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6 異世界十日目

 蛟さん、いや師匠との共同生活が始まって三日が過ぎた。

 ログボガチャの引きの良さもあり、この異世界生活も少しばかりは余裕が持てるようになってきた。全てランクはRだったものの、スキルの下級射手、タレントの造形の閃きと続けざまに有用なものを引き当てたのだ。


 スキルは読んで字のごとく遠距離攻撃の技能を習得するもので、レベルアップ――蛟さんがゴリラ猿を倒した時に上がっていたらしい――したことで上昇した能力値とも相まって、周辺の魔物相手にも通用する一端の攻撃ができるようになっていた。


 造形の閃きは物づくりに関する才能だが、育成方面には効力がないため発明の閃きの下位互換なのでは?と取得した時にはガッカリとしたものだ。

 ところがどっこい、特化している分だけ無機物の製作にはより詳しい知識を得ることができた。


 例えば矢だ。ゴリラ猿の骨は堅い割に軽く、鏃にするにはもってこいの素材だった。

 発明の閃きで得ていたのはそこまでだったのだが、造形の閃きを取得した途端、鏃に使いやすいように骨を割る方法や鋭くするための研ぎ方などが頭の中に思い浮かべられるようになった。

 これによって攻撃力と製作効率が上がり、狩りでも師匠の相棒に相応しい働きができるようになったのだった。


 例えば革製品。毛皮を漬け込む薬液づくりに欠かせない素材が判明したことで、初回になめしたものとは比べ物にならないくらい柔らかく着心地の物を作ることができるようになった。

 縫製の知識も増えたことでまともな形の服を作れるようにもなり、原始人ルックから卒業することもできた。

 まあ、アレはあれで味のある格好だったと思えなくもなかったのだが。


 このように異世界に連行されて十日目にして、ようやくまともな生活が営めるようになった……、え?ログボガチャの三つ目?


 ……それまでの反動のようにRの大剣、シルバーブレードだったよ。

 まあ、戦いの申し子のタレントがあるから最低限使うことはできるんだが、ここの魔物たちと正面から斬った張ったができるかとなると、やはりそう簡単な話ではない訳で。


 初遭遇した時のこともあって、ぶっちゃけ怖いのだ。蛟師匠がいるとしても、一度こびりついた恐怖心は易々と拭い去れるものではないのだよ。

 一応いざという時のために狩りの際には持っていくようにしていたのだが、サブウェポンというには存在感があり過ぎな気もする。主に大きさ的な意味で……。


 おっと、師匠のことも詳しく説明しないといけないな。

 と言っても話自体は単純で、種族的に熟練の水魔法の使い手である蛟師匠に弟子入りさせてもらった、というだけのことである。


 余談だが、この時ついでに俺の事情の方も説明したのだが、とても可哀想なものを見る目を向けられた上に、「その内良いこともあるさ。……多分」な調子で、尻尾の先で肩を叩かれたのだった。


 実はあのウォータージェットは口から吐くブレス的なものではなく魔法だった。

 攻撃にも解体にも使えるという万能具合に憧れていたこともあり、「それなら俺でも使えるようになるかも?」とついつい色気が出てダメ元でお願いしてみたらあっさりと承諾してくれたのだ。


 師匠、親切過ぎじゃね?

 悪い奴に騙されないかと、ちょっと本気で心配になってしまったぜ。


 そして彼女――なんと師匠は雌、いや女性だった――に教えを乞うて訓練した結果、水魔法の扱いが飛躍的に上達することになる。

 ……俺ではなく師匠の、ではあるが。


 先ほども述べたように水魔法に長けているのは種族的な部分が大きかった。つまりは本能的に扱っていたのだ。

 そのため、魔法の使い方講座は困難を極めることになってしまった。


「しゃ」

「……いや、師匠。とりあえずやってみてと言われてもそのやり方が分からんのですが?」


 初回の時などはこんな有様だったんだぜ……。

 まあ、普段当たり前のように行っていることを改めて説明するというのは案外難しいところがあるからなあ。

 ところが蛟師匠は諦めることも見捨てることもしないで訓練を続けてくれた。それどころか、感覚頼りで使用していた魔法を理論的に考察する――多分、そういうことだったのではないかと思われる――ことによって、魔法に対する理解を深めてより効率的により的確に使用することができるようになったのだった。


 一方の俺はというと……。


「ウォータージェット!」


 じょろろろろ。

 突き出した指先からは蛇口から出る程度の太さの水流が溢れ出し、一メートルほど先の地面を水浸しにしていた。

 ウォータージェットどころかホースの先端をつまんだ状態にすらほど遠い勢いである。


「しゃー……」

「師匠、慰めはいらないっす……」


 これでも一人で訓練していた時に比べれば格段の進歩ではあるのだが。

 一度に数リットル分は生み出せるようになったし、それを一日に何度も行えるようになっている。水以外の魔法となると、比較的使用頻度の高い火魔法でもようやくマッチからライターに格上げになった程度だし、光魔法は持続時間が十秒しかないのでログハウス内の寝具に潜り込むときにしか使えないという体たらくだ。

 他の属性については言わずもがなである。


「ぐぬぬぬぬ……。一体何が悪いというのか。MPの方は足りてるんですよね?」

「しゃ」


 師匠の見立てによれば、ウォータージェットを使用するためのMPは問題なく足りているとのこと。

 まあ、ゴリラ猿だけでなく周辺に出没する魔物を彼女と一緒に狩り続けていて、レベルも四十二にまで上がっているからな。相応に能力値の方も上昇しているのだ。


「しかし、そうなるとなおさら問題点がどこにあるのかが分からんなあ」


 スキルを習得できていないから、となると身も蓋もないので、その点は一旦置いておくことにする。


「後は……、イメージが明確にできていない、とか?」


 魔法はイメージというのは、ラノベでは比較的よくある設定ではある。

 異世界転移という王道(べたべた)の展開に巻き込まれているのだから、ここは一つ先人の知恵(おやくそく)にならってみるのも手かもしれない。


 しかしどうせ王道展開ならログボガチャのようなむらっ気のあるものではなく、俺Tueeeee!!ができる分かりやすいユニークギフトが貰いたかったぜ……。


 などと余計なことを考えていたのがバレてしまったのか、腰のあたりをぺしっと尻尾で叩かれてしまう。


「しゃっ!」


 蛟師匠から「めっ!」という感じでお叱りを受ける。注意力が散漫になると魔法の暴発もあり得るのだ。

 特に俺の場合は自分で把握できていないほどに急激にMPが増加しているから、もしもの時の被害に予想が付かない状態だった。

 危険だと分かった上で付き合ってくれているのだから、叱られるのも当然という訳だ。


「うっす。すんませんでした」


 明らかに俺が悪いのですぐさま謝る。

 だが、一度切れてしまった集中力はそう簡単に戻ることはなかった。


「あの……、師匠?さっきから気になってたんですが、なんか綺麗になってませんか?」

「しゃ?しゃ!しゃ!?」


 今朝くらいから神々しさが増している気がする。何故だかワタワタしている今の様子を見ていると気のせいだったのかと思ってしまいそうだが。

 とはいえ、鱗の色合いもどことなく透明感がでて更に美しくなっているのは間違いない。


「しゃー!」

「ごっふう!?」


 突然の尻尾攻撃になす術もなく吹っ飛ばされる俺。

 し、師匠……。気に障ったのなら謝りますから、視界の外からの攻撃は勘弁してください。ガクッ……。


 目が覚めると既に西の空が赤に染まりつつあった。

 あー、矢の作成ができなかったな。まあ、まだ予備もあることだし、たまにはサボっても問題ないだろう。


「しゃー……」


 それよりも俺の顔を覗き込みながら申し訳なさそうに項垂れている師匠の方が問題だ。

 どうやら全男子憧れの女子の膝枕、ならぬ尻尾枕をされている状態のようだ。首に負担がかからないように絶妙な高さに調節してくれているのが心憎い。


 いきなりの攻撃には驚いたが、そもそも俺が魔法の訓練中に集中力を切らした上に、不用意なことを口にしたことが発端だ。謝らなくてはいけないのはこちらの方だろう。


「余計なこと言ってすんませんでした」

「…………。しゃー……」


 え?師匠、なんでここで盛大なため息!?


 ゴチン!


「あだっ!?」


 その真意を問う前に尻尾が引き抜かれたことで、重力に従って俺の頭は地面へと激突する。高さ自体は大したことないのだが、いかんせん突然のことで体が全く対応できなかった。


「ぬおおお……」


 痛みに地面を転げまわる俺を残して、蛟師匠はプイッと顔をそむけたままどこかへ去って行ってしまったのだった。



〇今回のガチャ結果

八日目 ログボガチャ  35・38(R) 下級射手

九日目 ログボガチャ  25・7 (R) 造形の閃き

十日目 ログボガチャ  59・32(R) シルバーブレード



名前  : 

種族  : ヒューマン

レベル : 42

ギフト : ログボガチャ

タレント: R発明の閃き R戦いの申し子 R造形の閃き

スキル : R下級育成 R下級罠師 R下級射手

武具  : スチールボウ×1 シルバーロッド×1

      シルバーブレード×1

カード : URクイーンフェアリー×1



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