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ギルバート

本日2話目です。

今回はギルバート視点。

王太子です。シルちゃんは名乗って貰ってないのでうる覚えですが…。


さて、ギルは悪役なのでしょうか?


「王太子殿下、妃殿下バンザーイ!」


「両殿下おめでとうございまーす!」


「お幸せにー!」


お祝いのフラワーシャワーが辺り一面に舞っている。色とりどりにきらめき、慶事を祝う歓声が様々な場所から上がる。


それを受けるのは私の異母弟とその妻。とても幸せそうで、二人の見つめ合う目はお互いを思い合っている事が判る様だ。

私には一生訪れない光景。

いや。十数年前には確かに私が彼処に居る未来があった。あの未来は私の物だったのだ…。

何故こんなことになったのだろう。

どうして私は大勢と一緒に並び、慶事を祝う側に立っているのだろうか。一人で…。



「お初にお目にかかります。王子殿下。ヘクトル=フォン=ヘラニウムが娘、シルクジャスミン=フォン=ヘラニウムと申します。以後お見知りおきを。」


私の婚約者と呼ばれる者は美しいが目線が何時も何処を見ているのかわからない不気味な令嬢であった。

父上の優しい笑顔と母上の何時にない妙にとても嬉しそうな顔…に疑問を受けつつ紹介され、面会したその少女に私は冷たい言葉を吐いたと思う。でも、両親から望まれていると傍目で解る彼女への対応に私は嫉妬したのだ。だからー


「王子殿下と呼べ!それ以外認めない!」


自分でも最悪な言葉選びだったことは解っていたが、撤回出来るほど素直でもなく、後に両親から怒られたこともあって意固地になり、訂正せずにずっとそのままとなってしまった。

幼馴染みであり、護衛騎士見習いのジルからは


「お前まだ自分の婚約者に王子殿下って呼ばせてんのか。最低だな。ギル。」


と歯に衣着せぬ罵りを受けた。


「私だって最低だと解っている!だが…何故かシルクジャスミン嬢の前に出ると言葉が出なくなるんだよ。彼女も彼女だ。名前呼びしていいかと聞いてくれれば良いのに…特に気にした様子もないんだ!」


「まぁ。確かに。殿下に興味なさそうだもんな。」


この婚約は私達…王族から是非にとお願いし続けてやっと叶ったものであるため彼女に好きになって欲しいと願うことは烏滸がましい事かもしれない。だが、政略結婚と言えど仲良くする事を諦めたくは無かったのだ。

だからと言ってシルクジャスミン嬢にやる気が無いわけではない事は周りから聞かされている。礼儀、文化、一般教養、芸術。多種に亘る妃教育を嘆く事なく取り組んでいるらしい。そして、かなり優秀だとの事だ。


「仲を縮めようと一緒に勉強しようにも出来ない…私はまだ習ってない所の授業を受けているそうだ。」


「うわぁ。マジか…じゃあ授業の合間か終わりにお茶会したらどうだ?」


「ジンもいっしょならばやる。」


「はあ!?何でだよ!」


何とか3人でお茶会をできるように手配したり、シルクジャスミン嬢の好みを探ったりと…(実家に聞いても良く解らなかったのだ…。)こちらがあたふたしているのに飄々としている彼女に更に苛立ってしまい当たってしまうという無限地獄ループに入ってしまっていた頃…。


彼女に出会った。


「初めまして王太子殿下。私はマリーゴールド=フォン=ヒアシンスと申します。仲良くしてくださりませ!」


とても元気で、綻ぶように笑う彼女に一目で恋に堕ちた。


「ああ。私はギルバート=ルドベキアである。母上の遠縁と聞いた。慣れないことも多かろう。それでなくても王宮は難しいしきたりが多いからな。解らないことがあれば何でも聞いてくれ。」


平民であった庶子を子爵家が養子にしたと聞いた。幼い頃からではなく、成人前とはいえ今から礼儀を身に付けることは並大抵の努力では叶わないだろう。母上からも面倒を見てやってくれと頼まれたし…構わないだろう。


「ありがとうございます!殿下はとってもお優しいのですね。何か安心しました。王宮の皆さんはちょっと怖くて…。王妃様はお優しいんですけど…。」


だろうな。今は子爵令嬢とはいえ、以前平民であったのならば生粋の貴族令嬢出身の侍女だらけの後宮はかなり風当たりが強いに決まっている。

私はそれからなるべく彼女と共に過ごすようになった。ジンも彼女と楽しく話すようになった。

才能ではなく、努力を認められたと嬉しそうに語っていた。マリーは褒め上手なのだ!とても癒される。


母上が開くお茶会でマリーとシルクジャスミン嬢を招くと聞いたのはそれから1ヶ月過ぎた頃だった。


「母上。お茶会には私も出席させて下さい。マリーはまだ、礼節が甘いところがありますし、シルクジャスミン嬢は完璧ですが…それが心配なのです。」


母上のまた妙にとても嬉しそうな笑顔が…何だろう。


「ふふふ。王太子はマリーがとても気に入ったらしい。母も嬉しいわ。心配な気持ちも理解できます。シルクジャスミン嬢の覚悟も確認しておきたかったし…良いでしょう。参加なさい。」


母上は快諾してくれた。


「皆良く来てくれました。お菓子もお茶も皆の事を考えて用意したのよ。たくさん食べてね。」


「はい!!」


マリーの事が心配だった私は彼女の隣に座った。そうすればフォローできるしな。私の後ろにはジンが立つ。


「マリー。」


「あっ。申し訳ございません。王妃殿下。」


「謝罪を受けましょう。マリーゴールド嬢。シルクジャスミン嬢は初めてでしたわね。紹介しますわ。私の遠縁で子爵令嬢のマリーゴールド嬢ですわ。」


「お初にお目にかかります。マリーゴールド=フォン=ヒアシンスです。よろしくお願い致します。」


よし!いいぞ!マリー!良くできました!と皆でマリーに笑顔を向けた。


「シルクジャスミン=フォン=ヘラニウムですわ。よろしくね。マリーゴールド嬢。」


「はい!よろしくお願いします!」


マリーはすぐに元気な挨拶に戻ってしまうのだ。要注意だな。そこも可愛いのだが…。


「もう。マリーったら。ごめんなさいね。シルクジャスミン嬢。これでも良くなってきているのです。行儀見習いの為にここに召しだしたの。協力してね。」


「はい。」


「王太子も良く面倒をみてくれているのよ。この頃は常に一緒に居るみたいだけど、これからはそういった色々な出会いがあっても良いと私は思っているの。シルクジャスミン嬢はどう思う?」


「え?そうですか…そうですわね。王太子殿下も同じ意見ですか?」


シルクジャスミン嬢に意見を求められたのはそれが初めてだった。驚きと母上の意図が解らず…。


「あーそう。そうだな。私もそう思っている。」


「そうですか。では私には何も言えることはございません。王妃殿下に従いますわ。」


「シルクジャスミン嬢の教育は完璧ね。私も嬉しいわ。」


母上のやはりあの笑顔でお茶会は終わった。シルクジャスミン嬢の顔色は少し悪かった。


「母上の言葉はどう言った意図だったのだろうか。」


私は自分の執務室で呟いた。ジルも頭を傾げている。

父上から送られてきた私付きの秘書官ジャックは何言ってんの?という顔になっている。


「何だその顔は!?」


「解らなかったのですか?」


「…。」


私は解らないという言葉を持っていないのだ!解らないときは答えない!これが正解!


「王妃殿下はシルクジャスミン嬢に王太子殿下の側に侍る女性についてどう思うかと聞かれていたのですよ!」


「はっ侍る!?」


何て事を言うのだ!私は…そんな…少しはいや…だいぶ興味があるが…


「何を恥ずかしがっておられるのですか?何れ後宮をお持ちになるのでしょう?シルクジャスミン嬢も自分が口を出すことではないと仰っていましたよ。流石は妃教育を受けられている方だと皆が感心していました。国母に嫉妬はご法度ですからね。」


「そっそうだったのか…。」


私は少なからずショックだった。シルクジャスミン嬢との間にそんなものを望んではいけないのだと言われた様なものだった。


「殿下も王妃殿下の意見に賛同されていたではないですか。マリーゴールド嬢を側に置かれたいのでしょう?王妃殿下も息子のために後宮にマリーゴールド嬢を入れてあげようと根回しされているのでは無いですか?」


マリーを私の後宮に!?それは何て甘美なセリフ…。マリーが私の帰りを待ってくれ、何時もギルと呼んでくれる。そんな生活が送れるかもしれない…。それ以上は何も考えられなくなっていた。

父上の後宮には母上以外誰も居ないという事実があったのにもかかわらず…。


「本音と建前の違いも解らないとは…王太子が聞いて呆れる。要報告だな。」


ジャックの呟きもついぞ聞こえなかった。


それから私は母上の言いなりだった。マリーが私の全てになった。シルクジャスミン嬢のための予算はマリーの為の予算となり、マリーが甘やかすままに政務を後回しにした。


「王太子殿下は何時も何時も頑張っているのですからちょっと休んだって罰は当たりませんよ!そんな事を言ってくる人がいたらマリーがやっつけて上げます!」


マリー以外何も要らなかった。シルクジャスミン嬢とのお茶会も苦になりつつあった。マリーが居ることをシルクジャスミン嬢は良しとしなかったからだ。

嫉妬はご法度なのだろうが!と私はお茶会に行かなくなった。

ある時シルクジャスミン嬢とのお茶会を断っていたことが父上にばれた。何かスッゴク怒られた。


「そもそもお前から言い出したお茶会だろうが!それを勝手に中止にするなど…それでも王太子か!王族に二言があってはならぬ!しかも、婚約者でもない唯の見習いの子爵令嬢を侯爵令嬢と同席させるなど正気か?」


と迄言われた。チクったのは絶対にシルクジャスミン嬢だろう。何かと私の事を言いつけるのだから嫌な女だ。マリーの様に私を褒めろよ!婚約者であり、未来の私の妃となるのならばな!

私は意趣返しも兼ねて母上が計画していたマリーの社交界デビューのエスコートを受けることにした。ジンが悔しがっていた。

大きな落とし穴があるともしらずに…。


マリーと夢のような舞踏会を楽しみ、三曲踊ってホールから戻ると周りは騒然としていた。父上は怒髪天。母上は困った顔。宰相と、外務大臣でありシルクジャスミン嬢の父上であるヘラニウム侯爵からは蔑んだ目を向けられた。

明らかに私のやりすぎであり、シルクジャスミン嬢に至っては気絶してしまい、今は控え室に下がってしまったという。


それからは何もかもうまく行かなくなった。

謹慎を申し付けられ、今まで滞っていた政務と教育が待っていた。マリーとも全く会えない日々。

そんな時母上からシルクジャスミン嬢が目を覚まし、体調も回復しているが何やら我が儘を言っているらしいとの情報を教えてくれた。体調が戻ったのならば何故手紙一つよこさないのだ!私はこんなにも辛い日々を送っているというのに!

父上にお見舞いに行きたいと申し出て、許可が降りたのでヘラニウム侯爵と共に侯爵邸に足を運んだ。

しかし門前払いをくらい、その後の馬車の中は侯爵との圧迫面接だった。


「侯爵家はずっと王族へ忠誠を誓って来ましたが…殿下の母上は何か侯爵家に不穏な思いでもおありで?」


と厳しかった。


「母上はシルクジャスミン嬢がマリーのことに余りに目くじらを立てるからシルクジャスミン嬢の王太子妃としての資質を…」


と言ったら


「後宮に自分以外の存在を許さなかった王妃殿下が娘の何の資質を問われるので?」


と正論で返された。私は何も言えなかった。


「お父上ができるのですから息子である王太子殿下だって王妃のみでも大丈夫ですよね?癒しとなる愛妾は確保できるのですから娘は国母としての心の広さを示したと言えるのでは無いでしょうか?次は殿下の誠意をみせて頂きたいものですな。これだけの事を我々侯爵家に強いて来たのですから。」


義父となるヘラニウム侯爵の存在がこれ程怖いものだと初めて知った。義理の息子となるのですからと言ってくれる優しい人だったのに…。

謹慎は延び…私はシルクジャスミン嬢が王族に嫁いでくれる様にするために理不尽な条件をのむことになった。母上も助けてはくれなかった。


「ダンスを舞踏会という公的な場で3回も続けて踊った王太子貴方が悪いわ。陛下も宰相も義父となるヘラニウム侯爵までいる場で何て事を…私だって庇いきれないわ。せっかくここまでお膳立てをしたのに…。上手く行けば側室にマリーを入れられたし、シルクジャスミン嬢も否は言えなかった筈よ。デビューへのエスコートを許し、ファーストダンスの時までシルクジャスミン嬢は笑顔だったわ。嫉妬せず未来の国母足る気概を見せたの。社交界も感心していました。対して貴方は…。頭が痛い。」


マリーを第二王妃にもできず、側室にもできず、できるのは愛妾にだけ…。

マリーは可愛いが仕方ない。私は書類にサインをした。

マリーに対して護衛以上の思いがあったジンは私に懇願してきた。


「すまない。ギル。マリーが心配なんだ。ギルの盾であり剣となりたかったが…このままではシルクジャスミン嬢の思いのままだ。か弱いマリーは一溜りもない。俺にマリーを守らせてくれ。」


マリーを愛妾にしか出来ない不甲斐ない私の代わりにジンが騎士の誓いを望んでくれた。嬉しかった。私の護衛騎士でなくなるのは寂しかったが…マリーと一緒にいる時は二人を守ると言ってくれた。

私はすぐに母上に相談した。母上のまたまたあの笑顔は見れたが…


「何て素敵なの。騎士がか弱い女性を守るため誓いを行う。私からも陛下にお願いしてみましょう。私達にとっても強いカードとなるかもしれない。」


私達4人は揃って陛下から召喚され、シルクジャスミン嬢との対面を果たした。絶対に負けないと強く臨んだ筈だった。


結果は惨敗だった。私の婚約は白紙に戻され、謀反の罪を疑われ貴族牢に投獄された。

何度も牢から出してくれと父上の面会を望んでも却下され、母上、マリー、ジンの進退を聞いてもなしのつぶて…唯々1日二回の食事を食べて、ベットで寝て過ごすという日々を何十回もやった頃…突然牢の鍵は開けられ、私は王太子宮に戻された。王太子宮にいたはずの執事、侍女、私に幼い頃から付いてくれていた乳母、扉を守る衛兵に至るまで見知らぬ人物に変えられていた。

説明は少しだけ…。母上が起こしていた罪。父上の子を宿した側室を暗殺したり、シルクジャスミン嬢の母上の暗殺とジンをマリーゴールド嬢の騎士とする事の意味を謀反になると解っていたこと。私の母上は王妃の身分剥奪のうえ毒杯を煽り亡くなっていた。

シルクジャスミン嬢は…私の婚約者は父の妃となることがきまった。

マリーの愛妾という地位は守られた。

ジンは左腕を失くし、騎士も返上。廃嫡のうえ勘当され辺境の森で5年の苦役が科されたという。もう既に出発していて所在も解らない。

私は王妃が罪の全てを被ったため据え置き。

王太子の教育という名目で私の秘書官であり、本当は宰相補佐官であり、実は父上への密告者だったジャックによる監視と管理が始まった。

スケジュールを簡単に言うとこうだ。

日の出と共に起床。剣の朝訓練後朝食。政務を行い。昼食。授業。夕食。授業。就寝。

全く自由の無い一時の休息もなかった。ジャックに


「お茶を飲む位良いだろうが!」


と突っかかると…ジャックは呆れた顔をして話してくれた。


シルクジャスミン嬢には当たり前の生活だったと。貴方の婚約者となった日からこれが日常。私とのお茶会が始まるまでお茶を楽しむ時間など無く、礼節の授業の時のみだったらしい。最初は私とのお茶会を入れるために授業の時間が伸びる羽目になり迷惑だったそうだ。だけど、私とジンが必死に話かけてくれ、お茶やお菓子の好みを探そうとしてくれていることに喜びを感じていたらしい。そのお茶会は私が壊してしまったが…。


「そうだったのか…あのお茶会を癒しだとしてくれていたとは…。」


私は何て酷いことを…。


「ああ!ご心配無く。貴方がブッチしたお茶会には私やら陛下やら執事長やら侍女長やらが代わりに招かれて楽しく過ごしましたので~。寧ろ使用人にもお優しいと王宮ではシルクジャスミン嬢の人気が上がりました!あなた様の人気は駄々下がりでしたけどねぇー。」


「それは良かったな。」


「なので、悲劇のヒロインみたいに感傷に浸るなど時間の無駄なのでお止めください。貴方の教育の進み具合は本当に酷い。シルクジャスミン嬢の半分も終っていないでは無いですか!?貴方の成人、目の前なんですよ?何してたんですか?あっ!返事は結構です。ナニしてたんですもんねー。」


「…。」


ジャックよ。お前私のお目付役とはいえ、余りに酷くないか?



マリーとは舞踏会に行くこともできなくなった。しかも、私が望んだ愛人だから私の私費からマリーの着ることのない多数のドレス代を払うことになった。私の私費を管理する執事からは毎日のように悲鳴を聞かされた。全く足りない。いずれ破産するからもう、ドレスは作らないでくれと…。

マリーを愛妾にできたことは嬉しかったが…マリーは違うようだった。


「何故舞踏会に出てはならないのですか?前まではドレスを作っても何も仰らなかったし、ギルもエスコートしてくれたじゃない!それに愛妾だから結婚式もしてくれなかったし!!私はウエディングドレスを着ることが夢だったのよ!」


私を責めるようになった。ドレスはシルクジャスミン嬢への費用をマリーに当てていたからできたことだ。シルクジャスミン嬢は父上の妃になるのだから私がその費用を使える筈がない。いずれ義理の息子の為と王族の資金を援助してくれていたヘラニウム侯爵は娘のみに援助するようになった。使途不明は許されず…私自身の予算も限られている。私の全ての予算をマリーに使う事はできない。

それに結婚式とは…王太子ができる結婚式は王太子妃とだけだ。婚約者すらいなくなったからそんな話も露と消えた。というか陛下とシルクジャスミン嬢との結婚式に変わったと言える。王位が継げれば第一と第二王妃が娶れるが、第二王妃との結婚式も王妃が取り仕切るから王妃の許可がなければ出来ないのである。私は権利を放棄したから関係ないが…。愛妾となったマリーでは無理だし、そもそも王妃に成れる立場でもない。私だってそれぐらい解るのに…。

何故…。


「愛妾であるマリーとは舞踏会に行けないんだ!もう、ドレスは必要ない。これ以上作るな。おい!侍女達!マリーに何を言われても仕立て屋を呼ぶなよ!」


「酷い!私の唯一の楽しみなのにーー!うわぁーん。」


甲高い声で泣き続ける為、煩かったが私は振り返らずに部屋を後にした。


シルクジャスミン嬢と父上の結婚式は盛大に執り行われた。王妃となったシルクジャスミン嬢は美しかった。とても。隣に立つのは…私ではない。何でだ!どうして!彼女は私の物だろうが!声に出せないから心のなかで何度も何度も叫んだ。


それでも日々は過ぎていく。

息子は私一人だった。でも、一人では無くなった。二人になった。そして三人になった。

異母弟達は父上と王妃であるシルクジャスミン嬢と一緒に後宮で過ごしている。私には後宮に入る権利も許可も無いため殆ど王妃と弟達とも会うことはない。

王宮が開く晩餐会や舞踏会では会うが必ず父上がエスコートしていて言葉を交わすのは少しだけだ。

対して私は一人。誰もパートナーになってくれる人が居ない。なったとしても未来が望めないからだ。

私に後継を作るようにと誰も望んでいないし、薦めてもこない。

もう既にちゃんとした後継…弟達がいるからだ。後ろ楯も申し分ない王妃の子である。アレクとニックだ。

アレクは優秀でニックは活発だそうだ。後宮に居る父上の家族はとても仲良く、笑顔が絶えないと聞く。後宮から光が溢れるように裾の尾まで広がっていく。王族が光輝けば民である子らも安心し、活気づく。民が活気づけば国が豊かになり、王族に返ってくるのだ。

その王族の…父上の家族の中に私は居ない。

私は羨ましくて皆が止めるのも聞かず一度後宮に会いに行ったことがある。正直な話行かなければ良かったと思う反面行って良かったとも思った。事実を突きつけられたから。父上の弟達や彼女に向ける顔や彼女の否…シルクジャスミン嬢の…否…王妃殿下の幸せそうな笑顔が頭から離れない。


私にはマリーだけだ。あれほど望んだ人であったのに…彼女は少しずつ歪んでいった。

彼女が望んでいたのは優しい旦那様と可愛い子供達。そして小さくても良いから庭付きの御屋敷だったそうだ。そんなものを望んでいたのならば…私ではダメだったのだ!私は一番望みと遠い相手だったのに!

愛妾だって…一番なってはいけない立場ではないか!?子供を望んでいたのならば!愛妾は子供が出来ない事になっているのだから。

もう何もかもが遅い。私にはどうにも出来ない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


父上の執務室に呼び出しを受けた。理由は良く解っている。不思議と凪いだ気持ちだった。


「ギルバート。今までご苦労だったな。アレクも成人し、来年には婚約者と結婚する。その時をアレクの立太子とする事となった。そなたには一代限りではあるが大公位を授ける。領地は私が持つ土地を分けることにした。王太子領をそのまま領地とするわけにはいかないからな。だが、良いところだ。山も湖もあるし、療養するには良いと聞く。そこに小さくても庭のある屋敷を立ててはどうだ?私も援助しよう。そなたの憐れな愛妾と共にゆっくり過ごしてほしい。」


「御恩情ありがとうございます。陛下からの思し召しにすがらせて頂き、愛妾と共にあれが望むままに過ごして生きたいと思います。」


私は深く頭を下げた。やっと解放される。悔しさはなかった。


「そうか…受けてくれるか。それとそなたに一人雇用してもらいたい者が居る。金額は心配するな王家からしっかりと慰労金を出すゆえな。その者は腕が立つのだが、如何せん左腕が無いのだ。平民でもあるため護衛騎士には出来ないが衛兵位には出来るだろう。辺境の森でも経験が有るため野営にも強い。どうであろうか?」


「っつ…。喜んで雇いたいと思います。ご推薦ありがとうございます。」


ああ。ジン!!お前に会えるのか!?生きて…生きてくれていたんだな。


「アレクに子が出来れば王位継承権も心配なくなるし、大公となるのだ。王太子としての書類の拘束力は無くなるだろう。愛妾を正妻として迎えても構わない。私が婚姻証明書にサインしよう。そうすれば子が出来ても良い立場となれる。まだ、少しの我慢は必要だがな。療養せねばならないのだから時間はたっぷり有るだろう。」


「父上!あり…ありがとうございます。」


「ギルバート。お前には辛い思いをさせた。私とて我が子が可愛い。だが、ギルバート…お前の王妃に対するやりようは庇いようが無かったし、お前の母は…是非に及ばずだ。」


「はい。解っております。」


「ギルバート。これらの私からの温情は全て王妃が采配したものである。ジンは…あの時あの場で王妃が私に意見しなければそもそも生きていまい。ジンの父親である騎士団長と文を交わし更正に尽力したのも王妃だ。マリーゴールド嬢の妊娠機能を無しにではなく休眠としたのも王妃の差配であったし、療養する為の領地を指定したのも王妃だ。腕の良い精神学者が近くに住んで居るらしい。書類の拘束力に王太子の身分を強く進言したのも王妃であった。余程腹に据えかねていたのだと私は思っていたのだがな…。ギルバートよ。愛とはなんだろうな。私は彼女ほど王妃らしい国母を知らぬ。お前もジンもマリーゴールド嬢もすべからく愛する民なのだそうだ。」


「私は民なのですね…。」


「そうだな。守るべき民なのだそうだ。」


彼女の隣に立つという…私の本当の願いはついぞ彼女に届かなかった。


定められた運命。


敷かれたレール。


ギルは、解った上でその上を歩く決心をしました。


そして、次は王様。マクシミリアン視点です。


明日の朝に投稿致します!

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[一言] 〉実家に聞いても彼女の好みが分からない ……(生暖かい微笑で)王子殿下におかれましては、両陛下、また王国の皆々様方から惜しみない愛情をお受けになられてお育ちに遊ばれたようで何よりでございます…
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