表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3 ああ、ガチャ無常

 おはよう、諸君。俺はと言えば目が覚めたら元の世界だったぜ、なんだ夢オチかよ。

 ……などということもなく異世界で初めての朝を迎えることになっていた。


 扉や窓の隙間から差し込んでくる光の様子から本日も良い天気のようで、早々に活動を始めたのか小鳥たちの鳴き声が聞こえてくる。

 そんな爽やさかを絵に描いたような朝だが、率直に言って俺の気分は最悪である。


 何故か?寝具の代わりになりそうな物すらなくて、床にごろ寝することになったからだよコンチクショー!

 それでも体調の方は全く問題が見られないあたり、施されたと思われるこの世界への適合化はしっかりと仕事を果たしてくれていたもよう。


 そしてもう一つ、俺の精神をゴリゴリと削るものがあった。いつの間にかメニュー画面が起動しており、またもやけばけばしい色合いで『本日分のログボガチャを回す』の文字が躍っていたのだ。

 ちなみに、残る二つの項目も健在である。そういえば昨日はドタバタしていたので何の疑問にも思わなかったが、あれはチュートリアルと呼んでもいいものなのだろうか?


「悪いがお前は後回しだ。気にならないと言えば嘘になるが、先にやらなくちゃいけないことがあるからな」


 昨日から結局飲まず食わずのままとなっているのだ。いい加減に何か腹に入れないと比喩でもなんでもなく空腹のせいで身動きが取れなくなってしまう。


 そんな訳で目指すは裏手にある倉庫だ。かまどもなければ器もないので、加熱せずにそのまま食べられるものがあるといいのだが。

 好んで食べてはいなかったのに、二度と食べられないかもしれないと思うとカロリーバーやゼリー系食品ですら恋しくなってしまうのだから不思議なものだよな。


 さて、気になる非常食だが……。手のひら大の木箱の中に木の実のようなものが十粒ほど入っていた。そしてその木箱の表側には『神実(かみ)』と焼き印がされていた。


「な、なんだこれ?……ぶふっ!?」


 恐るおそる手に取って裏返した瞬間、吹き出してしまう。

 なぜならそこには『一粒三百キロメートル!』という文字と一緒に、両手を高々と上げて走る男の絵が記されていたからだ。


「グ〇コかよ!」


 思わず突っ込んでしまった俺は悪くない。

 くう……。空きっ腹に響くようなことをやらせやがって。これを準備したのはGの奴に間違いない。『神実(かみ)』という名前からしてそれっぽいし。


 俺の予想は当たっており、天使さんからのメモ――昨日は見落としていた――によると神界にある大木に生る実を加工した物とのことで、一粒食べれば一日から二日程度は活動が可能であるらしい。


「グリ〇かと思わせておいて実はセ〇ズなのかよ。色々混じってんぞ。ん?『某豆とは違い傷を癒す力はないのでくれぐれもご用心ください』か……。まあ、そこまで都合良くはいかないよな」


 一人なら半年程度は保つだけの分量を確保してくれているという言葉通り、棚にはびっしりと木箱が並んでいたのだった。

 空腹には勝てず、とりあえず一粒取り出して口の中へと放り込んでみる。


「味の方は……、うん。食感とも合わせて木の実っぽいと言うか豆っぽいというかそんな感じだな」


 決して不味くはないのだが、塩も何も振られていないので少々味気ない。

 そして腐敗防止のために乾燥させているせいなのか、口の中の水分をすっかり奪われてしまった。


「これは飲み水必須だな。……魔法の訓練頑張ろ」


 一つの問題が解決した?かと思えば次の問題が出てくる。いやはや、前途多難だわ。

 ぱさぱさになった口内を潤すべく何度も魔法で生み出した水をすする。危機感を覚えて火事場の馬鹿力的なものを発揮したのか、それとも昨日からの積み重ねがタイミングよく形となったのか、一息つく頃には片手一杯分の魔法を生み出せるようになっていた。


 しかし、腹がこなれて落ち着けたのも束の間のことだった。

 不意にくらりと眩暈に襲われる。


「う……、これは世に言う魔力切れとかMPが枯渇しているってやつか?」


 いくら魔法と呼ぶのもおこがましい初級も初級、基礎の基礎な行いであっても代償となる魔力もしくはMPは消費している。

 塵も積もれば山となるように、何度も使用したことで俺の中にあるそれらが売り切れてしまったようだ。


「おっふ……。立ってられないとかシャレにならんぜ」


 辛うじて転倒ではないという勢いで崩れるようにして座り込み、大きく息は吐く。受け身を取る余裕すらなくなっていたから、打ち付けたおケツが痛いぜよ。

 虚脱感だけで気分が悪くなったり眠気に襲われたりといった症状はないのが救いか。


 それでも身動きできなくなるほどというのは問題だ。水はともかく食べ物の方は限りがあるから、時間を無駄にすることはできないのだ。

 まあ、幸い今は動けなくてもできることがあるのだが。


「はいはい。みんな大好きガチャの時間ですよ、と」


《本日分のログボガチャを回しますか?》


「いえす」


《Rサモンカード、(みずち)を獲得しました》


 ……ソシャゲのようにガチャ演出がないのは分かっていたが、「何が出るかな?」と考える間もなく結果を発表しやがった。


「それもまたサモンカード!?しかもランクは(レア)なのかよ!」


 種族が違うから一概にそうだとは言えないだろうが、結果だけを見れば昨日取れたクイーンフェアリーの下位互換ということになる。

 いきなりこんな世界に拉致されてその上訳の分からない状況に置かれている時点で自分のリアルラックには期待していなかったが、もう少しくらいはチートっぽい展開になってもいいのではないだろうか。

 ちなみに。解説はこんな感じだ。


『蛟。水属性との高い親和性を持つ大蛇で龍の前身とも言われている。その説に違わぬ強さで水属性の魔法攻撃は並みの魔物ならば瞬殺できるだけの威力を誇る』


 ランクそこレアだが十分な強さの切り札にはなりそうではある。それでも現状俺自身に継続戦闘能力が皆無であるため、やっぱり一回きりの消費型というのが痛い。


「神は死んだ……」


 いや、そもそもこの世界の神ってアレ()だったな。つまり元よりあてにならなかったということか。


「天使さんたち、すまねえ。割と本気でセーフゾーン《ここ》から出られないかも……」


 やっぱりある程度は生き残れる自信が欲しいよ。

 魔物に頭から美味しくいただかれるのも、魔族に獲物としていたぶられるのも、人類に異端者として迫害されるのも真っ平ごめんなので!

 いっそことそうした争いとは無縁な、例えば精霊とか妖精とかに保護でもしてもらえないものかね。


「うん?妖精?」


 そういえばそれらしきお方にコンタクトを取る手段があったような……。

 そう、クイーンフェアリーとか。クイーンフェアリーとか、クイーンフェアリーとか。


「いやいや。いやいやいやいや!現状最強の切り札をできるかどうかもはっきりしない亡命に使うだなんてそんな……」


 第一、交渉に応じてもらえないかもしれないし、よしんば上手くいったとしても本当に争いに無縁なのかどうかすらも定かではない。

 無駄に手札を失ってしまうだけ、という最悪な結果になる可能性も高い。


「落ち着けー。なにもこの瞬間からやばいって訳じゃないんだ。大丈夫だ。まだ時間はある、はず!」


 倉庫にはたっぷりと似非セン〇が置かれているし、場所も人里に加えて魔族との戦場からも遠く離れた森の中だ。

 魔物たちの支配領域(テリトリー)になるため、世紀末なヒャッハー強奪集団が現れる可能性は相当低い。当の魔物たち――と、ついでに魔族――も天使さんたちが張ってくれた結界のおかげでログハウス周辺には立ち入ることができなくなっている。

 うん。焦る要素なんてどこにもなかったな!


 まあ、油断しすぎるとあっさり破滅行きとなるのがこの手のお約束でもあるので、気を緩め過ぎずに努力を続けていく必要はあるだろうけれど。

 はあ……。どうせ転移するなら、楽々スローライフ系の異世界なら良かったのに……。

 後、健全な男子的にはハーレムとまでは言わないからお嫁ちゃんも欲しいっす。


 そんなこんなでログボガチャでタレントなり武器なりが取れて、戦闘ができるようになるまではセーフティーゾーンの中で過ごすことにする。

 寝具にできそうな毛皮や服に加工するための糸が欲しいところだが、怪我をしたり死んだりしてしまっては元も子もない。

 ここには「死んでしまうとは情けない」と容赦のないことを言ってくれる王様もいないのだから。


 まあ、魔法の練習にかまど作りと、やることはいくらでもあるので退屈している暇はなかった。

 何せどちらもまともな食生活を送るためには必須だったからな。余った粘土でいくつか器っぽい物も作ることができたので、多少は文化レベルが進化したように思う。


 さて、その間のログボガチャの結果なのだが……。

 これは直接見てもらった方が早いかな。


 三日目。


《Rスキル、下級育成を習得しました》


「タレントがあったからスキルもあるだろうとは思ってたけど、やっぱりあったか!発明の閃きとのシナジーも期待できそうだし、これはいいものが取れたな」


 育てるための諸々が手元にないという大問題が横たわっていなければ、もっと素直に喜べたんだけどなあ!


 四日目。


《Rスキル、下級罠師を習得しました》


 ある意味攻撃手段と言えなくもないことはないかもしれない。一応罠の作成にもタレントの効果が及ぶようなので、悪くはない、と思う。


 五日目。


《R武器、スチールボウを獲得しました》


 ねんがんのぶきをてにいれたぞ!

 罠と組み合わせれば狩りができる!


「って、弓だけなのかよ!?矢は自作しなくちゃいけないとか詐欺じゃね!?」


 追伸。弓を引くのって結構力がいるのね。それ以上に矢をまともに前へ飛ばすのが難し過ぎるんですけど!?


「神は死んだ」


 いつかと同じ台詞を呟きながら、ガチャ運の悪さにガックリと項垂れることになる俺なのだった。



〇今回のガチャ結果

二日目 ログボガチャ  89・24(R) サモンカード蛟

三日目 ログボガチャ  47・13(R) 下級育成

四日目 ログボガチャ  52・18(R) 下級罠師

五日目 ログボガチャ  78・17(R) スチールボウ



名前  : 

種族  : ヒューマン

レベル : 1

ギフト : ログボガチャ

タレント: R発明の閃き

スキル : R下級育成

      R下級罠師

武具  : スチールボウ×1

カード : URクイーンフェアリー×1

      R蛟×1


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ