スイートアッサム
感想で第1話の“ぱわぁ”がパワーのきんに君に読めるとのお話をいただき、作者も逃れることなく罹患致しました!!
これはもう!是非とも増やさねば!とサクサク
楽しく書かせて頂きました!
「ぱぱぱーーパワー!」
失礼致しました。力が…みなぎ…コホン。
今のは幻聴でございます。皆様お気になさらずにお願いいたしますわね。うふふ。何せ私は王女ですの。
4人兄妹の末っ子として大切に育てられたお姫様。幸せでなくてはならない。常に礼儀正しく優しく朗らかで天真爛漫に笑う、それはそれは美しい女の子という設定でございます。
今は領地に赴いてしまい、中々会えないけれど…年の離れた優しい兄と優秀で少し怖いけど優しい兄と元気いっぱいの剣術大好きで誠実な優しい兄。
3人の兄に囲まれて育ったの。真綿でくるむ様に清らかな私は…限界だった。
何故ならば私はスポーツ女子だったからだ!これでもレスリング全日本を制覇し、恐縮ながら次代の霊長類最強の二つ名を頂けるまで後一歩だったのだ!
どうも、交通事故に巻き込まれて死んでしまったようだ…うろ覚えだけど…。
母さまには転生なんてそんなもんよと言われたから気にしていないのだけど…。
あっ!お母様にはちゃんと話しているのよ。子供の時に覚醒して、パニックになってしまった私をお母様は優しく抱き締めて落ち着くまで待ってくださったの。
それから少しずつゆっくり自分の事を話してくださったわ。
お母様も転生者であること。お母様以外にも転生者が居ること。だから、不安にならなくて大丈夫。貴女だけではないし、お母様が支えるわって言って下さって…安心できたからゆっくりと自分を受け入れていけたの。
でも、ギャップがすごすぎて…日本でペットボトルから水をがぶ飲みしていたのが、水差しからグラスに水を注いだものを侍女から貰って飲むのよ!?
あーー!ってイライラして仕舞うのは仕方の無いことだと思うの…。
だから、私…一時期癇癪持ちだと思われていたわ。
それに、問題はまだあったの。スポーツのすの字もやらせて貰えないってこと…これ、かなりストレス。こちとら現役バリバリ毎日長距離走ってたっつうの。
そんな風に思っていたらお母様がもっとも信頼しているコデマリという侍女を私につけてくれたの。外を走る事はできなかったけど、コデマリと二人だけの時は室内でできるバランスボールとか、トランポリンとかを持ってきてくれてできるようになったのー!!
本当に転生者居るんだなって思ったわ。そんなグッズあるわけ無いものね…知識持ち込まなきゃ。
めちゃ助かったッス!あざーっす!
一心不乱やってしまったわ…次の日は筋肉痛になったけどね…スポーツ選手だった私としては…あるまじきね。ちゃんと筋肉も労ってあげないと。
「王女殿下。鍛えることは筋肉を苛めることではありませんよ。筋肉と話をして力を与えてあげませんと。一方的なものでは筋肉も応えてくださいませんよ。」
同士か!?と思ったわ。そして、コデマリを付けてくれたお母様は…聖母なの!?
それからはコデマリと相談しつつ、室内でできるトレーニングを王女教育の合間にすることにしたの。コデマリはマッサージも上手かったわ。私の癇癪も治まってお母様はさすがだと言われていたわ。当たり前よ。聖母だもの。
でも、やっぱり室内でだけでは物足りなくなるもの…筋トレだけではなくて有酸素運動がしたいよー!ダッシュは無理でもランニングがしたい!!でも、名目がなくて…剣術とかは興味がないからそんなものは望まないし…。え?フェンシングもスポーツでしょ?ってそうなんだけど…そっちじゃないっていうか…打ち込みとかは楽しいとは思うのよ?王女殿下が体術の授業って…絶対にダメって言われるもの…。
やっぱりお母様は礼節の授業を増やしてきた。王女も落ち着いてきたようだからって、マダム…夫人の教師を紹介されたの。
アマゾネスだった。
え?いいの?夫人なんだよね?ってことは結婚してるってこと…。ドレスが筋肉に負けてるよ?
「お初にお目にかかります。王女殿下。私はレナード=フォン=ジニアの妻でピラカンサ=フォン=ジニアと申します。私の様な者が礼節の授業…烏滸がましいと思われるかも知れませぬが…よろしくお願いいたします。」
「そんなことはありません!よろしくお願いいたします!!」
「まぁ。うふふ。王妃殿下がご紹介下さる女性は本当に心が大きな方ばかり。さすがに今回は驚かれると思いましたが…要らぬ心配だった様ですわ。」
アマゾネスなのに礼儀作法はばっちりだわ。筋肉もりもりなのにしなやか。凄いわ!さすが!宰相の奥様侯爵夫人ね。
それからはジニア侯爵夫人との礼節が楽しくて楽しくて。だって皆を排除してランニングさせてくれるのですもの~。それに、体術じゃないけど…組体操はしてくださったわ。何でご存知なのかしら??
だから皆で晩餐をしている時にお母様におねだりしてみたの!ジニア侯爵夫人との礼節の授業をもっと増やして欲しいって。っていうか礼節全部ジニア侯爵夫人にして欲しいなぁって。皆の前だったらお母様も強くは怒れないしっていう打算もあったことは…否めない。
でも、すぐに後悔した。
お母様の顔が能面になったからだ。何の感情も読めない…ただの無。お父様もお兄様達も唖然としていて何も言えず…とても怖い。王太子妃であるプリムラお姉さまは顔も上げられない状態だった。ものすごい圧力をお母様から感じる…。手が体が震える。こんなことどの試合の時でも無かったのに…。
「何のために?」
「え?」
「貴方は王女なのよ。礼節の授業を受けることは貴族令嬢の義務なの。ジニア侯爵夫人の授業は貴方の息抜きの意味を兼ねているわ。そうすれば礼節の授業に身が入るだろうとの効率のためなの。それなのに本来の礼節の授業を避けるのならば息抜きも必要ないわね。」
「お母様!ごめんなさい。そんなつもり無かったのー!ただの冗談!そう!冗談ですわ!」
ヤバイヤバイと逃げたい事に必死で私は更に悪手を打ったことに気がつかなかった…。
「王族の一員に二言があってはなりません!もう一度言いましょう。貴女は王女。この国に産まれた、ルドベキアの第一王女なのです!いい加減目を覚ましなさい!!スイートアッサム!」
あっあーーあー。
ここは日本ではなく、ルドベキアなのだと私はレスリングを愛して死んだ女性ではなく、この国の第一王女として生きているのだと母は言っているのだと解った。私は…何てことを…。王女の義務もしっかり教えられていたのに…。昔への懐かしさや未練や楽しさに…引き込まれてしまったのだわ。
私は母に告げる言葉が見つからなかった…謝って許しを乞わねばならないのだと解っているのに、言葉がロックされたように出てこない。
「スイートアッサム王女。貴女には謹慎を申し付けます。しばらく晩餐にもでなくてよろしい。王女宮で頭を冷やしなさい。私が良いと言うまで部屋からでないように。良いですね。」
「…はい。申し訳ありませんでした。」
「下がりなさい。」
「王妃殿下。少しお待ちください。」
「何ですか?」
アレクお兄様!チャレンジャー!!お父様だって入り込めなかったのに!!
「ご心配なく。王女を庇うような事は致しません。今回の事は王女が悪い。ですが、王女が勘違いするに至ったのは我々が甘く接した事が原因であることは無視できません。ですので、王女から全てを奪うのではなく、我々にも更正させる手伝いをさせて下さい。」
「具体的には?」
「我々兄弟と私の妻に日替わりで一日一時間面会をお許し下さい。礼節の授業を一緒に受けます。悪い所があれば指摘し、教えます。」
「それで王太子や妃、王子等の仕事に支障をきたしてはなりませんよ。」
「もちろんです。」
「わかり…」
「王妃。痺れる!!」
「はい?」
「すっごくかっこいい!シル!早く後宮戻ろう!」
「えっ!いや…!陛下!?そんな引っ張らないで下さりませ。取りあえず、王女の謹慎中の面会を許可しますーーー…」
お父様。庇ったつもりなのか…本気なのか…解らないわ。お母様…お気の毒に…。ちょっと…仲良すぎて…引くわ。
「しまらないな。」
そして、アレクお兄様。的確な表現ありがとうございます。
それから1ヶ月私は王女宮で謹慎して過ごした。コデマリにもしっかり叱られて、本来の礼節の授業の先生からビシバシ指導が入りながらも真摯に努めた。
お兄様達も約束通り面会に来てくれた。
「アリー。お前は幼いからと話していなかったが…こうなってはそんなことを言っていられないな。僕たちのお母様とお父様…そして、兄上に起こったことを話そう。」
アレクお兄様は全てを話してくださった。お父様が切り捨てたこと。お母様が飲み込んだ努力。ギルバートお兄様の横暴。
「僕は当事者じゃないし、聞いたことばかりだから何処からが事実で何処からが脚色されているか、解らないけど…なるべく事実に近いことを話しているつもりだよ。だから…解ったかい?お母様が何故あんなに怒ったのか。」
「ええ。私は権利ばかりを享受していて義務を放棄するところだったのですね。」
「そうだね。アリー、君が本当にスポーツが好きでスポーツのみをやりたいと思うのならば、王族という地位は返上しなさい。」
兄上は厳しかった。いつもの優しい笑みは鳴りを潜め、私を見定めるような目付きだった。
「私はお母様のように一人で貴族令嬢としての義務には立ち向かえないと思います。でも…全てを捨ててスポーツをしたいとも思いません。ごめんなさい。お兄様…今はこんなことしか言えなくて…。嘘は言いたくないのです!でも、これからは貴族としての義務にも向き合いますわ。」
「うん。今はそれでいいよ。それに、お母様のようになろうなんて思わなくてもいい。僕にも無理だと思うから…王妃殿下は父も母も誰の味方もない状態で義務を果たし続けた方だ。貴族の基準自体が厳しいけど…優しい方なのは知ってるだろ?」
「はい。」
ニックお兄様は剣の修行の合間に会いに来てくださった。相変わらず良い筋肉してるわね。ニックお兄様は細マッチョだ。余り筋肉をつけすぎると重くなるから早さが出ないと言っていた…。あっ!イカンイカン悪い癖ね…筋肉の事を考えていたわ。
「なんだ!アリーしおらしくなって。面白くねーなー。」
「なにそれ!」
「俺さ。お前の好きなことを好きだと言えるとこ尊敬していたんだぞ。お前のいいとこ無くすなよ。何も全てを諦めることないだろうが!?母上は別にお前が好きなことをやることに反対してなかっただろう。むしろ応援してたじゃないか。お前が増長しすぎただけだ。」
「私だけ許されても嬉しくないわ!お母様は私のように楽しむ時間なんか無かったのよ!?」
「あー。そう言うことかよ。聞いたのか?アレク兄上に。」
「ええ。ですから、私だけ好きなことをするわけにはいかないわ。あの時の代償は今でも払ってるのでしょう?私達も。」
「ああ。現王家は二代失敗している。3公爵家がそれでも大人しいのは母上のリカバリーがあってこそだ。あれがなければ首はすげ替えられていただろうとの見解だ。アレク兄上のだけどな。だから、俺達の代は失敗するわけにはいかない。」
「私危なかったんですけど!?」
「だから、王妃殿下の怒りを買ったんだろ?お前。あの時、動けたのアレク兄上だけだったんだぞ。父上でさえ無理だったんだ。アレク兄上が話しかけて少し緩んだから父上も口を挟めたんだよ!」
「あれ、挟んだうちに入るの!?」
「堅いこと言うなよ。たぶん、庇ったつもりなんだよ。あれでもな。たぶんな?」
あさって過ぎるでしょうが!?だからギルバートお兄様の事もあんな風に投げちゃったわけね。あの人…なんで賢王なんて言われてるのかしら?さっぱり解んないわ。
「はぁ…それで被害を被ってるのがお母様ってのがまた…救いようが無いわ。」
「まだ、後宮出して貰えないのか?」
「ええ。お母様から謝罪の手紙を貰ったわ。本来ならお母様が礼節の授業のやり直しやらの采配をするつもりだったらしいの。それが出来ずにごめんなさいって。謝罪対象に謝罪されるという可笑しな現象が起きているわ。」
ニックお兄様はなんとも言えないという顔をしている。
「まっまぁ。両親の仲が良いことは悪いことではないな。それはもう横に置いておけ。お前の未来の話だ。母上の覚悟と王家のポカはお前には関係無い所で起きた事だ。だけど…その代償はお前だけが払える物ではない!アリー?俺はアレク兄上みたいに優しい言葉使いなどできないからな。はっきり言うぞ。思い上がるなよ!母上の覚悟は母上だけのものだ。王妃の覚悟を可哀想だとか同情なんかで片付けて貰いたくない。王妃は国母だ。国の母なんだ。お前がなれると思うなよ!」
「解ってるわよ!だからなお悔しいじゃない!あの時、国を思い、王家を思い、民を真に思っていたのは母上だけだったってことでしょうが!?周りに居た大人達は何をしていたのよ!私が側にいたなら一人で戦わせたりしなかったわ!」
「それでこそ、立派な王家の姫だ。ルドベキアの第一王女となったな。スイートアッサム。俺も同じ気持ちだ。」
コンコンコン。ガチャ。
「すまない。邪魔するぞ。そなたら…気持ちは解るが…声が大きすぎる。外まで聴こえて来ていたぞ。」
「ギルバート兄上…」
「ギルバートお兄様…」
扉を開けた主は一番聞かせたくなかった人だった。しかも隣にはアレク兄上の筆頭補佐官である、ジャックがいる…。
「ギルバート兄上お久しぶりです。王都へ出てこられていたのですか?言ってくだされば迎えに出たのに…何故ジャックなんかと…。」
「ははは。ニック、アリーそんな顔致すな。アレクからアリーを励まして欲しいと手紙が来てな。ジャックには案内を頼んだのだ。私は既に臣下の身だ。一人で王女宮を歩く訳にはいかないだろ?ニック、アリー?もう一度言うぞ。大丈夫だ。確かにそなたらには聞いて欲しくなかった内容だったのかも知れぬが…私は聞いて良かった。アリー。俺は…あの時、王太子でありながら自分を…私を優先した。一緒にシルクジャスミンと戦うことをしなかった。王族すら失格であったのだと…やっと気づくことができたよ。ありがとう。そして、すまなかったな。そなたらの母上を一人で戦わせる事となったのは私のせいだ。お前達ならば王家は安泰だな。邪魔して悪かった。またな。」
私達はギルバートお兄様を引き留める言葉が思い浮かばなかった。あの人は…もう、十分反省してるんです。お願いします。神様。どうかこれからはあの人が少しでも幸せとなります様に…私達兄妹全員で祈りますから…。祈りがどうか届きます様にとギルバートお兄様に目線を向けるとどうしてかジャックと目があった。
(ご心配なく。)
音は届かなかったが、口はそう動いたように見えた。信じられると思ったの。
真実を突きつけた私が真実と向き合わなくてどうする。しっかりと義務と向き合おう。王女として戦おう。そして、いつか…
「お父様なんか大嫌い!」
絶対に言ってやる!!
次はいよいよ最視点です。
ジンくんの視点となります!
マリーだと思われた方。すみません。
マリーちゃんの頭の中は未だに作者にもファンタジーです。