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5 頼りになるひと

「はっ!?」


 トンと肩に軽い衝撃が走ったことで我に返る。見ると端正な蛟さんのお顔が間近にあるではありませんか。

 一抱えほどもある大蛇の顔が目の前にあるだなんて、元の世界にいたころなら卒倒ものだっただろうが、先ほどピンチを救ってくれたこともあって恐怖を感じることはなかったのだった。


 ところでその蛟さんですが、戦闘が終わったのにまるでいなくなる気配がないのだが、これいかに?


 てっきりゲームのように敵を倒したところで召喚の効果が切れて帰ってしまうものだとばかり思っていたのだが、こちらの世界では勝手が違うのかもしれない。

 まあ、別に暴走して誰彼構わず攻撃を仕掛けているのでもないので問題はないな。むしろ頼りになる用心棒の先生がそばに居るというメリットしかない。


「あ、そうだ。蛟さん、助けてくれてありがとうございました」


 条件が不明である以上、いついなくなってしまうかも分からない。感謝の気持ちは早めに伝えておくべきだと頭を下げる。


「しゃ」


 それに応えるかのように小さく鳴く蛟さん。ゴリラ猿と対峙していた時にはテンパっていてそこまで気が回らなかったが、蛟さんはこちらの言葉を喋ることこそできないようだが逆にこちらの言葉はしっかりと伝わって理解しているらしい。


「しゃ。しゃ」


 そして瞬殺したゴリラ猿のことをしきりに気にしている。


「やば!そういえば死体をそのままにしちゃってるよ!」


 血の匂いに釣られて魔物が集まって来ては困る、と考えていたことをすっかりド忘れしていたぜ。早くセーフティーゾーンの中に運ばなければ!


 慌ててゴリラ猿の遺骸に近づいたところで、その死因が明らかになった。額に指先ほどの穴が開いていたのだ。更によくよく見てみると、頭の後ろの剛毛も血で濡れているところがある。

 つまり蛟さんは魔法か何かでゴリラ猿の頭を貫通させて倒した、ということであるらしい。

 まあ、その手段がさっぱり分からないので、だからどうしたという話になってしまうのだが。


「しゃしゃ」

「うおっ!?いかんいかん。のんびりと観察している暇はないんだった」


 考察も推測も後回しにして、まずはこいつを運んでしまわないと。


「しゃー」

「あ、片付けまで手伝ってもらって申し訳ないっす」


 蛟さんの協力を得て、なんとかゴリラ猿の巨体を運ぶことができた。

 ……実際はレベルが上がり、それに伴い予想通り身体能力も大幅に向上していたため、ほぼ俺一人の力で運んでいたのだが、そのことに気が付いていなかったため、本気でそう思っていたのだった。


「はあ、ひい、ふう……。でっかいだけあってとんでもない重さだったな」


 セーフティーゾーンに帰り着き、放り出すようにしてゴリラ猿の死体を転がした俺は、荒い息を吐きながらその場にへたり込んでしまった。

 もっとも、本当に大変なのはこれからだったりするのだが。


 発明の閃きの影響なのか、早急に解体して死体の処理を行わないと不味いことになる、と頭の中で警報が鳴り響いていたのだ。

 だが、しかし!今の俺には肝心の解体をするための(スキル)がなく、その上そうしたことに使えそうな刃物すら持ち合わせていなかった。

 あれ?割と手詰まりな状態じゃないか?


「しゃー」


 そこへ出番が来たとばかりに鳴き声を上げる蛟さん。


「えーと……、もしかして解体を手伝ってくれるんですか?」

「しゃ」


 首肯するかのように頭を縦に振る。願ったり叶ったりのため、すぐにその提案を受け入れることにした。

 そしてこの解体作業を見ることで、ようやく俺は蛟さんがゴリラ猿を仕留めた方法を理解することになるのだった。


 簡単に一言で説明すると、ウォータージェットやウォーターカッターだ。口から超高圧な水流を吐き出して、頭蓋を貫通する必殺の攻撃を仕掛けたらしい。

 そして今、その応用で剛毛に覆われたゴリラ猿の皮がすっぱりと切り裂かれていた。


 ちなみにこの毛、さっき運んだ時にがっちり掴んでいたのだが、一本も抜けなかったんですけど……。

 それがカッターで切り裂く余波で何本もはらはらと舞っていた。


「しゃ」


 本日二度目の呆然としていたところに、蛟さんからお呼びがかかる。どうやら腹を切り裂く作業は終わったらしい。

 そして気のせいでもなんでもなく視線を感じる。そっと視界の端に捉えて探ってみれば、蛟さんがこちらをチラチラと伺っているようだった。


 これは、あれだな。

 もしかしなくても「食べたい」ということだと思われる。


 そういえば獣や魚はすぐに血抜き処理を行わなければ肉が不味くなってしまうのだったよな。蛟さんがゴリラ猿を瞬殺してからかれこれ数十分は経過しているから、既に時間切れとなっている可能性は高い気がする。


 幸いにも倉庫にはまだ大量の例のブツが保管されているので、何が何でもこいつの肉を食らう必要はない。

 ならば美味しく食べることができる――と思われる――蛟さんに、感謝の気持ちも込めて進呈するのはアリなのではないだろうか。


「血抜きとかの処理が不十分なんで少し味が落ちるかもしれないですけど……、食べます?」

「しゃー!」


 本日一番の良いお声でした。語尾に音符マークが付くくらいの上機嫌だったよ。


「あ、できれば骨とか皮は残してもらえると助かるん、です、けど……」


 蛇と言えば丸の皆イメージがあったため、ついそんなことを口走ってしまったのだが、


「しゃー……」


 本日一番の不機嫌な声を返されることになってしまった。いや、残念そうだとかではなく、元よりそうした部分は食べたりはしないらしく、「お前は私のことを何だと思っているのだ?」と目で訴えられてしまったのだった。ごめんなさい。


 そして、蛟さんによる解体と食事が始まった。……うーん。こいつはなかなかにグロテスクな絵面だ。残酷描写アリの警告では足りず、成人向け指定にする必要のあるレベルだわ。

 生肉と言えば食料品売り場に並ぶパック入りのものしか見たことのないだろう日本人の大半にはきつい映像かもしれない。


 その上に実物を間近にすると匂いや音、熱なども加わるから、衝撃の度合いは軽く数倍に跳ね上がることになる。

 正直、精神の適応化が行われていなければ、今頃胃の中のものを全てぶちまける羽目になっていただろう。


「しゃしゃしゃー」


 そんな世紀の衝撃映像が続くこと十数分。満足そうな蛟さんのそばには、一片の肉もこびりついていない全身の骨格と毛皮――爪付き――だけが残されることになったのだった。

 ……大丈夫だぞ。俺も突っ込みたくて仕方がないから皆の言いたいことは分かるとも。


「漫画かよ!?」

「しゃ?しゃー」


 蛟さん。「どうかした?」じゃないから。

 いや「ごちそうさま」でもないから。

 まあ、満足してもらえたようなので、その点は良かったのだが。


 それにしても見事なものだ。骨の方はそのまま標本として博物館にでも飾れそうだし、毛皮の方は着込んでゴリラ猿に変装することができそうだ。

 いや、やらないぞ。振りでも何でもないからな!?


 着込んだりはしないが、服や寝具には加工したいところだ。

 今のところはログハウスの床に直接ごろ寝しても風邪をひかない気温が続いているが、今後も同じだとは言い切れないからな。

 冬場になったり天候が崩れたりして寒くなることは十分に考えられる。今から快適な睡眠環境を整えておくことは重要だ。


 それに服の方もいつまで保つのか分からない。替えがないということもあって、俺は召喚された時に身に着けていたのだろうシャツとジーンズ、それに下着の上下をずっと着用し続けていた。

 魔法か何かがかけられている――Gが役立つはずはないから、恐らくは天使さんたちがやってくれたのだろう――らしく今のところ傷む様子はなかったが、いい加減にそろそろ着替えたいのだ。


 骨に関してはそれこそ大小様々だし太い物から細い物まであるので、適宜道具に加工していけばいいだろう。まずは鋭い爪と組み合わせて、毛皮を切ったりするナイフの代用品を作る必要がありそうだ。


「やらなきゃいけないことは大量にあるし、快適スローライフには程遠い生活だなあ……」


 それでも食と住の心配をしなくていいだけ恵まれているというものだ。

 まあ、食の方はアレが空っぽになるまでというタイムリミットがあるのだけれど。


「まずは皮をなめすところから始めるか」


 毛皮の内側に肉片や皮脂は残っていないようだが、放置していては傷んでしまうのはこちらの世界でも同じだろう。

 骨の方は簡単に風化するものではないので、洗ってログハウスの片隅にでも置いておけばいいだろう。


「まずは大雑把に水洗いして、乾燥させるついでに煙で燻して毛の中にいるかもしれない虫を退治するか。それから水に付け込んで洗浄して……、これMP足りるのか?」


 乾燥と燻しに使う焚火はその辺りで生い茂っている生木の枝をへし折って集めておけばいいので、小さな種火をつくるだけのMPで何とかなる。

 が、水の方はそうもいかない。洗うにも漬け込むにも大量の水が必要となり、それを魔法で生み出さなくてはいけないのだ。


「しゃー?」


 突如降って湧いた難問に頭を悩ませていると、横合いから蛟さんがやってくる。

 って蛟さん!?


「何でまだ居るんですか?っていや、居てくれていいんですけど、対価になるような物を渡した覚えがないんですが?」

「しゃー」


 そういう俺に対して、何言ってんだと言うように毛皮と骨の方へとその鎌首を向ける。

 え?あの肉を上げたのが対価として認定されたのか?


「ゴリラ猿を倒したのも蛟さんなのに、それってありなのか?」

「しゃ」


 呆然と呟いた俺の言葉を肯定するように、頭を縦に振る蛟さん。

 他ならぬ本人?がそう言うのであれば、俺としては否やはない。それどころか大幅戦力アップとなるので、こちらからお願いしたいくらいである。


「差し出せるのは狩った魔物の肉くらいですが、それで良ければこれからもお願いします」

「しゃー」


 こうして、俺の異世界生活に蛟さんという思わぬ同居仲間ができたのだった。



〇日数経過がないのでガチャはなし



名前  : 

種族  : ヒューマン

レベル : 37

ギフト : ログボガチャ

タレント: R発明の閃き

      R戦いの申し子

スキル : R下級育成

      R下級罠師

武具  : スチールボウ×1

      シルバーロッド×1

カード : URクイーンフェアリー×1


R蛟×1は使用によりロスト。しかし召喚した蛟が仲間に!?


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