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文化祭2


 文化祭当日となり、瑠璃は小百合と一緒に学校へ向かう事になった。学校には乙成が送ってくれる事になっていた。


「それじゃ、二人とも気を付けて行ってらっしゃい。頑張ってね!」


 乙成に送ってもらい、学校に到着した。乙成はこのあと予定があるという事で、文化祭を見に来ることが出来ないらしい。その予定は瑠璃達が帰る時間には終わるという事で、迎えは心配ないみたいだ。


「さあ、行きましょうか」


 小百合にそう言われた瑠璃は、自然と手をつなぎながら学校の敷地内を進んでいく。周りには登校している生徒や模擬店の準備を始めている生徒達がちらほら見えた。その中で一人メイド服をまとっている瑠璃は目立っていた。視線を集めていることに恥ずかしさを覚えつつ、周りからはかわいいという声が漏れぎ超えていたので、男だとバレてはいないと安心感も感じていた。


 女子校なので当たり前なのだが、周りには女子生徒ばかりだ。瑠璃はその状況に緊張している。決して踏み入れることが無いはずの場所にいる事に、いけない事をしている気持ちになっていた。男なのを隠して、ここに居る状況を考えると、本当にいけない事をしているんじゃないかという気持ちが湧き上がってきて、緊張が増して、少し体が震えてきた瑠璃だった。


「瑠璃ちゃん、今日は本当にありがとうね。この日にここに居られることが本当にうれしいの。この学校にはね、中学生の頃からいるんだけど、文化祭の日に来れたのは初めてなのよ。だからね、今日は一緒に楽しみましょうね」


 小百合がそう言うと、微笑みながらギュッと手を握られていた。瑠璃は小百合の微笑みで緊張がほぐれ、少し落ち着いてきた。ずっと来れなかった文化祭に来れた小百合の方が緊張しているはずなのに、自分を落ち着かせようとしてくれた事に申し訳なさを感じつつ、改めて精一杯サポートしようと心に誓っていた。


 玄関に到着し、外来用のスリッパに履き替えて廊下に足を踏み入れると、目の前にメガネをかけた中年ぐらいの女性が駆け寄ってきた。


「桜井さん、おはようございます」


「校長先生、おはようございます。こちらにいるのが先日お伝えした綾乃里さんです」


「あ、初めまして、綾乃里 瑠璃と申します。よろしくお願いします」


 どうやら目の前に現れた女性は校長先生のようだった。瑠璃は一目見て、校長に厳格そうな雰囲気を感じていたので、今日の事を許可したことに信じられない気持ちになっていた。


「初めまして、私、高井たかい 幸子さちこと申します。本日はよろしくお願いしますね。早速で申し訳ないのだけど、許可書を綾乃里さんに渡さないといけないから、校長室まで来てもらっていいかしら? 渡し終わったら桜井さんの教室まで送るわね」


「あ、はい、分かりました。瑠璃ちゃんまた後でね」


 そう言うと小百合は小さく手を振りながら離れていった。側に知ってる人が誰もいなくなった事で、瑠璃は心細くなって、不安そうに眉をひそめていた。許可書を渡すだけなら持ってきてくれても良かったんじゃないかと考えていると、いきましょうか、と声をかけられ、瑠璃は言われるがままに校長の後を付いて行った。


 瑠璃はまるで不審者のように辺りをキョロキョロと見回しながらしばらく歩いていると、校長が立ち止まった。


「着きました。こちらへお入りください」


 瑠璃は先ほどと同じように促されるままに部屋に入った。学校に通っていた時でも校長室に入るという事なんて無かったのに、大人になってから通ってもいない学校の校長室にいる状況に緊張感が増していた。


「どうぞ、そちらにおかけください」


「は、はい、失礼します」


 瑠璃はソファにちょこんと座った。許可書を渡されるだけなら別に座らなくてもいいのでは? と頭によぎっていたが、口には出さずにいた。


「初めに、ここまで来てくれて有難う御座います。実際にあなたを見ると、写真で見たよりもかわいくて、声の可愛さにも驚きましたが、本当に男性なんですよね?」


「は、はい、見た目はこんなのですが、男です」


「そうですか……。桜井さんが男性の方と共にいられる事が出来るようになって何よりです。本来なら玄関で許可書をお渡しすればよかったんですが、綾乃里さんあなたと少しお話がしてみたくてこちらにお呼びしたんですよ。わざわざ来ていただき申し訳ありません」


 そう言うと、校長は少し頭を下げた。玄関で渡さなかったのは、話をするためだったのかと瑠璃は納得していた。実際に自分の目で見てどんな人か確かめたいという事もあってここに呼んだんだろう。部外者なのだから、生徒が何と言おうと自分の目で確かめる姿勢は大事かもしれない。


「いえ、大丈夫です。それよりも、男であるボクが参加させていただく事は本当に大丈夫なんでしょうか?」


「ええ、桜井さんが参加できるようになるのであれば、多少の事は認めるつもりなんですよ。実はですね、これは私の不徳の致す所でもあるんですが、桜井さんが入学された際に男性恐怖症の事は伺っていたのですが、もう少し詳しく伺おうと思った際にこちらに呼んだ時の事でした。時間をずらして男性教師を呼んでいたのですが、男性教師が時間を勘違いしてしまって、桜井さんと鉢合わせしてしまったのです。丁度その時に、私はお手洗いで席を外してしまっていて、戻ってきたら、桜井さんが酷くおびえた様子でいて、私は何という事をしてしまったのだろうと……」


「わざとじゃないんですから大丈夫だと……思います」


 思ってもいない事を告げられた瑠璃は、少し動揺していた。今回の事を許可したのは、その事が要因だったんだろう。


「いえ、これは私が行けない事だったんです。一日ずらしたり、時間をもっと遅い時間にしていれば防げたはずの事でした。その事で更に傷つけてしまって、もう学校に来れなくなってしまったら、どうすればいいのかと悩みましたが、その後、桜井さんもすぐに立ち直ってくれたみたいで、安心はしていました。しかし、少しでも傷つけてしまった事実は変わらないので、桜井さんの為になるのであればどの様な事でも許可しようと決めていたのです」


「そうだったんですね、その、男性教師の方もいるんですよね? 学校生活って大丈夫だったんですか?」


「ある程度距離を保っていれば大丈夫みたいですね。校内では、周りに生徒がいれば大丈夫みたいです。男性と一対一になるような事を避けるようにするのと、近くに居なければなんとか大丈夫だと話していました。なので、男性教師には、一対一にならず、近づかない様に、と説明しているのですよ」


「そうして学校生活を送っていたんですね。周りに理解してもらって学校生活を送っているみたいで、少し安心しました」


「だから、綾乃里さん。あなたと桜井さんが一対一で過ごしている事もあると聞いて、すごく驚いたんですよ。あなたはかわいい見た目をしていても、男性である事には変わりはなく、それなのに二人っきりで過ごしている事もあるなんて話を聞いていたので、最初は信じられませんでしたが、こうして話していると、それが分かるような気もしますね」


「あはは……」


 瑠璃は、照れ笑いをしつつ、どう返事して良いものか迷っていた。


「あ、あんまり話し込んでしまっていてもいけませんね。そろそろ教室へ参りましょうか。こちらが許可書です。もし警備の人などに話しかけられたらその許可書を見せてくださいね。あなたは私が許可をしてここにいるので、堂々としてください」


「は、はい、ありがとうございます」


 瑠璃は許可書を受け取り、ポケットにしまって小百合がいる教室まで送ってもらった。


「ここが桜井さんの教室よ。桜井さんのこと、くれぐれもよろしくお願いしますね」


 校長がそう言うと去って行った。瑠璃は扉の前で、校長の話を思い出していた。今まで小百合のおびえた様子など見たことも無かったので、男性といるだけで怯えた様子を見せるという話に強く印象を感じていた。本当に自分が側にいるだけで大丈夫なのだろうか、今日の文化祭は大丈夫なのだろうかと不安が頭によぎっていた。


 このまま考えすぎてもだめだと思った瑠璃は、扉を開け、小百合と合流することにした。


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