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7 登場していたヒロイン

~~蛟視点~~


 私は蛟。やがて龍へと至る幻獣の一種だ。と言ってもこのあたりの設定は世界を作った神ですらあやふやになっているので、特別覚えておく必要はない。


 そんな私を召還したのは随分と変わった人間種の男だった。

 見たこともない奇妙な衣装――もっとも、私が知る人間の服など数種類に過ぎないのだが――に始まり、なんと私のことを怖がることなく、かといって虚勢を張るとか蔑むような態度取ることもなかったのだ。

 あるがままを受け入れていると言い換えてもいい。これはかなり異質なことだ。


 そもそも人間たちの召還術は稚拙で何が召喚できるのか分からない、神が言うところのガチャ?とかのようになっているらしい。

 その上魔力が足りないのかこちらに不快感を与えるものも多くて、契約の都合上最初の命令には従うものの、帰り際の駄賃とばかりに召喚者に仕返しを行う者も後を絶たないのだとか。


 もちろん私はそんなことしたことないわよ。これでも地元では「優しい蛇神様」として通っているのですからね。


 私のことはさておき、そのような召還事情があるためか召喚者はやたらと高圧的か、逆に気持ち悪いくらいに下手にでてくるのが常だった。

 まあ、見ようによっては彼もへりくだっているように見えたかもしれないわね。何せ召喚した私に対して敬語で「お願い」をしてきたのだから。


 だけど私は、そのことが面白いと興味を持ってしまった。

 風貌から振る舞いまで、これまでの召喚者たちとはまるで違う様子に関心を掻き立てられたのだ。


 彼のそばに居座るのは簡単だった。私はただ「お願い」を叶えてあげただけで、送還の必須条件でもある命令を受けてはいなかったのだから。

 そして念には念を入れて、倒した魔物の肉を『対価』として得たことで彼との繋がりは盤石なものとなる。


 そんな彼だが、その出自は私の想像をはるかに超えていた。

 何と神によって異世界から連れて来られてしまったのだそうだ。などほど。ここのところ天使たちが忙しそうにしていると思ったら、この人を受け入れるための調整に飛び回っていたのね。


 基本的にこの世界の神は地上のことをよく見ているし、慈悲深くもある。

 今回の魔王と魔族の侵攻に際しても、いち早く察知して出現場所を大陸の辺境に固定したり、人間たちに警告を行ったりしていたくらいだ。


 ただ……、いかんせん視点が大局的過ぎるのよね。終わり良ければ総て良しというか、大勢を生かすために少数を犠牲にすることをいとわないのだ。

 魔族を倒す生贄にされてしまった彼にしてあげられるのは、気落ちしないように肩を叩いてあげることだけだった。


 予想外だったと言えば、彼が与えられたギフトも常識外れのものだった。ギフトとは極々まれに天から与えられる授かりものだ。

 その内容も少しばかり怪我が治りやすいであるとか、体が頑強であるとか、記憶力に秀でているとかその程度のものばかりのはずだ。


 一日に一度ガチャ――どうやらこれは異世界の言葉で、分かりやすく言うと(くじ)のようなものらしい――を引くことができるなんて聞いたこともない。

 しかも、選ばれるものの中にはタレントやスキルも含まれているというのだから驚かずにはいられない。


 スキルというものは普通習得までに年単位の訓練が必要となるものだ。関連するタレントを持っていること、そして師匠から適切な手ほどきを受けられる環境の二つが揃うことでようやく修業期間を数か月にまで減少させられる可能性がでてくるのだ。

 それを一瞬で習得できるのだから、どれだけ反則じみているのか理解できるわよね。


 そしてタレント!こちらは反則どころの騒ぎではない。

 後天的に取得する場合、スキル習得のように長年努力を続けるのはもちろんのこと、神や天使にそれを認められなければならないのだから。


 いくら神が地上のことをよく見ているとはいっても、一人ひとりをつぶさに観察している訳ではない。彼が言うところの「ピックアップなしの闇鍋状態のガチャで、狙っていた最高レア度のものを補正なしの単発で引き当てる」くらいの幸運が必要になる。


 そういう意味では天使たちの目に留まる方が確率は高いと言えるのかもしれないが、世界を維持する実務を担っている彼ら彼女たちは調和が崩れることを嫌う傾向にある。そうなれば自分たちの仕事が増えるのだから当然よね。

 そのため裁定基準は神よりもはるかに厳しく、複数名での協議となるため気まぐれも起こらない。


 つまり、後天的にタレントを得るというのはほとんど奇跡そのものなのよ!

 正直、目の前で造形の閃きなるタレントを取得された時には、現実の事とは認められずに意識が遠くなってしまったわ。

 割と本気で異世界の人間を巻き込んでしまったことへの神なりの謝罪の気持ちが込められているような気がする。

 彼に言わせれば「それなら普通のチート能力が欲しかった……」ということになるのだろうけれど。


 確かに、中にはハズレっぽいものもあるものね。

 例えば武具類。神が用意しただけあって、彼が引き当てた最低ランクのも物でも超が付く一流の鍛冶師でもなければ鍛え上げられない代物となっていた。だが、タレントやスキル、そして経験すらない者にそれらを与えても宝の持ち腐れにしかならない。

 余談だけど、弓だけで矢は自作しなくはいけなかったのは、神のおっちょこちょいな部分が出たというところかしら。


 一筋縄ではいかないところはあるが、その性能が破格であることに違いはない。この人が私よりも強くなってしまうのは、意外とそれほど遠くない未来のことなのかもしれない。


 その時私はどうなっているのだろうか?

 それでも彼は私をそばに置いてくれるのだろうか?


 思考が逸れてしまったわね。私のことよりも今はあの人のことだ。

 本人の危機意識が高いことに加えて、天使からの助言があったためか、彼は努力家であり強くなることに貪欲だった。

 特に私が魔物を屠ったり解体したりするのに用いていた水流撃が気に召したようで、私に水魔法を教えてくれと乞うてきたのだ。


 一緒に居られる時間が増えるのだから私に否やはなかった。

 ただ、一つだけ誤算があったとすれば、私の呼称が「蛟師匠」になってしまったことかしらね。真面目な彼らしいと言えばその通りなのだけれど、本音を言えばもっと親しげな呼び方をして欲しかった。


 まあ、それについては追々何とかしていくとして。

 彼の水魔法の特訓、これが私にとって様々な意味で未来を決定づけるものとなる。


 指導していく中で分かったことなのだが、私は本当の意味で魔法を理解して使用してはいなかったのである。

 扱えることが当然であるからこそ、深く思考することもなく手足を操る――普段は蛇の姿だから手足はないのだけれど!――かのように本能的に使用していたのだ。恐らく魔法に対して高い適性を持つ者であれば似た傾向を持っているだろう。


 ところが、いざ意識してみれば大気中の魔力の動きや変化やそれに呼応させる内なる魔力等々、魔法という現象一つをとっても世に出すためには様々な要素や事象が複雑に絡み合っていることを知ることができたのだった。


 そうした知識を得て理解をしたことで、私の魔法技術は大幅に向上することとなった。端的に言うと、威力は数段跳ね上がったのに、消費する魔力量の方は激減したのだ。更にこれまでは思いもつかなかった応用もできるようになっていた。


 今ならば上位種である龍が相手でもそれなりの戦いができるかもしれない。もちろん、魔法のみという制限付きではあるが。

 そんなことを考えていたせいだろうか。ふいに目の前が開けたような感覚に陥った。もしも本能に刻み込まれているものでなければ情けなくも狼狽してしまったかもしれない。


(ああ、これが『進化』の道が開けたということなのね)


 『進化』。この世界に生まれ落ちたものの極一部が到達できるという上位種族への大変革。

 どうやら私は魔法への理解を深めたことをきっかけにして、その第一歩を踏み出すことになったらしい。確か人類などはこれを『覚醒』と呼んでいたのだったかしら。


 そんな私の変化はない面だけでなく外見にまで及んでいた。もっともそのことに私自身は全く気付いてはいなかった。


「あの……、師匠?さっきから気になってたんですが、なんか綺麗になってませんか?」


 彼に褒められ……、ではなく!指摘されたことで動揺してしまい、つい尻尾で彼を弾き飛ばしてしまっていた。慌てて容体を確認してみるとただ気絶しただけだった。私と一緒に周辺に出没する魔物どもを狩ってレベルが上がっていたことが幸いしたようだ。


 ほっと安堵した次の瞬間、自分の感情にドキリとする。


 最初に彼との繋がりを求めたのは興味本位だった。それは本当だ。

 彼の数奇な身の上話を聞いて同情したことも間違いない。しかし、その時はまだそれだけだったはずよ。


 尻尾に乗せた彼の顔を覗き込んでみれば、胸の高まりは一層激しさを増していった。そしてその一方でそれを心地よく感じている。……驚いたことにわずか数日間の同居生活で、私は彼にすっかりとほだされていたようだ。自覚した途端に今度は執着にも似たどろりとした想いが沸き上がる。

 そして、これもまた本能的なものだったのだろう。その感情こそが私にとって『進化』の鍵もしくは壁になるものだと悟った。

 ……ふん!上等だわ。乙女の恋心ってものを存分に見せつけてあげようじゃない!


 と、かすかに身動ぎをして彼が目を覚ます。そのぼんやりとした表情を見ただけで申し訳ない気持ちで一杯になり、あれほどまで燃え盛っていた気炎はすっかり小さくなっていた。

 後から冷静になって考えれば、落ち込んでいた私を励まそうとしたのだろうと分かった。が、それでもあのセリフはないと思うのよ。


「余計なこと言ってすんませんでした」


 ええ、ええ。思わずそれはそれは深ーい溜息を吐いてしまいましたとも!

 彼からしてみれば目についた変化を指摘しただけだったのかもしれない。それでも褒めてもらえてとても嬉しかったのだ。それをなかったことにするかのようなことを言われれば、呆れもするというものよ。


「あだっ!?」


 するりと尻尾を引き抜いたことで、地面へと打ち付けた後頭部を抑えて転がりまわる彼。悪気はなかったとはいえ、悪気がないからと何を言っても許される訳ではないのよ。


 まあ、でも、これはこれで攻略のし甲斐があるというものかしらね。

 ふふふ。覚悟しておきなさい。蛇の女はしつこいんだから!




~~ 一章 完 ~~

お読みいただきありがとうございました。


それにしても見事に『R』ばかりでしたねえ。

まあ、「作者のリアルラックのなさを見せつけてやる!」というのが書き始めた動機ですので、これもある意味成功と言えるのかもしれません。

ちなみに本作を書き始める直前にやったソシャゲのガチャはどれもこれも惨敗でした(泣)



さて、ここで少し補足説明を。

蛟さんが語っていた通り、主人公が獲得できるタレントやスキルは『R』でもチート級です。

結果的にパワーレベリングとなったことも含めて、一章終了時点でヒューマン種族としてはトップクラスの強さとなっています。本人は全く気が付いていませんが。


一方の蛟さんですが、『龍』への進化こそ未定――進化しちゃうと強すぎるので……――ではあるものの、すぐに人化を習得してヒロインとして動き出すことは間違いないでしょう。

しかし、まさかあの子がヒロインになるとは作者自身も予想外でした。行動範囲を広げるためのサポートキャラのはずだったのになあ。

もっとも、こういう思いもよらない楽しさがあるので書くことを続けられているという部分はあります。



「続きが読みたい!」おtか「果たしてURが取れるのか気になる!」という方は、ぜひ感想や評価の方をよろしくお願いします。

作者は単純なので、モチベーションがアップしてすぐにでも続編の執筆にとりかかることでしょう。


本作の続きか、別の作品でまたお会いできることを祈って。






……あ、未だに主人公の名前を考えていなかった。

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