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夜の花見


 前日よりも遅めに起きた瑠璃は、寝惚けまなこを擦りながら辺りを見回した。近くに置いてあった携帯電話を手に取り、時間を確認すると、朝食の時間が過ぎている事に気が付いた。


「……あ、時間……んー、すぎて……る」


 ふぁ~、とあくびをしながら寝惚けた頭を使って今日の事を考えていた。


「……あ、そうだ、朝ごはんだ」


 前日に、休日の日も朝食は同じ時間に食べる事になっていると言われていた事を思い出し、布団をバサッと翻し勢いよくベッドから飛び起きた。今の時間だと完全に遅れていたが、そのままの姿で急いでリビングまで駆け下りていた。


 リビングに入ると、誰の姿も無く、あったのはラップに包まれていた料理と書置きだけだった。


「えっと、――瑠璃ちゃんおはよう。そこに置いてあるのは、瑠璃ちゃんの分の朝食です。レンジで温めなおして食べてね。他の人はみんな出かけているので今は他に誰も居ません。私も小百合ちゃんを学校に送っていくので、もう少ししたら戻ると思います。乙成」


 書置きを読んだ瑠璃は、書かれていた通りにレンジで料理を温めなおしていた。今日は土曜なのに学校があるのは大変だなと思っていた。静まりきったリビングにレンジの温め終わりを告げる音が響いた。誰もいない空間に寂しさを覚えつつ、瑠璃は箸を進めている。


 少しして、扉の向こうから足音が聞こえてきたと思ったら、扉が開いた。開いたその場所にいたのは乙成だった。


「瑠璃ちゃん、おはよう。起きていたのね」


「乙成さん、おはようございます。すみません、起きるのが遅くなりました。朝食ありがとうございます」


「ふふふ、良いのよ。初めてのお休みだし、ゆっくり寝ていてほしかったからね。でも、次は起きてくれると嬉しいかな。せっかくだから、みんな揃って一緒に食べたいしね」


「はい、次は起きられるようにします!」


 朝食が終わった瑠璃は、乙成とたわいの無い話をしていた。昼食前の時間になり、準備が終わると、乙成は小百合を迎えに出ていった。しばらくして二人が帰ってきて、一緒に昼食をとった後は、自室に戻りのんびりと過ごし、何事も無く夕食も終わって、今日が終わろうとしていた。


 自室で過ごしていた瑠璃は、ふと外を見ると、いつもより外が明るい気がしたので、何だろうと思い覗いてみると、夜空には満月が輝いていた。もう少しよく見たいと思った瑠璃は、窓をそっと開けてみると、ふわっとした心地よい風が流れ込んできた。改めて夜空を見上げた瑠璃は、この月明かりに照らされた桜はさぞ綺麗だろうと思い浮かんだので、遅い時間だが、見に行ってみる事にした。


 遅い時間だったので、なるべく音は立てたくないと思い、そーっと、そーっと、まるで忍者の様に移動して玄関を後にした。


 昼間とは違って、辺りは薄暗く、耳には風にそよぐ葉の音や、虫の声だけが耳に入ってくる。瑠璃は少し怖がりながら、辺りをキョロキョロと見回している。怖いからといって、今さら戻るのも嫌だと思った瑠璃は、少しずつ歩みを進めている。昼間の記憶を頼りにしながら桜がある場所を目指している。少しして、開けた場所まで来た瑠璃は、桜の場所まで来る事が出来た。


 眼前には、月に照らされた桜が幻想的にたたずんでいる。淡い月明かりの色に照らされた桜が、この世の物とは思えない雰囲気を携えている様に思えて見えた。人工的に作られた光に照らされた桜も好きではあるが、月に照らされた桜も良い物だと思っていた。瑠璃は、近くにあったベンチに腰を掛け、しばらく眺める事にした。


 この桜も、もう少ししたら見えなくなるのかと思いながら桜を眺めていると、ザッ、ザッ、と葉っぱのかすれる音でも、虫の鳴き声でもない、地面を踏みしめたような音が、瑠璃がやってきた方から聞こえてきた。音が聞こえた時にブルブルと体が震え鳥肌が立っていた。何、誰か居るのかと思いながら、ゆっくりと音がした方に顔を向けると、そこから人影が現れた。


「ここにいたのね」


 そこに現れた人影は、小百合だった。


「どうしてここに」


 瑠璃は思った事をそのまま口に出していた。


「部屋から外を見ていたら、綾乃里さんが見えたから気になったのよ」


「あぁ、それでだったんですね」


「どうしてこんな時間にここにいたの?」


「えっと、それはですね、部屋から外を見たらいつもより、月明かりが強いと思って、その月明かりに照らされた桜は綺麗かなと思ったので、見に来たのです」


「たしかに綺麗よね」


 小百合はそう言うと、瑠璃の隣に腰かけた。月明かりに照らされた小百合の表情は穏やかそうに見えたが、触れたらすぐに壊れてしまいそうな儚げな雰囲気をまとっている様に瑠璃は見えていた。


「私ね、眠れない日があると、こんな時間くらいの時に庭で散歩していたりするの。だからね、あなたが私の様に何かあって眠れないんじゃないかと、自分の事と重ねて考えてしまっていたのだけど、そうじゃないみたいで安心したわ」


「勘違いさせてすみません」


「謝らないで良いのよ。私が勝手に勘違いしただけだし。いつもはね、みんなに内緒でこうして夜に出ていたから、今こうしてあなたが隣にいるのがちょっと嬉しいのもあるのよ。いつもは、眠れなくて雑念を振り払うためにこうして来ていたから、周りをじっくり見る余裕も持てなかったの。でもね、今こうしてあなたと桜を見るのはなんだか落ち着くわ」


 瑠璃はそう言う小百合の顔を見ると、さっきと変わらず儚げな表情をしているのを見て、放っておけない気持ちになっていた。何もしなかったら本当に消えてなくなってしまうのではないかと不安に思っていた。


「小百合さん、その……迷惑でなければ眠れない時にこうして夜の散歩に行く時は付き合うので、いつでも言ってください」


「ふふ、ありがとう、その時はお願いするわね。ね、一つ思ったのだけど、あなただけ私の事を名前で呼ぶのは不公平よね?」


「え」


「私はあなたの事を苗字で呼んでいるけど、あなたは最初から私の事は名前で呼んでいるわよね? それってちょっと不公平じゃない?」


「そう……です、ね?」


 さっきまで見せていた儚げな表情はいずこやら、今は月夜に照らされて、悪魔のような笑みを浮かべている様に見えていた。


「なら、私の言いたい事は分かるかしら?」


「は、はい、ボクの事は苗字じゃなく名前で呼んでもらえると嬉しいです」


 うん、とうなずいた小百合は、まるで子供の様に無邪気な笑顔で返事をした。


「それじゃ、これからあなたの事は、瑠璃ちゃんって呼ばせてもらうわね」


「はい、わかりました」


「瑠璃ちゃん」


「はい」


「瑠璃ちゃん!」


「は、はい!」


「ふふふ、それじゃ私は先に帰るわね。瑠璃ちゃん、おやすみなさい」


 今まで大人な印象を小百合に抱いていた瑠璃だったが、この時は年相応かそれ以下のような無邪気で子供のような笑顔を見せてくれた小百合に、今までと違う印象を抱いた。これは月夜の見せた夢うつつな幻かもしれない、と一人になった今考えていた。が、すぐに否定した。確かに今さっき隣にいて、話していたことは事実なのだと思いながらも、あんな表情もするんだと、そう思いながらしばらく月に照らされ淡く輝いた桜に魅入られながら思っていた。


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