜ倒産したのかを考えて、改善策を見つけて新しい事を始めた方がよかったのよ」
「そんなの……俺のせいでおやじの会社をつぶしたって事を認める事になるじゃねえか……。俺はおやじと約束したんだ、この会社をでっかくしてやるって。だから……俺のせいでつぶれたなんて認めるわけにはいかないんだよ……」
「それでも認めるしかないの。そうしないとずっと過去に縛られて前に進めないわ。ずっと過去に縛られているつもり? 本当にそんな事をあなたのお父様が望んでいると思うの?」
「う、うるせぇ……。なら俺にどうしろって言うんだよ」
「それはあなたが考える事よ。頼れる人が見つかれば今度は頼ってみるのもいいかもね」
小百合の発言が終わった後にパトカーのサイレンが耳に入ってきた。近くにいた人が通報してくれたんだろうと瑠璃は思っていた。二人の会話に呆然自失だった瑠璃は、そのサイレンの音で我を取り戻していた。
到着した警察官に事情聴取の為に瑠璃と小百合は警察署へと連行されていった。事情聴取が終わり、二人は迎えを待っていた。
迎えには小百合の母、陽子と執事の中野がやってきた。陽子は小百合の父、健一に全ての仕事を託して迎えにやってきていた。翌日には一度戻らないといけないが、今日はこのあと一日は一緒にいられるという事で小百合は頬を緩ませて喜んでいた様子だった。
帰りの車内で今日あった出来事を話していると、小百合が男性恐怖症を克服したんじゃないかという話になって、みんな喜んでいたが、瑠璃は内心で、自分が不要になったのだと考えると、一抹の寂しさを感じていた。




