アレクサンダー
こんにちは!
これで最終話となります。
長男視点です。
彼の気持ちはどうでしょうか?
「この度のご婚礼と立太子、誠におめでとうございます。」
「うん。ありがとう。兄上みたいには上手くいかないかもしれないけど頑張るつもりだ。よろしく頼むよ。」
「はい。よろしくお願い致します。」
この部屋はこの前まで私の異母兄が使っていた部屋だ。僕に合わせて内装はかなり変えたけどね。母上や妹のスイートアッサム。そして今は私の妃となった可愛いプリムラが張り切って選んでくれた。
「新しい机には慣れたかい?ジャック。」
「そうですね。私にまで気を遣っていただいたようで…有難いです。たぶん。」
「あはははは。面白い!本当に面白いね!君。父上や兄上から惜しまれる訳だ。」
王族に対し全く取り繕わないなんてある種の才能だ。普通ならば少しは遠慮するけどね。でも、このジャックはずっとこうらしい。父上に仕えている時からだと聞いていて、本当は兄上にやりたくなかったって言っていた。兄上も自分の領地に連れていきたそうだったがジャックが断ったらしい。
宰相と領地の管理では全く違う。自分はずっと宰相を目指して来たんでとはっきり告げられたと兄上はへこんでいた。
僕と兄上はこれでも仲良しなんだよ?父上が母上に兄上を会わせたくなくて後宮に兄上が入れなかったから頻繁に会えなかっただけなんだぁ。
事実、僕が王子宮に移ってからは話すようになったし、訓練も一緒にする仲だ。ニックに至ってはかなり懐いていて、毎日一緒にお昼を食べるまでになっていた。兄上の領地への引っ越しが決まった時にはニックが一番泣いていたしね。
僕の妹であるアリーはギルにいちゃまー。と走って飛び付くほど大好きだ。兄上も愛おしそうに抱き上げている。その光景をみるのが僕は好きだったのだけど…。
どうにもなら無い事はあるのだ。
「解っているよ。ジャック。残ったのは兄上の為もあるんだろう?心配しなくていい。私達は家族だ。少なくとも兄上はね。」
兄上の正妃になるあの年中お花畑の女性と左腕の傭兵は違うけどね。兄上が一人になったら可哀想だから付けてあげるだけだよ?
「本当ですか?」
ジャック!顔!顔!王太子を胡散臭げに見てる!
「プッ。ああ。本当さ。絶対に我々は兄上に手を出さないし、出させない。もし、変な勘繰りをして兄上に手を出す奴が現れたら、必ず代償を払わせる。これは一族の総意だ。王妃である母上の意見も含まれる。もう、兄上は自分を許していいんだよ。」
「そうですか…良かった。」
「今からでも遅くないよ?兄上の処に行くかい?」
ジャックは最後まで兄上が王太子に残れるように頑張っていた臣下だ。兄上の正妃になれる女性を時間の許す限り様々な領地へ赴き頼んで回っていたのだから。でも、無理だった。自分の無力さにジャックもへこんでいたらしい。
ジャック。君は間違っているよ。攻略する対象を。
「いえ。私は宰相を諦める気はありません。殿下の側で働かせて下さい。手足にはなりませんが、片腕にはなりたいと思います。」
「いいね!楽しみだよー。一緒に頑張ろうね!」
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私は物心と言うものがない。母上のお腹の中にいる時からの記憶がある。だからずっと僕なのだ。本もすぐに読めるようになったし、五歳で哲学者に師事した。
何でもすぐに理解してしまう事は実は弊害もある。努力しなくなるのだ。ふと諦めてしまう時があり、母上はそんな僕の事をとても心配していた。
そんな時だ。一人の令嬢プリムラ嬢を紹介された。
彼女は天才だった。どう天才かと言うと数学の。
どんな数式も彼女からすると愛すべき取り組むべきものなのだ。πが話しかけて来るそうだ。不可思議である。
僕は母上から彼女にチェスで勝てたら彼女との面会は止めて良いと言われた。負けるなどついぞ思っていなかった僕は初めて負けた。それだけではない。負け続けた。一度も勝てなかった。悔しくてずっと勝負をし続けて…気づけば100戦目までになっていた時…僕は努力すると言うことを経験させられた。
100戦目の敗けを期した時…僕は初めて彼女に話しかけ、彼女とのお茶会に臨んだ。
勝負に勝ちたければ敵を知ることからとニックにアドバイスを貰ったからだ。
敵を知るにはまず会話し、仲良くなることだと可愛いアリーから教えられたからだ。
仲良くなるためには名乗り合い、愛称で呼ぶこと!そして遠回しに聞かず素直に聞くことと兄上に指摘されたからだ。
そこで僕は彼女と色んな話をした。そして僕はアレクと呼んで貰い、僕は彼女をラムと呼ぶようにした。そして僕は聞いた。何故チェスが強いのかと…。恥ずかしかったが…素直に聞いてみたのだ!
「王妃殿下に言われたのです。アレクにチェスで勝ち続けたら礼節の授業を10分減らしてあげると。私は数学の授業は楽しくて何時間でも受けられますが…礼節は…苦手で…。それに見ず知らずの人と何故話さなければならないか理解できませんし、名前を覚えるのも大変なのに…顔まで一致できるわけがないではないですか。あんなぼんやりした貴族名鑑の写真だけで。」
辛辣だった。彼女は礼節の授業の短縮のご褒美目当てだった。僕に興味の無い令嬢は初めてだった。そして、こう思ったんだ。絶対に興味を持たせてやるとね。僕は好きだと思うと離したくなくなる性格でね。しかもしつこいらしいんだ。母上の思惑に填まるのは悔しいけれど…彼女に填まるのならば良いかと思えた。
だからお願いしたんだよ。母上に。ラムを僕の婚約者にしてほしいと。母上はにっこり笑ってこう言ったんだ。
「プリムラ嬢は将来のこの国にとって大切な存在となるでしょう。数学は社会を変える力があるの。だから王族が保護するべきと思ったのよ。でも、妃になれるとは私は思いません。寧ろ彼女にとっても不幸な事になるような気が致します。だから、友人にしておいた方が良いわ。」
「僕には彼女を以外考えられません。」
「アレクに取ってだけでしょう?プリムラ嬢は同じ気持ちなの?妃教育ってプリムラ嬢に取って嫌な授業ばかりよ?」
「うっ。」
母上の言う通りだ。妃教育等彼女にとって迷惑な物となるだろうし、僕を好きで望んでくれているとも思わない。どうすれば…。彼女の心を僕に向かせることが出来るだろうか。
「くすくす。アレクも人間らしくなったものねぇ。母も嬉しいわ。だから、味方になってあげましょう。まずはプリムラ嬢の心を掴むこと。時間がかかるでしょうから他からの婚約者候補の圧力は私が払ってあげます。それと、アレク自身が力を付けること。妃が社交を苦手としていても周りに何も言わせなければ良いのよ?それに功績ならば彼女はいくらでも自分で用意するでしょうしね。そして、これはアレクだけで決めなさい。王太子になるかならないか。」
「母上は僕が王太子にならなくても良いのですか?」
「ええ。貴方がならなくても現王太子がいるし、ニックもいるし、アリーも王配探しは大変だろうけどアレクとニックが支えてくれるから実はそっちの方が上手くいくのでないかしら?と思っているぐらいよ。」
「母上は兄上が王太子で居続けても良いのですか?」
「ええ。問題ないわ。」
「そうなのですか…。では、何故…。」
現王太子である兄上への風当たりは強い。以前仕出かした事を考えれば確かに仕方がないことだが、既に10年も前の事だ。兄上はこつこつとだが、政務にも真面目に取り組んでいるし、見目も良い。なのに妃に名乗り出るものが一人も居ないのだ。その当時乳幼児で名乗り出るには無理だった者達も、もう成人していても可笑しくないのに…。母上は何もしていないと言うことではないか。
「父上ですか?」
「そうね。」
「血の繋がった我が子ですよ?」
「我が子だからなのでは無いかしら?ライバルだと思っているみたいなの。私を奪う。王太子のままでは安心できないそうよ。」
「はぁ?」
両親が仲が良いことは嬉しいがちょっと暑苦しい。息子をライバルって…。今さら。
「もしもの話だけど…今陛下が崩御されれば王位を継ぐのは現王太子よ。」
「それはそうですね。」
「その時に王妃はそのまま私を指名してきたら?」
「そんな事…許されないでしょう!!」
義理の母が義理の息子の妻になると言うことになるではないか!?
「そうね。倫理上許されることではないわ。でも、そもそも私は現王太子の婚約者だったし、今の今まで王太子に嫁いでくれる人は居なかったし、王妃は私のままで次の王太子はアレクを指名します。と言えば叶う確率は上がるわ。」
「…。確かに。」
兄上の母への思いには僕でも気がついている。目が違うのだ。僕達をみる時と母上を見る時の眼差しが…。臣下達は王位がつつがなく次代に受け継がれることを優先するだろう…そうなれば母上や僕達の意見等無視だ。父上が懸念するのも解るが…自分の妻を息子に取られたくないから冷遇するって言うのも…歪んでいる気がする…。
「それがどうしても嫌なのですって。だから、ギルバートは王太子ではいられないのよ。アレク。ただ世の流れに身を任せていては自分の欲しいものは手に入らないわ。プリムラ嬢を妃にしたければ誰を味方に付ければ良いのか考えなさい。ギルバートをそのまま王太子にして自分は臣下に下りプリムラ嬢を娶るという方法ならば確実に邪魔が入るわ。私でも庇えないくらいのね。」
「父上がそんなに恐ろしい人だったとは…知りませんでした。」
「だから、怖いのよ。無害に見せて自分の思いのままに人を動かす。陛下が賢王たる所以ね。」
「僕もそうなれるでしょうか?」
「あら?父上を気にするってことはその気になっているってこと??」
「はい。決めました。」
「くすくす。解ったわ。まだ、何を決めたのかは聞かないことにします。でも、我が子が重大な決心をした事に対するご祝儀をあげるわ。プリムラ嬢の礼儀作法は私に任せなさい。社交が苦手でも作法は覚えておいた方が本人にも良いもの。何処に出しても恥ずかしくない程にしてあげます。」
「母上!!」
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「で、今に至るって訳。兄上が王太子に残れなかった理由が解ったかな?僕らが兄上を爪弾きにしていたわけではないよ。兄上を嫌っていたわけでもないしね。ジャック。君は間違えたんだよ。君が攻略しなければならなかったのは僕ではなく、母上でもなく、父上だったんだ。国の最高権力者が単純なわけ無いだろう?だからこそ兄上には無理だよ。兄上はキレイすぎたんだ。」
ジャックは手を強く握り閉め、俯いている。
「私も王妃殿下がギルバート大公閣下を恨んでいるとは思っていませんでした。ですが、ご自分のご子息等を王位継承者としたいと思われて動かれていると思っていました。陛下は…それを良しとするしかないお立場なのだと…。」
「そうだよねー。ずっと強く出られない加害者の父親のふりしてたもんね。あれ、狡いよねぇ。だから、賢王でいられるんだよ?王様が手を汚したらダメなんだ。王様はずっとキレイなままで手足が汚れなくてはいけないんだよ?君は手足になる気は無いって言っていたが、もう既に手足だよ。僕に仕えるつもりならば汚れなくてはならない。僕は王位を継ぐものだ。キレイでいなきゃいけないんだ。だから、手足では無い、汚れるつもりもない者を雇うつもりは無い。ジャック。もう一度聞くよ。僕と一緒に頑張る気ある?」
兄上は一度汚れたからと言って、汚れ仕事を自分でしてしまっていた。部下に責任を負わせたりしなかったんだ。潔く見えただろうけど、それは辞職できる立場。兄上はいずれ辞めるからと解っていたから出来たこと。だけど僕は王位を継ぐ。王位には辞職が無いんだ。
俯くのを止め、顔を上げたジャックは良い目をしていた。
「やります!何でも。仕事を選んだりしません!手足上等ですよ!」
「おおー。」
「殿下!いつかあのフルダヌキに一泡ふかせてやりましょ!」
「フルダヌキ…あはははは。ジャック!君最高だよ!それじゃあ執務を始めようか。その書類の山から始めよう。持ってきてくれ。なるべく兄上から引き継ぎは受けたけど、分からない処もあるから要約も頼む。」
「承知いたしました!」
くすくす。本当にジャックは面白い。これでも僕は怒っているんだよ。兄上に対する父上の所業。確かに母上に対して兄上がしたことはルール違反だったけど…別に前王妃みたいに犯罪を犯した訳ではない。父上にも教育不足という兄上に対した罪があるのだ。だけど父上はそれを全て兄上のせいにした。兄上に全部背負わせたんだ。背負わせた上に追い込んだ。自分からの愛情と引き換えに一線から退かせたんだ。母上から完全に退場させるために。
兄上には全て話した。話したけど、兄上は父上の愛情を選んだ。
兄上は寂しそうにこう答えた。
「初めから惜しみ無く与えられていたアレクには解らないかも知れないなぁー。ごめんね。アレク。不甲斐ない兄で…アレクにも嫌われたくないなぁ。」
ジャック。一泡では足りないよ。ギャン泣きさせてやろうな!
悪役が本当がだれだったと思われますか?
今のところこの視点で終わりです。
思い付けばちょっと足すかもしれません。
お付き合い頂きありがとうございました。
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