表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

ギルバート

ギルバート大公の視点になります。

よろしくお願いします!


我が領地ではラッパの音から始まる。


「起床!!」


「はい…おはようございます。」


「姿勢が悪い!」


「すみません!おはようございます!!」


穏やかな時間などおやすみなさいと声を掛け合う就寝前のみだ。

どの領地の話だと思われるかもしれぬがここは大公領。

そして私はギルバートだ。幼子ではない。

騎士団でも何でもないので心配は要らないと思われる。

ここ私の領主の館だが…。

しかも夫人であるスノーフレークは現在妊娠中。それなのに私より機敏。流石元騎士。かっこいい!

それだけではない。

奥は悪阻もほとんど無く、私が逆悪阻で寝込む事に…情けなさでいじけてしまったことは思い出したくない。

そんな私を責もせずその間の領主の仕事を変わりにしてくれた。

周りからはしらけた顔で見られていたのに…それを一蹴して気遣いまでしてくれる心根も優しい人でもある!

私の奥さんはすごいのだ!

もう数日で産まれても可笑しくない産み月なんだけどね。それなのに私よりも早く起きて一緒に寝るんだ!

妊娠中は眠くなる方が多いって聞いていたから先に寝ていいですし、遅く起きて良いですよって言ってるんだけど…別に無理はしていないし、お昼寝をしっかりしてるから大丈夫よ!って言ってくれる懐の大きい人なんだ。


はっ!

奥の事になると喋り過ぎてしまうな…。なるべく冷静に!とアレクに言われているのだけど…抑えられないな。


お昼寝って何時してるのか…私見たこと無いんだけどね。私の知らない奥だけの部屋があるらしいんだ。

執事に訪ねても教えてくれないのだよ。

私の知らない時に何かあったら心配なのに。

どうしたら良いのか…アレクはパパとしても夫としても先輩だろう?教えてくれないか?


と私の悩みを手紙にしたためてアレクに送ったんだ。

返事は…


可愛い兄上へ


私の妃は二人とも騎士として生きたことが無いので参考にならないです。極一般的な妊娠事情だったと思われます。義姉上の意思を尊重した方が断然良いかと思われます。

というか兄上が率先して動かず、兄上が出来ることをしたらどうでしょうか?

例えば家名の選定でしょうか?兄上のお子さんは男女関係なく公爵位が授けられます。お子さんの名前だけでなく家名も考えておいて下さいね。


兄上が心配なアレクより


なっなっなんと!兄を可愛い…とはテレるではないかアレク、さすが私の弟。

しかし!悩みが増えたな。だが、家名は大事だ!名前はもう、二人で決めてあるのだが…家名は永遠に使われていくのだから安易には決められないぞ。まずはどのような貴族名があるか断絶された名も調べねば…よし!図書館に行くぞ!


「閣下。執務はどうなさるので?」


うっ。執事長から待ったがかかった…この者は私が牢での謹慎後から付けられた…マリーのドレス代で泣きついていた執事だ。あの弱かった姿など見る影も無い程たくましく、揺るぎ無い執事となっている。

スノーフレークの指導のお掛けだ。私の奥さんは教育熱心なのだ。

私が執事長と話をしていると何処からともなくあの音が…金属でも仕込んでいるのではないのか?と疑いたくなる様な音を響かせて近づいてくる。


「アレクからの手紙に…」


「閣下?今の時間は執務室にいるはずでは?どうしてこちらに?」


あうち!奥に見つかってしまったではないか!?


「アレクから家名を考えておくようにアドバイスがありましたので、参考図書を探しに図書館に向かっております!」


「閣下。いい加減、陛下と敬称をお呼び下さりませ。いつまで兄でいるおつもりですか。」


「っつ…。アレ…陛下は私を兄上と慕ってくれていますし、私もとても大切に思っている…」


私にとってアレクとニックとアリーは残された大切な大切な家族なんだ。唯一の血縁と言っても過言ではない!


「閣下は既に臣下の身。陛下は閣下を兄上と慕っても何も問題はありませんし、咎める者もおりません。ですが、閣下には許されることではありません。」


「私だってわかって…。」


「閣下。閣下はまだ大公の地位ですから王兄と認識してくれる貴族が多いでしょう。ですが…これから産まれる子等は公爵位。完全なる貴族位です。王族位ではありません。その子等が父である貴方の態度を真似て王子王女様がたに不遜な態度を取れば取り返しがつかないのですよ。貴方はその事を身をもって知ったはずではないのですか?あの時…あの言葉は嘘だったのですか?」


嘘ではない。

私は弟妹(家族)を手放す気は微塵もないのだから。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「殿下?今までの説明でご理解されましたか?」


「はい。王家と公爵家のことが良く解りました。そんな役割があったなんて…王家の歴史や貴族について学んでいたのですが…紐づいていませんでした。」


私は奥から授業を受けている。スノーフレークを夫人に迎え入れて半年が経った頃、奥から提案があったのだ。これから公爵家として家を盛り立てていかなければならないから貴族のことを学び直しませんか?と私は二つ返事で了承した。

その間には色々なあったなー。

いつの間にか使用人のメンバーが代わり、執事長がシンからシンクレアに変わっていたり、ジャックが一瞬訪ねて来たり、家に通信機という音声が送れる装置が設置されていたので毎日アレクに連絡しようとしたら緊急用だ!と怒られたり…。これからもアレクとは文通のようだ。


今日は教育は建国時五つ公爵家があったこと、現在の王家の成り立ち、三つに減ったことの理由を知った。

そうか、私達…いや、私はそもそも王家に成り代わった公爵家だったのか…。


「…伝統を守り伝えることは難しいものです。長く続けば続くほど。それは閣下だけのせいではありません。貴方のご両親にも責があります。」


「っつ…。」


私は頷いて奥を見たが、しっかり顔を見れなかった。

なぜならば教育をされていたとしても、今のように理解できていたかはわからないからだ。

当時の私は公爵家だったと聞かされていたとしても王太子としてのプライドが邪魔して激怒し、事実をねじ曲げて受け止めていたのかもしれぬ。

全てタラレバの話であり、私が奥の授業を聞き冷静に分析できるのは今までの事があったからかもしれない。


「閣下。私は侯爵家の令嬢であったシルクジャスミン様が、あの時自分よりも権力を持っている者達を相手に全てを勝ち得たのは、ご自分の領分を弁えて範を越えず運命に従ったからだと思っています。」


は?彼女の行動はどうあっても従っていた様には見えなかったが??


「運命に逆らったからではないのか?」


嬉々として王家や実父にケンカ売っているように見えたが?


「はい。シルクジャスミン王妃殿下は未来に手にするべき物以外に手を出されていません。約束されたレール上に沿っておられます。違いは嫁いだ殿方だけです。」


「…確かに。」


王太子妃を間に挟むか挟まないかの違いでしかない。彼女が順調に私に嫁いでいたとして王太子妃の任期はアレクをすぐに授かっていることを考えるとそれほど長くは無かっただろう。


「逆にレールを外れた者達。王太子は責を理解せず不相応な相手を望み、王妃は責を理解せず後宮を私物化し、後継者を傀儡扱いに。王は責を理解しているにも関わらず全ての責を息子に押し付けた。王家の方々はどうなりましたか?運命に立ち向かうとは聞こえは良いですが守るべきルールや範疇、相応、時には神の意志という超えてはならない物を壊した結果は?」


「私は廃嫡され、王妃は廃位のうえ死罪。王は退位を迫られているということですか…。」


従ったのはシルクジャスミンでむしろ逆らったのは私の方と言うことだよな。確かにそうなのだが、シルクジャスミンが強すぎて勝ち取ったというイメージしか湧かない…。


「歪みを生み出した代償です。閣下、五大公爵家にはそれぞれ任務と一字が与えられています。エーデルワイスは騎士の家。与えられた一字は『義』です。ラベンダーは保育の家。与えられた一字は『仁』。クレマチスは王家の家。与えられた一字は『信』です。『信』のクレマチスは残酷で王家を守るためには手段を問いません。そのクレマチスはマクシミリアン国王陛下とギルバート王太子を王家に仇なすものだと判断した。だから排除されているのです。ルドベキアだけではありませんが、貴族制度を取り入れている国の多くが嫡流と言うものを大事にすることはご存知ですか?」


「嫡子によって受け継がれてきた正しい血筋ですよね?」


「そうです。嫡流の長子は特に尊ばれます。閣下、貴方の事です。」


私か?そんなものに何の価値がある。


「…。私には資格はあ」


「資格云々ではありません。貴方はそれだけの価値を有していると言うことです。そして、その貴方を廃嫡し、二男であるアレクサンダー王子殿下を立太子させる事は星を落とすよりも難しい事であったはずです。貴方が正気で生存している状態でですよ?」


「ダメなんですか!?」


生きていることすらダメなのか!?


「当たり前でしょう!?血が流れても可笑しく無いのに貴方も陛下も無事。何でかまだ解らないのですが!?貴方の弟妹達…アレクサンダー王子殿下とニコラウス王子殿下とスイートアッサム王女殿下がそれぞれに対価を払い公爵家を牽制していたからです。貴方を守るために!!クレマチス公爵はそれだけの力がある…王家を監視し、王家を管理する事ができる。それがクレマチスの王家の家たる仕事だからです。」


「そんなことは前から知っている!!!」


バタン!

私を弟妹達が守ってくれていることなど…昔からな!私は部屋から飛び出した。彼女に私の弟妹のことをこれ以上語って欲しくなかった。


数日後冷静になった私は、


「この前は飛び出したりしてすみませんでした。」


頭を下げた。授業中に教師より生徒が先に部屋をでるなど…礼をかいてしまった。


「謝罪を受けます。この部屋では私は師ですからね。ですが、私も言い過ぎました。非礼をお許し下さいませ。」


「いや…いえ、はい。」


私はうつむきながら頷いた。奥の目を見て頷くべきなのに…。私はどうしてこうなのだろうか。芯の強い女性を前にすると言葉が詰まるか、下手な言い回しをしてかわそうとしてしまう。


「では前回の続きを。嫡流のお話をしておりましたよね?」


「はい。貴族制度にとって嫡流の長子は特別だと。」


「そうです。20年程前その嫡流の長子が廃嫡となり、辺境に飛ばされました。覚えておいでですか?」


「はい。」


ジンの事だな。ジンは元気にしているだろうか。ジンには本当に申し訳ない。私も父上と一緒だ。ジンに全てを押し付けた。


「あっ、暗くなら無くても大丈夫ですよ?エーデルワイスにある自警団には良い剣術指南が入ってから質が上り、その剣術指南はとても尊敬されているそうです。夫婦仲も睦まじく、奥方も働き者で気立ての良い方なのだそうですよ。」


「そうなのですね。良かった。彼女も夢が叶ったのだな…。」


「夢ですか?どのような?」


「小さな庭付きの家に優しい旦那様と可愛い子供達と暮らすのが夢だと。」


言っていた。私では到底叶えてあげられない夢だった。そういえば彼女は不相応な夢を抱いていた訳ではなかったのだ。範を知る人であったのに…。私が歪ませてしまったのだな。


「そうですか。それは幸せな夢です事。ですが、夢は夢。儚いものです。」


「何故!いや、何故ですか?…もしかして…彼女の妊娠機能は休眠にしているとのことでしたが!?」


やはり無しにされていたのか!しっかり確認するべきだった!


「勘違いなさいますな。彼女が問題なのではありません。彼女は許され庇われているとお伝えしましたでしょう?許されていないのは彼の方ですわ。彼は嫡流で長子で嫡男だったのです。それが廃嫡されたとはいえ、子をなせば次期ベロニカ伯爵にどれだけ脅威となるか解りませんか?」


「…後継者争いになります。」


ルドベキアが開かれた国になりつつあるとは言え、未だに女性の爵位相続よりも男性への爵位相続が優位だ。いくら罪を犯した廃嫡されたとは言え嫡男嫡流の子は特別となるのだろう。


「そうです。ですから彼には子が出来ぬ様に処置が施されています。本人も了承済みですわ。」


「理解致しました。簡単に考えていました。申し訳ありません。」


そうか。脅威となるのか。そうか…。


「ご理解頂けて良かったですわ。閣下は本当に優秀でいらっしゃる。閣下が王となり、ご弟妹がお支えしてくだされば問題なかったのではないのですか?」


そんなわけ無いだろうが!解っておらぬ。


「そんなわけないでしょう!貴女は貴族の事はよくご存知だが、王家の事が解っておらぬ!私が父上の足を引っ張り続けねば…そうでなければ父上はアレクに譲位などしなかったではないか!そのためには私がずっとシルクジャスミン…王妃殿下に執着して虎視眈々と彼女を狙っていると思わせていなければならなかったのだ。」


王家には王家の矜持があるのだ!王は…王とは唯一でなくてはならない。権力を分散させてはならないのだ。


「だから私との婚約期間が長かったのですか…。」


「そうだ。まだ諦めていないのだと父上に思わせ、焦らし続けねばならなかった。譲位を決意し、民に告示されるまでは油断はならぬ。アレクに…王位はアレクが一番相応しいのだから。」


「マクシミリアン前国王陛下も、殿下もその資格は十分に有しておられていましたよ?」


「はっ。何処がだ!血か?そんなものに何の価値がある。父は悪女ロデリアとシルクジャスミン王妃の言いなり。王でいうならばシルクジャスミンの方がよっぽど王ではないか!王妃とは国母だ。国の主であってはならぬ。本来ならば政治に口出しはしてはならない立場のはずだ。それなのにシルクジャスミンは国の事業に口をだし、公爵家全ての騎士の主。どれ程王にとって脅威か。悪女ロデリアとどう違うのだ。国にとって不利か有益かの違いだけだろう。だが、王としては許してはならぬ存在なのだ。だが、私が王位に付いたとしても王妃はシルクジャスミン以外はあり得ない道しかなかった。王として本来の姿を…王妃に口を出させず、公爵家を牽制しつつ、貴族院にもある程度影響力のある勢力を有しているのはアレクサンダーだけなのだ!アレクサンダーだけが正道を歩めるのだ。」


アレクには助けて支えてくれる私達、兄弟、妹がいる。

弟のニコラウスは騎士団に混じって訓練し、騎士からの信頼を王家に取り戻してから海運業に乗り出した。アレクの味方になってくれる新興貴族を集め、隣国リアトリスとの間も取り持った。思い合う相手と夢の両方を手中にする弟を立派に思う。実に抜け目の無い弟だ。

妹のスイートアッサムはシルクジャスミンの娘というブランドを惜しげ無く出して、公爵家を犬の如く…ゴホン。配下のように酷使して運動推進室を全国土に推進し、国民の健康と敬意を王家に取り戻してからクレマチスに嫁いだ。クレマチス公爵家への監視と牽制を含んでいる。

ジャックに一目惚れと言う理由を全面的に押し出して疑われること無く最短で嫁いでいった。

我が妹ながらあっぱれ。絶対に怒らせないようにしよう。


「それは…確かに。そうではありますか!」


奥は驚きに満ちた顔だな。だが、大公に嫁ぎ、夫人となったのならば奥にも飲み込んで貰わなければならない現実もあるのだ。公爵家の考えのままでは困る。


「弟と妹は王子、王女として仕事をした。では残る仕事は?王の譲位だ。それが私の仕事だと思った。アレクに冠を戴く。父を追い詰めることが私の仕事だ。その為ならば彼女に…シルクジャスミンに執着してると道化だと阿呆だと思われる事など些事だ。それを利用してクレマチスが父上と私を排除する。両手を上げて賛成したよ。お陰で父上は決意を固め、来年には譲位が実現される。有り難くて涙がでたね。幻滅するかい?それでも良い。幻滅ついでに一つに告げておく。」


ここまで来れば何て事はない。全て話してしまおう。ジャックがまた催促に来たら困るしな。


「何でしょうか?」


「私はアレクを支えられる臣下でいたい。だからアレクに嫡男が産まれるまで貴女と子を儲ける事はない。避妊薬を飲み続ける。」


奥は目を見開き、驚いた後に目を細め満面の笑みとなった。ちょっと変わりすぎて怖かったのは内緒だ。


「ふっふふ。おーほっほほほほ。」


次は大笑い…!?


「大丈夫ですか?」


気でも触れてしまったのか!?と心配したが、妃は私の前に跪いた。


「閣下。このスノーフレーク、しかと閣下の義を聞きました。エーデルワイスはこれより閣下に従いましょう。」


「そんなこと…無理して言わずとも良いのですよ。奥。」


「無理などしておりません。私の兄は直にエーデルワイスを継ぐでしょう。そして、兄は私と気持ちを同じくしております。」


「え?次期は公孫だと…。」


アレクの新たな妹達を虎視眈々と狙っていると聞いていたが?何故か…その異母妹達をアレク達と一緒に思えないのだよな。会ったことが少ないからかな?


「それは父の妄想でございます。呆けている父をアレクサンダー王太子殿下がいずれ排除して下さるでしょう。私達の子が産まれる迄には。」


「奥…子は」


「勿論すぐではございません。私自身も望んでおりませんので。まだ早い。陛下に嫡男がお産まれになってからで結構です。ですが、『礼』の公爵家の嫡流が戻るのです。閣下はその役目のために臣籍に降りて下された。公爵家は、感謝と真を閣下に示さなければなりません。『礼』公爵家の復活に義のエーデルワイスは協力を惜しみまないでしょう。」


「私に?」


「はい。ギルバート大公閣下に。」


「でも…あなた方の主はシルクジャスミン王妃殿下でしょう?」


「あの方に私達騎士は必要ありません。私達が押し掛けたに過ぎないのです。あの方は自身に騎士を飼っておいでです。」


「確か…ジャックがそんなことを…王妃殿下は騎士だと…。」


「ええ。自身を守る一番の騎士は自身。そう思われていると思います。シルクジャスミン王妃殿下は私達を騎士と認めてくださるでしょう。ですが、真の意味での信頼はしてくださらないと思います。本当に助けてほしい時に手を差し伸べ無かったのですから。」


私達騎士が悪いのです…と小さく溢す奥。何処かに置いてかれた騎士…主がいない迷子のようだった。


「あの時…あの場に居なかったですし、奥はまだ幼かったでしょう?仕方なかったのではないですか?」


「だからこそ!…ジャックは躍起になってシルクジャスミン王妃殿下の味方になろうとしていますわ。あの時…主となるべき方を守れなかったから…。見ていて…少し切ないのです。だからかもしれません。」


「どうしたのですか?」


寂しそうな顔をする奥。


「ジャックを…憎まないであげてほしいのです。騎士を見限らないで欲しいのです。旦那様。私が、エーデルワイスがそれを証明していきます。受けてくださいますか?旦那様。」


真剣な顔をして問うてくる妻はとても美しかった。顔が沸騰するかと思った。奥の、スノーフークからの言葉がこれ程嬉しく、心が踊るものだとは思わなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「アレクを支えられる臣下でいたい。と言ったこと…忘れてはいないです。」


「でしたら!そんなことだとまたアホだと貴族どもに言われてしまう…旦那様はこんなにも努力されておられるのに!」


奥?アホは言いすぎでは?奥に言われるのはさすがに傷つくのですか…。まったく。


「奥。そなたも孤児院の創設で忙しいのでしょう?産休に入れば関われなくなるからと言っていたではないですか。私も執務に戻りますから奥も部屋に戻って良いですよ。」


「閣下!」


「奥。アレクが…兄狂いの国王と一部で言われているのは知っていますか?」


「!?…ご存じだったのですか…。」


「ええ。貴族とは欠点を探しだして噂話をするのが好きですからね。その話を聞いたとき…私は初めて嫌だと感じました。怒りなどでは到底言い表せない…嫌悪感を抱いたのです。当然アレクに私を庇うのはやめるように抗議に行きました。」


手紙で抗議しても無視でしたからね。アレクは頑固なのです。こういう時困ったものです。


「アレクは…笑っているのですよ。完璧な国王にも一つ位欠点があった方が人間らしくて良いでしょう?とね。それに兄上に手出しするものもいなくなるのであれば一石二鳥です!ってむしろ喜んでいるんですよ。あの時の気持ちは…自分が悪く言われていた訳でもないのに傷つく事があるのだと知りました。しかも自分の時よりも痛いんです。」


「閣下…。」


「母が処罰された時だってこんな思いにはならなかったのにね。だから、これからは陛下と呼びますし、一臣下としての処遇を望みますと宣言したのです。ですが…そう伝えたとたんアレクが傷ついた顔をするのです。兄上はずっと兄上だと。王家だけど家族は奪わせないと。公式の時は仕方ないけど、普段の時はアレクと今まで通りにしてくれと。必死に願われてしまいましてね。私は愛という物をアレクに教わりました。」


「…。」


「だから、奥。アレクとのこの関係性には口を出さないで頂けませんか?子等への教育上良くないことは解っているのですが…。」


「差し出がましいことをしてしまいました。申し訳ありません。子への教育は私の腕の見せ所。美しい兄弟愛だと教えますのでご心配無く。」


なんと頼もしい奥さんだ!やはり私の奥さんは最高である!


「奥は厳しいですが優しい人ですね。あっ!そうそう。孤児院の事業は突破力と推進力が必要ですので最初は手を出しませんが、慎重になりたい時や拡がり過ぎて立ち止まりたいときは私に声をかけてください。」


「は?何故ですか?」


「私が表に出ると必ず貴族達は二の足を踏むのですよ。もうノロノロですね。公爵等は進みもしません。座り込みをはじめます。事業とは推し進めたい時ばかりではないでしょう?私を使うと良いよ?とアレクには何時も言っています。」


「っつ!!」


あっ!奥がキーーー!って声が聞こえそうな顔をしているな。


「あいつらそんなガキみたいな嫌がらせしてたのか!?アレクサンダー陛下への万難を廃して戴冠させる為とはいえ、えげつねぇな!流石クレマチス!

しかも、それを甘んじて受けていたのですか!?旦那様は!そりゃ陛下だって怒るわ!」


「くっあははは!」


奥!口調が!貴婦人が何処かへ行方不明になっていますよ。でも…嬉しいなぁ。


「何故お笑いになられるのですか!!」


「だって、アレクと全く同じ顔をしているからです。アレクにも兄上のその、汚れ仕事を喜んで引き受けるようなやり方お止めくださいと何時も怒られるのですよ。奥…いや…フレイと呼んでも良いですか?」


そう言って表舞台に出したがらなかったアレクだけどこの頃やっとあいつらが兄上の有用性を理解したようです!これからは兄上にも事業を任せていきますね。と生き生きしていた。何故だろうか?


「どっ、どうしたのですか…急に…そんな!フレイなんて!フレイなんて!良いに決まってます!」


顔を赤くするフレイ。フレイはいつもはハキハキと力強い物言いをするのに戸惑いながら答えてくれる姿が可愛かった。


「だって、アレクと同じくらいに私を愛してくれていると言うことでしょう?家族になれたのだと思ったのです。ダメですか?フレイ?」


「良いですよ!私もバートと呼んでも良いですか?」


ああ。やっとだ。やっと、愛称で呼び合える相手となれた!アレクに手紙で知らせないと!


「はい!とっても嬉しいです!敬語もやめて良いかな?」


「そんなこと望んでませんよ!!最初から敬語はお止めくださいって言ってましたから。」


陛下に睨まれて怖かったのですよ!っと怒るフレイも可愛いな。ごめんねフレイ。アレクがそんなことをしていたなんて…。手紙で怒っとくよ。


「そうだったか?だってフレイ、新婚当初から先生みたいだったではないか。師には敬語かな?って思ってな。」


「バート様!」


図書館前のギルバートとスノーフレークの会話は合致しませんが同じ場面ではあります。

話が食い違う人って実はこんなに会話してるのを気づかないみたいなんですよねー。

聞き流してんだか、聞こえてないんだか、聞いてないんだか、変換してんだか分からない不思議な人。

周りにいませんか?

そんな作者のイライラが少しにじみ出てしまいました。

すみません。

次はリクエストのキャラクター紹介です。

ちょっとしたエピソードも入ってますのでネタバレ注意で読んで下さるとありがたいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ