面接当日
面接当日になり、言われていた時間になるまでそわそわしながら家で待っていると、呼び鈴がなった。瑠璃が玄関を開けると、そこには初老くらいだろうか紳士が立っていた。
「初めまして、私先日ご連絡致しました。中野と申します。あなたが綾乃里 瑠璃さんで間違いないでしょうか?」
「は、はい、そうです。本日はよろしくお願いします」
「面接場所までお送り致しますので、外出準備が整いましたらそこに止めております車までお越しください。もちろん帰りもお送りしますので、ご安心ください」
「はい、ありがとうございます。荷物を持ってすぐに戻ってきます」
瑠璃は家に戻り、携帯電話と家の鍵を持って車の所へ向かった。その車はたまに見かける事もある高級車だった。見た事しかない車に乗れる事にも嬉しさを感じていた。
――しばらく車に揺られながら過ごしていると、いつの間にか峠道に入っていた。またしばらく峠道を進んでいると、大きな門扉の前に止まっていた。門扉が開き、中に車が入って行くと、そこには大きなお屋敷や、広大な敷地があって、瑠璃はその広さに呆気に取られていると、お屋敷の玄関前で車が止まった。
「お疲れ様です。到着致しました。中へ案内致しますので、そのまま少々お待ちください」
「はい……ありがとうございます」
中野が瑠璃の近くの扉を開け、ゆっくりと車から出た。峠道で左右に揺られたりした事によって少し気分が優れなかったが、お屋敷の中を見れるというワクワク感に後押しされ、中野の後をついていった。ついていくと、そこは応接室の様な部屋だった。
「すぐにメイドがやって参りますので、今しばらくこちらでお待ちください」
「わかりました。ありがとうございます」
さっそくメイドに会えるんだという気持ちと、部屋の内装が気になった瑠璃はそわそわしながら辺りを見回している。高そうな装飾やソファの柔らかさを確認していると、コンコンコン、とノックをする音が聞こえたので、扉の方に顔を向ける。
「失礼致します」
とても優しそうな声が聞こえると扉がそっと開いた。そこに現れたのはさっき言われた通りメイドだった。そのメイドはヴィクトリアン様式のメイド服をまとっていた。瑠璃の趣味はアニメやゲームで、メイドの事にも興味があったので、知っていたのだ。瑠璃はヴィクトリアン様式のメイド服が好きだったので、このメイド服を採用した人に心の底で感謝していた。
「初めまして、私屋敷でメイドをしております、乙成と申します」
「初めまして、綾乃里です。よろしくお願いします」
「早速ですが、これから準備しましょうか」
「準備ですか……? えっと、何をすればいいのでしょうか?」
「準備は私がやりますので、綾乃里さんは、そのままじっとしてもらえたら大丈夫ですよ」
面接の前に何かする必要があるのかな? と思った瑠璃は少し困惑しながらも言われた通りにじっとしていた。乙成が持ってきていた袋からビニール袋に包まれた物を取り出し開封して中身を取り出していた。中身は服の様に見えた。お屋敷を汚さないために着替えるのかなと瑠璃は考えていた。
「うん、このサイズなら大丈夫そう」
服を瑠璃の前に合わせて乙成はそう言った。合わせた服は長く、ワンピースの様な服に見えたので、瑠璃は困惑した。
「え、えっと、今の服をボクが着るのですか……?」
瑠璃は恐る恐る聞いてみると、乙成は、そうですよ。と返事をした。そして乙成は瑠璃のシャツのボタンに手をかける。
「え、あ、あの、着替える必要があるなら自分で――」
「大丈夫ですよ。慣れていますので、私がやりますよ」
ニコッと微笑みながら乙成にボタンを外されていく。ボタンが外されるたびに瑠璃の心臓がバクバクしていく。このまま他の服も脱がされるの? 今日どんな下着履いてたっけ、穴空いてたりしたら恥ずかしいな、と考えているとボタンが全て外されていて、シャツを脱がされた。脱がされたシャツは丁寧に畳んでくれていた。次は上か下か、どちらから脱がされるのかと思っていると
「それじゃ次は、バンサイしてくださーい」
瑠璃は言われた通りにバンザイをした。次はTシャツも脱がされるんだと思って目をギュッと瞑っていたら布に包まれる感触がした。
「はーい、次は腕通してくださーい、背中のファスナーも締めちゃいますね」
他の服も脱がされると思っていた瑠璃は困惑していた。全部脱がされなかった安堵と残念な気持ちが入り混じった気分になる。
「うん、サイズも大丈夫そうですね。男性の方だとこういった服も着ることは少ないと思うので、私がやらせてもらいました。どこかきつい所は無いですか?」
「あ、はい、だい……じょうぶ、です」
少し困惑したままの瑠璃だったが、きつい所が無いか確認をして返事をした。他も脱がされると思って心構えてた瑠璃は拍子抜けし、ほんやりとしていた。
「大丈夫そうでよかったです。うふふ、もしかしてシャツ以外も脱がされると思ってましたか? 初対面の男性相手にそんな事しませんよ?」
見透かされてしまっていた事に恥ずかしさが込みあがってくる。顔がどんどん熱くなってきた瑠璃はどうしていいか戸惑っていると
「うふふ、ごめんなさいね、あなたがかわいくてつい、からかってしまったの。許してもらえると嬉しいわ」
「はい、えっと、あの、大丈夫です……はい」
少し冷静を取り戻しつつも恥ずかしい気持ちは残っていた。瑠璃は小さい頃から女の子として見られる事がほとんどで、男として扱われたことはほとんどなく、からかわれた事も嬉しく感じるところもあった。恥ずかしさと、嬉しさの2つの気持ちがあって動揺した気持ちを消し去れなかった。
「そろそろ時間なので、このエプロンを着けて別の部屋へ行きましょうか」
乙成はそう言うと、エプロンを瑠璃に着けて扉の方へ体を向ける。まだ動揺した気持ちを抱えていた瑠璃は、動けず、ぼんやりとしていた。その時、目の前に手が差し伸べされ、無意識にその手をつかむ。さあ、行きましょうか、と乙成が言って、手を握られたまま部屋を後にした。