月夜の散歩
瑠璃は寝付くことが出来ず、ベッドの上で上体を起こした。自室を見回してみると、灯りは消してあるはずなのに明るい様に見えた。窓の方へ視線を移すと、外から光がさしている事が分かって月の明かりなんだと気が付いた。そういえば今日は十五夜だったっけ、ぽつりとつぶやいた。
このままでは寝付けないままだろうと考えた瑠璃は、夜の散歩に出かけてみる事を思いついた。少しでも気分転換をすれば眠くなるだろうと考えたのだ。外に出るまで大きな音は立てない様にとそろりそろりとまるで泥棒になったかの気分で玄関を目指した。夜中で静まりきった家の中で自室を閉めるさいに聞こえる音がやけに大きくも感じていた。
特段大きな音を立てることも無く玄関にたどり着き、外へと出ると、何かに解放されたような爽快な気分を味わっていた。忍び足で歩いていたから緊張していたのかもしれない。
グーっと伸びをしてどこを歩こうか思案していると、後方からガチャという音が聞こえたので、恐る恐る振り返ってみると、月明かりに照らされた小百合の姿が目に入った。
「あ、やっぱり瑠璃ちゃんここにいたんだ」
「すみません、起こしちゃいました?」
「ううん、私ね、ちょっと寝付けなくて、ぼーっとしてたら扉の閉まるような音が聞こえた気がしたから下まで降りてみたの」
「小百合さんも寝付けなかったんですね」
瑠璃は小百合が自分と同じく寝付けなかったんだという事に親近感を沸きつつ、気分転換の為に散歩をしようと思って外に出てきた事を話した。
「そうなんだ。それなら丁度いい場所が近くにあるの。行ってみる?」
小百合に誘われたので付いて行ってみると、門扉の所へ案内された。
「え? もしかして、敷地外に出るんですか?」
「そう。ここからね、少し行った所に湖があるの。たまにだけど、家を抜け出して行く事があるのよ。暗くてちょっと見えにくいけど、良い気分転換になるはずよ」
瑠璃は近くに湖がある事は知らなかったので、興味を示していた。敷地外に出る事は少なく、敷地内も十分広くて近所に出る事はほとんどなかったのだった。湖を見てみたいと思った瑠璃は、小百合の提案に乗る事にした。
門扉を後にして小百合に付いて行くと、湖が姿を現した。小百合の言っていた通りで、少し歩いた場所にあった。周りは木で囲まれていて池とは言えない大きな湖があった。
「ほら見て、湖に月が綺麗に映っているわ」
湖には月が映っていた。波風も無く穏やかな表情をした水面に夜空が綺麗に映っていた。瑠璃と小百合はその場に座り込んで水面を見つめていた。
「ねぇ、瑠璃ちゃん。ちょっと聞きたい事があるのだけど、聞いてみてもいいかしら?」
「はい、なんですか?」
「あのね、瑠璃ちゃんはここに来て、ここで働けてる事って良かったと思ってる?」
「……突然どうしたんですか?」
「私はね、瑠璃ちゃんにすごく助けられてるの。きっと瑠璃ちゃんが思っている以上にね。でもね、瑠璃ちゃんにとってそれは良い事じゃないのかなって思うと気になっちゃってね……」
「ボクは……ここで働けて良かったと思ってます。最初は戸惑う事もいっぱいありましたが、皆さん優しいですし、働いていてすごく楽しいですよ」
「そっか……それならよかった」
瑠璃はどうしたんだろうと心配する気持ちで小百合の顔をチラッと見ていた。
「うふふ、心配させちゃったかな。なんかごめんね。私ね、これからずっと男の人と関わる事が無いまま生きていくのかもって思ってたの。向き合おうとする気持ちはあったけど、何をしていいか分からないし、行動することが怖かったんだ」
真剣な声で話している小百合の声に瑠璃は耳を傾けていた。
「でもね、その私の世界を瑠璃ちゃんが変えてくれたのよ。瑠璃ちゃんが向き合う勇気をくれたの。私の所に来てくれてありがとうね……好きだよ」
「小百合さんの助けになれてるのならよかったです。ボクも小百合さんも皆さんの事も好きです」
小百合は「ふふっ、うん、そうだよね」と微笑みながら言っていた。
瑠璃は湖に浮かぶ月を見つめながら、前から考えていた事を今でもいいかと思いながら口にしてみた。
「あの、小百合さん。前からちょっと考えてたことが一つあるんですが、聞いてもらっても良いですか?」
「うん? もちろんいいわよ。さっき私の話も聞いてもらったしね」
「その……今年のクリスマスなんですが、ボクと小百合さんでクリスマスパーティを計画してみませんか?」
「クリスマスパーティを? うん、いいけど、今から考えるの?」
「ちょっと早いとは思ったんですが、予定を立てておくなら早い方がいいのかなって思ったんです。もしかしたらいつもクリスマスは予定があって、変えられなかったりしても駄目だと思ったので、今話してみました」
「早い方がいいのは確かなのかもね。いつもはね、乙成さん達が飾りつけとかやってくれてたかな。クリスマスの時期になるとあの事を思い出してどうしても気分が重くなって、何かしようと思えなくてね……。私達でするなら乙成さんにも話しておいても良さそうね」
「やっぱりそうなんですね。前にその話を聞いて、その記憶を新しい記憶で塗り替えられたらなって思って考えてみたんです。二人で出来そうですか?」
「そっか、私の事を考えてくれてありがとう。瑠璃ちゃんがいたらきっと二人でも出来ると思うの。二人で出来る事を考えると、今までで一番クリスマスが待ち遠しく思うわ」
その後に瑠璃は大きなあくびをしていた。そのあくびを合図に帰る事になった。詳しい事はまた後日という事になって、月夜の散歩はお開きとなった。




