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一般向けのエッセイ

多様性から一様性へ

 多様性の時代だそうだ。しかしその割には、世界は一様性へと向かっている。少なくとも日本社会はそういう方向に動いている、と私には感じられる。

 

 身近な所で言えば、私はヤフーニュースをトップページにしているのだが、そこでヤフー独自の特集が組まれる事がある。このヤフーのオリジナル記事というものが、全然特色がない。大体、タレントの話ばかりで、私の知らないジャンルで、そのジャンルに詳しくない私を唸らせるような真剣な記事というのは少ない。流行り物を後追いで特集しているのがほとんどだ。

 

 こうした事はヤフーニュースにとどまらない。しかし普通の人と話していても、とにかく流行っているものをなぞっていないと不安になるらしく、アニメですら深掘りすると、奇異な印象を持たれる。

 

 多様性の時代であるなら、それぞれが自分の好きなもの、掘り下げたいものを掘り下げて、それを他の人々に紹介したり、その良さを説明する。そういう相互関係があればいいが、時間が経つにつれそのような関係はむしろ減っている。プロのライターなども、専門家としてそのジャンルを掘り下げる事は稀になりつつある。彼らは自分の所属する業界を褒めて、現代の「流行り」に食い込ませる為に努力しているというだけになっている。

 

 多様性はどうして一様性へと近づいていくのか。まず、多様性という時、「人間は平等だ」という感覚がある。「みんな違ってみんないい」だ。この時点でプロと素人の区別はなくなる。深く掘り下げた人間の意見も、浅くしか見ない人の意見も「平等」だとされる。

 

 そうすると、この「多様性」を集めたものが、一番価値の高いものとなる。そういう価値観が定立される。実際にすべての人間が真剣に、それぞれの好きな物を掘り下げ、万人が万人に対して真剣な議論を行って、本当に良いものを選別していくなら、それは偉大な価値体系になるだろう。もちろん現実にはそうはならない。

 

 現実には一番数の多い、ぼんやりした普通の人の意見が勝利を納める。玄人だけが評価するような作品は、玄人も素人も同じ「一票」に還元されているので、差異は予め消されている。だから、一般視聴者が好む作品が一番素晴らしいとされる。

 

 この一般視聴者は、深く物事を掘り下げたり、考えたりしない。そのような人間はいつの時代でも少数者だ。また、彼らは深く掘り下げない為に、自分の価値観に自信を持てない。そこで、なんとなく面白く、良い作品で、なおかつ他の誰彼も容易に理解できるものがこの社会におけるトップだ、という事になる。それが例えば「鬼滅の刃」とか「君の名は。」だ。

 

 多様性が一様性に向かうのは、全てが原子論的な個に分解されたら、その個を集積させたものが勝ちだという単純な理論に依っている。この理論は逆方向への力としても働く。それぞれの個を集結させるだけでなく、一旦、大衆が認めた作品に関しては、それぞれの個が、それを認めなければならないという圧力に晒されるのだ。

 

 だから「鬼滅の刃」に興味のない人でも、なんとなくそわそわして「鬼滅」を見ないといけないというような気持ちになる。多様性から算出された「一」は逆に、多様な個に対して自分自身を押し付けていく。

 

 プラトンは大衆社会が独裁制に移行すると考えていた。多様な個がそれぞれ、過度な欲望を表明する時、それをまとめあげるような形で独裁制が現出すると考えていた。

 

 原子論的な個人というのは弱いもので、それぞれが不安である。自由は素晴らしい事だとされるが、自由に対して人々は不安を覚える。そこでみんなと同じ事をしたがり、同じ考えを持ちたがる。そうして多様性は一様性へと近づいていく。

 

 「多様性」や「みんな違ってみんないい」という論理を自らの説の正しさに使う人は、私の見る限り、大衆的なものを擁護する人が多い。これは一見矛盾しているようだが、矛盾していない。多様性を主張する事は、多様性の集結である大衆性マスを押し出す事になる。そしてその波に乗っかっている自分自身も肯定される。

 

 そんなわけで多様性は一様性へと近づいていく。これはおかしな事でもなんでもない。一様性が完全に確定すると、旧ソ連のように、権威が認証した単一の物だけを認める世界になるのかもしれない。そう考えると、資本主義はそれ自体の自由性によって、社会主義国家に近づくという事になる。人間の本質はそう変わらないので、主義を飛び越えて自縄自縛に陥っていくのはある意味、必然的な事なのかもしれない。

 

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