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贈り物


 「ふぅー」


 仕事が終わり、夕食も終わった瑠璃は自室に戻りソファーに沈みながら一息ついていた。服も着替えずにメイド服を着たままだったので、とりあえず脱ごうかと考えた瑠璃が立ち上がるのと同時に、扉の方からコンコンと叩く音が聞こえてきた。


「はーい」


 力のない声で返事をした瑠璃は扉を開けると、そこには三ツ泉がいた。


「お疲れ様です。よければこちらをどうぞ」


 三ツ泉はそう言うと、手に持っていた袋を渡してきた。


「あ、はい、ありがとうございます」


 三ツ泉からの突然のプレゼントに戸惑いながらもスッと差し出してきたので、瑠璃は拒否することなく受け取っていた。


「では、私はこれで。おやすみなさい」


「あ、待ってください。えっと、その、袋の中身って何ですか? それよりも貰ってよかったんですか?」


「私があげたいと思ってそうしたので、問題ないです。中身については後で一人になった時に見てくださいね。おやすみなさい」


「あ、はい、わかりました。おやすみなさい」


 絶対に渡すぞ、という圧を感じ取った瑠璃はそれ以上の追及を諦める事にした。自室に戻った瑠璃は、袋に対する好奇心からすぐに開けてみる事にした。


「なんだろ……え? ……ええ?」


 袋の中からは、真面目そうな見た目の三ツ泉から想像できないものが出てきた。


「これって同人誌……だよね? どうして? なんで?」


 瑠璃はまったく想像もしていなかった物が出てきて一点を見つめていた。なぜこんな物が、という疑問も尽きなかったが、それよりも本に対する興味も尽きなかったので、誰も入ってこれない様にするために扉の鍵を閉め、本を検める事にした。





「んー……」


 携帯電話にセットしたアラーム音で起きた瑠璃は、瞼を擦りながら大きなあくびをしている。眠そうに何度もあくびを繰り返していた。


 ぼーっとしていた瑠璃はこのままじゃだめだと考え、眠気を覚まそうと思ってシャワーを浴びる事にした。温かい湯が全身を覆い、体に蔓延っていた眠気も流れて落ちて行った。


 すっきりとした気分の瑠璃は、悠々とした状態でスマホを手に取り時刻を確認してみると、いつも部屋を出ている時間だった。悠々とした状態から一変、慌ただしく着替えを始めた。


 瑠璃はいつも余裕をもって朝食の時間に行っていたので、ぎりぎり朝食の時間に間に合った。到着してみると、当然のことながら瑠璃以外は席についていたので、謝りながら挨拶をして瑠璃も着席した。みんなが揃って食べる事が常となっていたので、手を付けていた人はいなかった。


 着席して一息ついた瑠璃は、昨日の事がふわっと蘇った。三ツ泉のプレゼントはどういう意図があったのか、からかわれているのか、よく分からなかったので、おずおずと三ツ泉に視線を送ってみると、こちらを見て何か訴えかけるような事も無く、瑠璃の瞳には平常であるように写った。



「はぁ~、何も言われなかったなぁ」


 瑠璃は一日中昨日の事を気にしながら働いていたが、三ツ泉からは特にアクションもなくいつもと変わらない一日を過ごしていた。


「気になるなぁ、何でなのかなぁ、聞いても良いのかなぁ……」


 ソファにぐったりと体を預けながら瑠璃は独り言をつぶやいていた。どうして同人誌を渡されたのか聞きたいと考えていたが、表立って話すのが苦手な瑠璃は聞くに聞けずにいた。そうこう考えていると、ノックの音が聞こえた。その音で考えるのをやめた瑠璃は、立ち上がり扉へと向かった。


「お疲れ様です。今少し時間よろしいですか?」


 扉を開けると前日の様に三ツ泉がいた。聞くチャンスだと思うと同時に、どうしてまた来たのかが気になっていた。


「お疲れ様です。いま大丈夫です」


「それでは、一つ伺いたいのですが、前日に渡した本は気に入っていただけましたか?」


「……えっと、その、よかったです」


 真っすぐな質問に少しうろたえながらも瑠璃は返事をした。


「それは何よりです。よければこちらもどうぞ」


 三ツ泉はそう言うと、前日と同じように袋を差し出した。それをまた同じように瑠璃は受け取っていた。


「あ、はい、ありがとうございます。……ってその、どうして、あの、本をくれたのですか?」


 瑠璃は理由を聞くなら今しかないと考え、疑問を口にした。


「そうですね、私は本が好きで、瑠璃ちゃんの年代の男の子ならエッチな本を好むと考えたからです。好きではなかったですか?」


「えっと……好き……です。でも、その、三ツ泉さんからプレゼントされるとは思ってなかったので……」


「ふふっ、意外でしたか?」


「はい、すごく意外でした」


「私はね、紙の本がすごく好きなんです。今は本もデジタル化してきた時代なので、紙に触れる機会も減ってきた今だからこそ、紙に触れてその良さを実感してくれる人を一人でも増えてくれたら嬉しいと思って、瑠璃ちゃんが興味ありそうな本をプレゼントしたんですよ」


「それであの本だったんですね」


「ええ、本はどんな本もおもしろい物ですが、興味を持ってくれそうな本じゃないとそれ以上進むことも無いと思ったので、興味がありそうな本を選んだんです。他のジャンルや他の本も私の部屋にあるので、いつでも来てくださいね」


「は、はい、その時は伺います」


「はい、お待ちしております。では、おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 瑠璃は部屋に戻り「ふぅ」と一息つくと、テーブルの上に貰った袋を置いた。三ツ泉の意外な一面を知った瑠璃は親近感を抱いていた。今日貰った本を読み終えたら三ツ泉の部屋に行ってみようかなと考えていると、再びノックの音が聞こえてきた。瑠璃は、三ツ泉が何か言い忘れた事でもあるのかなと思い開けてみると、そこには小百合の姿があった。


「瑠璃ちゃん、遅くにごめんね。ちょっと話したい事があるのだけど、いいかしら?」


 三ツ泉だと思っていたら小百合だったので、少し驚いた表情をしていた瑠璃だった。


「は、はい、大丈夫です」


「それじゃ部屋にお邪魔してもいいかしら?」


「はい、どうぞ――」


 瑠璃は返事をした後に思い出していた。三ツ泉に貰った本がテーブルに置いたままだという事に。乱雑にテーブルに置いたので、中身が少し飛び出ていたのだ。


「あ、やっぱり別の場所で話しませんか」


 瑠璃の提案が届く前に小百合の手はテーブルにこぼれていた本に到達していた。


「あ、いや、それは、その……」


「ふーん、瑠璃ちゃんってこういうのが好きなんだね。……えっち」


 瑠璃は恥ずかしさから顔がたちまちにして赤くなっていった。何と言っていいか分からずうろたえていた。


「ふふふっ、瑠璃ちゃんも男の子だもんね、こういうのも読んだりするわよね」


「は、はい……」


「ふふっ、もしかして、三ツ泉さんに貰ったのかしら?」


「え、どうしてそれを?」


「やっぱりね。さっき見かけたのもあるのだけど、私もね貰った事あるのよ」


「え? さ、小百合さんも……ですか?」


「うん、だからね、こういうのには一応免疫はある方だから大丈夫なのよ」


「でも、その、小百合さんくらいの年頃の女の子は苦手なイメージもあったんですが、大丈夫なんですか?」


「この年頃だからこそ、興味を持つのよ。でも恥ずかしがっちゃう子もいるかな? 私も小さい時は恥ずかしがって遠ざけちゃったりもしたけど、三ツ泉さんにね、えっちな事に興味を持つ事は健全な事です。って言われて恥ずかしさは少し減ったわね」


「三ツ泉さんはそんな事も言っていたのですね……」


「うん、それと、えっちな事はあんまりオープンで話すものでも無いって事も言っていたわ。私もそう思う所もあるから、この話はここまでにしましょうか」


「あ、はい、わかりました」


「それじゃ私は部屋に帰るわね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 少し頬が赤みがかった小百合が部屋から出ていくと、瑠璃は力が抜けてソファーに倒れこんだ。小百合に見つかるとは思っても見なかったので、疲れがどっと出ていた。


 そういえば小百合の話しってなんだろう、と疑問に思った瑠璃は、疑問に思いながらも、また明日聞けばいいやと思いながら床に就いた。


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