初仕事後
初仕事後、瑠璃が自室でのんびりと過ごしていると、ノックする音が聞こえた。扉を開けてみると、そこには乙成がいた。
「瑠璃ちゃん、夜遅くにごめんね。ちょっとだけお話したいのだけど、いいかしら?」
「あ、はい、大丈夫です」
瑠璃は乙成を部屋に入れ、ソファに座った。話とは何なんだろうと瑠璃は思っていた。
「話っていうのはね、今日一日働いてみてどうだったかなー、って事を聞きたいんだけどいいかな?」
「はい、初めての事もあって、疲れたのはあるのですが、掃除は前にもバイトでやってた事はあるので、やっていけそうだと思いました」
「そう、よかったわ。何かあれば気軽に言ってくれて大丈夫だからね」
「はい、ありがとうございます」
どうやら心配して話を聞きに来てくれたようだった。瑠璃は何か駄目な所があったのかと思っていた所もあったので、安心した。
「瑠璃ちゃん、足は疲れてない?」
「足ですか? 少し疲れはありますが、このくらいなら大丈夫です」
「そう? でもね、あんまり疲れを残すのも良くないから、マッサージしてあげるね」
「い、いえ! 大丈夫ですよ。だってボクより乙成さんの方が疲れてるのじゃないですか?」
「私なら慣れているから大丈夫よ。それより、マッサージされるのは嫌だったかしら?」
「嫌じゃないです」
料理も作ったりして明らかに瑠璃より仕事量の多い乙成の事を気にかけ断った瑠璃だったが、嫌ではなかったので、無理に断るのも良くはないと思い受け入れた。
乙成が瑠璃のふくらはぎを揉み始めた。優しく、時には強く、瑠璃のふくらはぎを揉んでいる。気持ちよさに心を包まれている瑠璃は顔の力も抜けだらしのない表情になっていた。
「ふくらはぎはね、第二の心臓と呼ばれているくらい大事な所なのよ。下半身に届けられた血液を上に押し戻す必要があるから、しっかりとケアしてあげないとむくみの原因にもなるのよ」
「はいー……」
「ふふっ、気持ちよさそうね。お風呂に入るときに、ふくらはぎを揉むのもおすすめだからよかったらやってみてね」
「はい……やってみます」
「そういえば、今日、小百合ちゃんと一緒にいて、その、様子はどうだったかしら?」
「小百合さんですか? 最初は表情も硬くて、緊張していたみたいでした」
「そうだったの? 晩御飯の時は少し表情が良く見えたのだけど、そうだったのね」
「はい、その後は話をしている内に緊張も解けたみたいで、普通に話せていました」
「よかったわ。ちなみに、どんな話をしていたか聞いても良いかしら?」
「はい、えっと、帰ってきたらいつもこの時間は何をしているのか聞いてみたら、勉強していると言われて、ボクの時は何をしていたかを聞かれたので、勉強もしていたと答えました。……本当はいつもゲームばっかりしていたのですが、勉強していると言われた後に遊んでばっかりだった事を言うのはちょっと恥ずかしく思って、そう答えたら、笑われてしまいました……。どうして笑ったのか聞くと、表情を見て嘘をついているってバレたみたいで……その、ボクってそんなに分かりやすく表情に出てるのですか?」
「あらあら、そうだったのね。んー、確かに、瑠璃ちゃんは表情に出やすいから分かりやすいかもね」
昔、姉や友達にも言われていた気がした瑠璃だったが、会ってからそんなに日が経っていない人にまで分かられてしまうほど顔に出ているのかと分かって少し落ち込んでいた。
「でもね、顔に出て分かりやすいのは、そんなに悪い事ではないのよ。分からない事が多いと、そこに不安や恐怖も生まれるでしょ? だからね、瑠璃ちゃんみたいに分かりやすいと、見ている人も何を思っているか分かるから安心できるのよ。それにね、とってもかわいいからそのままでいてもらえると嬉しいわ」
「このままでいいのですか? あんまり顔に出るのは恥ずかしいので、なんとかしたい気持ちがあるのですが、安心してもらえるならこのままでいいのでしょうか」
「うん、マッサージしている時も、瑠璃ちゃんの顔を見れば力加減もどうすればいいか分かりやすいから、やりやすかったのよ」
「そうだったんですね。マッサージ気持ち良かったです。ありがとうございました」
「いいのよ。私がやりたかったというのもあるのだからね」
「乙成さんって優しいですね」
「ありがとう、優しいって言われるのは嬉しいけど、私が好きでやってる事だからおせっかいでなければ嬉しいわ」
「全然おせっかいじゃないです。嬉しかったです」
「うふふ、そう言ってもらえて良かったわ」
乙成の優しさを嬉しく思いつつ、瑠璃は自分の姉が乙成だったら良かったのに、とも考えていた。しかし、自分の姉じゃないからこそ良いのだろうとすぐに考えを改めていた。
「そうそう、明日の事なんだけどね、朝食の後は私じゃなく、あかねちゃ……三ツ泉さんに教えてもらう事になってるからね」
「明日は三ツ泉さんなんですね」
「ええ、今日とやる事は大体同じだから、大丈夫だと思うわ。その次の日は野々宮さんになるわね。基本的には、私と一緒にやってもらう事が多くなると思うけど、最初にみんながどんな事をやってるか知ってほしいからそうしたのよ」
そう言うと、乙成は立ち上がった。
「そろそろ私は部屋に戻るわね、お話聞かせてくれてありがとうね」
「こちらこそ、マッサージありがとうございました」
おやすみと言って乙成は帰って行った。瑠璃は、部屋で一人になった寂しさを感じつつ、マッサージされたふくらはぎに目を向ける。軽い気持ちになった足をかんじて嬉しく思いながら、あくびをしていた。気持ちよくなったのもあって、眠気に襲われていた瑠璃は、それに抗う事はせず、布団に潜り込み夢の世界に落ちた。




