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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔働少女サラリーディ

作者: 岩ノ森

漫画のプロット用に書き連ねてみました。もし間違いが起これば、この物語がどこかの週刊漫画雑誌に載るかもしれません。


…無理か!

 「行ってきます」

 僕の名前は佐良(さら)利満(としみつ)。40歳。妻子持ちの平凡なサラリーマン。家族構成は僕、妻、娘二人の4人家族。これだけ見ればわかるだろうけど至って語るところのない中年男性だ。

 「ちょっと早く出すぎたなぁ。会社についてもだいぶ時間が余るぞ」

 少なくとも今日まではそうだった。

 「ん。こんなところに神社があったのか」

 今、この時までは。

 「・・・そういえば魔奈が来年受験だったな。今年は初詣もいかなかったし、今からでも拝んでおくか」

 ああ、とてもえらい科学者さん。もし可能であればタイムマシンを作って私に貸してください。

 「合格祈願のお守りも買っておいてやろう」

 そうしたらこの時の私を、全身の骨を粉砕してでも止めるのに。

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ。パンパン。

 僕は鈴を鳴らし、神社の所作通り二礼二拍一礼をする。

 (娘の魔奈が無事合格しますように)

 頭の中で長女の魔奈の合格を祈りながら。

 「さて、お守りお守り」

 祈願を済ませたところでお守りを買おうと売店へ向かおうとしたその時だった。

 「いぇーい!!ふぅふぅー!!!!」

 ふと気が付くと僕の他にひとり人がいた。いつの間にか現れたその人はスケートボードでアクロバティックな動きをしている、全身日焼けしていて金髪の、ステレオタイプすぎるチャラ男だった。

 明らかに関わり合わない方がよさそうな見てくれなので関わり合わないよう遠回りをして売り場へ向かおうとした。向かおうとはした。

 「来年の事を言えばオーガがスマイルー!!!!!」

 「ぐへっ」

 いつの間にか鬼のお面を付けていたそのチャラ男は僕の方へ突っ込んできた。僕の体を容赦ない衝撃が襲い、僕は後方へ吹っ飛ばされた。

 「おっと、いきなりソーリーねミドルエイジ」

 ぐへっ、げへっと肺の中の空気を吐き出している僕に対して悪びれもなく話しかけてきたぞこのチャラ男。

 「で、物は相談なんだけど」

 鬼の面を上げてにやついた笑顔を見せながらさらに話しかけてくる。

 「おじさん、この町内の平和とついでに宇宙の平和を守る気ない?」

 あ、こいつヤバい奴だ。僕は確信した。

 「信じられないかもしれないけど信じていいぜ。ビコウズなぜならミーは神様だから」

 絶 対 に ヤバい奴だ。僕は確信した。

 「そうなんですね。じゃあ失礼します」

 僕は仕事で培った営業スマイルを見せながらこの場をそそくさと去ろうとした。

 「社会人の処世術使って逃げないでー」

 ビビビビと某巨大ヒーロー特撮でしか聞かないような音がした。と思ったら体がビリビリと痺れた。え。何?これ?光線?

 チャラ男の指から光線が放たれている。そんなアニメでしか見ない光景が映ったと思ったら、これまたアニメでしか聞かないようなポンッという、忍者が煙とともに消えるような音がした。

 「これ、俺っちの神通力ね」

 そう言いながらチャラ男は鏡を持って僕の姿を見せてくる。

 鏡の中には僕のさえない顔と体があるはずだった。

 でも。鏡の中には。

 巨大なローストチキンが佇んでいた。

 「俺っちの神通力でおじさんをローストチキンに変えちゃいました」

 チャラ男はへらへらと笑う。僕はとっくにキャパオーバーを起こしていた。

 「これで俺っちが神様だってこと信じてくれた?」

 僕はうんうんと激しく首を上下させた。最も頭のてっぺんから足のつま先までローストチキンなので、どこが首でどこで頷いているかは全然わからないけど。

 「そうか。では元に戻してしんぜよう」

 再度チャラ男の指からビビビビと光線が放たれたと思うと、僕は元の姿に戻っていた。

 「いやー。戻れてよかったねー」

 「微妙に戻れてない!!!」

 訂正。頭手足だけ戻って胴体だけローストチキンな珍妙な生物と化していた。

 

 「あなたが神様だということは分かりましたけど、その神が僕なんかに何の用ですか?」

 色々ありすぎて休日返上一週間連続残業ありで働いたような疲労感を朝っぱらから感じつつ僕とその神様は神社に座り込んでいた。

 「だから言ってんじゃん。ご町内とついでに宇宙の平和を守ってくれって」

 「だからその話の意味がわかんないんですけど」

 ツッコミどころが多いというかツッコミどころしかない話だ。町内の平和を守れ?どうやって?何から?ていうか宇宙がついでなの?

 「いきなり言われてもクエスチョンか。お互い時間もないし簡単にプレゼンするわ」

 微妙に英単語を混ぜながら会話を進めてくるのやめてほしい。というかキャラが定まってない。しかしそんなことはお構いなしでチャラ男、もとい神様は話を進め始めた。

 「数千億年前この宇宙全体に蔓延る聖と魔がぶつかり合って数えきれないほどの宇宙が逆行し破壊された聖と魔の戦いつまりどちらがこの宇宙の主導権を握るかの争いは数百億年ものあいだ続いた最終的に勝ったのは聖つまり光だったわけだがそれでも闇はまだ完全に消え切ったわけではなかったまあそもそも光と闇なんて表裏一体だから撲滅なんて不可能なわけだがそれはともかく闇は敗北後も虎視眈々と光から主導権を奪い取ることを狙っていたこの宇宙は光と闇の絶妙なバランスで成り立っているわけで再び闇が主導権を握る争いを始めたら今度こそ宇宙は混沌のものとなるしかし闇もさるもの世界を自分たちの闇で染めるため愚かな人間を使い始めた現代社会に蔓延る人間の負の感情を利用することで闇の勢力を」「待って待って待って長い長い長い」

 チャラ男には似合わないシリアスな顔をしながら息継ぎの間もなく話しまくる。プレゼンならもっと短く簡潔にゆっくりと話してほしい。上司に文句を言われるぞ。

 「まあつまり、すさんだ世の中のせいで世界の均衡が崩れて化け物たちがわっさわっさ出てくるから退治してほしいーって話よ」

 「随分簡潔にまとめましたね」

 簡潔にまとめられすぎて必要な情報がまるで分からない。まあそれも気になるけどそれよりも気になることが二つあった。

 「あの二つほどいいですか?」

 「風呂オーケー」

 「世界の平和を守るのに、何で僕を選んだんですか?」

 「うん?テキトー!」

 「・・・・・じゃあもう一つ、何で神様であるあなたがやらないんですか?」

 「うん?有給取って温泉旅行行くから無理!!」

 ダメだこの(ひと)。話通じないタイプだ。

 「じゃ、というわけでよろしくね」

 頭を抱えている僕を余所にチャラ神様は僕に何かを手渡した。

 「・・・・・?」

 三角の形をした金属なのかプラスチックなのか分からない物。中央に丸い宝石のようなものがついている。

 「なんですかこれ?」

 「俺の神通力を形にしたもの。それを使えばヒーローの如く強大なパワーが使えるようになるぜ!!」

 神からの贈り物ということでいいんだろうか。でもどちらかというとふた昔前くらいの特撮ヒーローのちゃちい変身グッズのように見えるんだけど。

 「それを使ってご町内と、ついでにこの宇宙の平和を守ってくれ!!!」

 結局宇宙はついでなのか。

 「てなわけでバイビー!!!温泉とチャンネーのパーリィナイトが俺を待っているからーっ!!!!!」

 これまたいつの間にかそこにあった今時みないギンギラギンのスーパーカーに乗って、チャラ神様はギュルルンと去っていった・・・・・。

 「・・・・・・・。何だったんだ・・・・・・?」

 なんか色々ありすぎて一ヶ月休日返上残業あり会社に泊まり込みで働いたような疲労感が僕を襲った。まだこれから仕事が始まるのに。

 ・・・・・仕事・・・・・・・?

 「あっっっ!!!!!!始業時間!!!!!!ああその前にお守り!!!!!!!」

 まず僕の平和を守ってもらいたい。

 

 

 結局、始業時間ギリギリに滑り込む羽目になり課長には小言を言われ、部下からは嫌味を言われた。朝っぱらから夢物語と現実のダブルパンチを喰らい、僕はノックアウト寸前だった。

 「疲れた・・・」

 疲れすぎて体と心がふわふわしている。現実と妄想の境目が付かないときってこんな感じなのだろうか。

 ・・・もしかして今朝のあれはあまりにも疲れすぎて見た幻覚だったのかもしれない。最近働きづめだし。そもそも現実であんなこと起こるわけないし。

 そう思い込むこととして仕事に打ち込もうとした時だった。

 「夢なんかじゃないぜ」

 どこからか声がする。女の人の声だ。微妙にかすれている、ハスキーがかった声だ。そんな声の人この部署にいたかな。

 「おいどこ見てんだ。こっちだこっち」

 声はするけど姿は見えず。とうとう幻聴まで始まったかと机の上に目線を戻した。

 その人はそこにいた。机の上にあぐらをかけるほど小さな姿をしていた。

 「ようやく気付いたか。たくっ、めんどくせえ」

 その人、人じゃないな。それはいわゆる妖精だった。親指ほどの小さな少女の姿に、背中からは羽虫のような羽が生えていた。

 でもステレオタイプな妖精ではないことは一目瞭然だった。だってその妖精は煙草を吸いながらあぐらをかき、目には隈があり頬はこけていた。目も何か死んだ魚のような目をしていた。妖精というか深夜の裏通りで呼び込みをしていそうな女性だった。

 こんな妖精いるわけがない。あまりにも疲れすぎている。顔を洗って目を覚まそうとトイレに行こうとするとその妖精もどきから呼び止められた。

 「おい、どこ行くんだよ。俺だってこんな事嫌々やってんだ。自分だけ放棄しようとするんじゃねえ」

 なんだろう。なぜこんな小さな物体から上司と同じこと言われなきゃいけないんだろう。心の中で涙を流しながら僕は席へ戻った。

 「あの~、あなた何ですか?」

 「見て分かんねえか、妖精だよ」

 見て分かんないから言ってるんだよ。

 「あのクソやろ・・・神様、に押し付け・・・頼まれてお前のパートナーやってやってんだ。ありがたく思えよ」

 本音が駄々洩れだな。どこの世界でも世知辛いのは変わらないらしい。

 「ああ、ちょっと待て。喉が。カーッ、ペッ、オエッ」

 妖精のイメージがどんどん崩れていく!

 「ああ、もうめんどくせえからとっととご町内と宇宙の平和守って仕事終わらせてくれ」

 「・・・そのことなんですけど、具体的に何すればいいんですか?」

 「ああ!?神の奴何も説明してねえのかよ。たくっ、階段から落ちて脳損傷してくんねーかな」

 望む不幸が詳細かつ現実的で怖い。

 「あの、僕、見てのとおり一般平均な中年サラリーマン男性やらしてもらってるんで。ご町内とついでに宇宙の平和守るとか無理だと思うんですけど」

 「んなこと俺が知るか。選ばれたんだからしょうがねーだろ」

 「でもこういうのお願いするなら自衛隊とか軍の人とかの方が」

 「願ったんじゃなくてやれって言ったんだ。いいから早よしろ」

 うちの上司の機嫌悪い時を思い出して胃が痛くなる。なんで妖精にまでブラック要求されなきゃいけないんだ。

 と、ここまで話してて気が付いた。周りの人の僕を見る目が異様なことを。まるで頭が可哀想な人を見るような目だ。

 ・・・ふと嫌な予感がよぎる。

 「あの、質問いいですか?」

 「んだよ」

 「僕以外の人にあなたって見えてます?」

 「見えてるわけねーだろ。神通力持ってないやつには俺は見えねーよ」

 「すいません!!!お手洗い失礼します!!!!!」

 高らかに周りに宣言し、僕は超特急で自分の部署を出た。

 

 僕はトイレの個室にこもっていた。逃げるためにここに来たのにホントにお腹がキリキリ鳴り出した。

 「どうしよう・・・。仕事しづらくなっちゃった・・・」

 「人間ってのはめんどくせえな。自分と違う奴がいたらすぐ異様な目で見やがる」

 そもそもあなたのせいなんですけど。そう言おうとして僕は口をつぐんだ。

 「・・・もう何すればいいんですか・・・。何させたいんですか・・・・・」

 「マジで何も聞いてないのな。しゃーない。教えてやるよ」

 仕事だしな、とめんどくさそうにその妖精は肩を鳴らす。

 「お前にやってもらうのは”(よこしま)”退治だ」

 「よこしま?」

 「簡単に言うと化け物退治だ。この世の闇が凝り固まって生まれた怪物をな」

 全然想像がつかなかった。そもそもそんな怪物なんて生まれてこの方見たことがない。

 「説明するより実際にやる方が早いか」

 僕を差し置いてどんどん話が進む。今日はずっとこんな感じだ。

 「でもそんな都合よく邪は現れねーか」

 と妖精さんが言った時だった。

 

 ピコンピコンピコンピコンピコン!

 

 何かが僕の体からけたたましく鳴り出した。うるさすぎてトイレの外に響いてないか不安だった。

 「おうグッドタイミングだ!おい神からもらったヤツあるだろ?出せ!」

 もらったヤツ?あの三角のおもちゃか。懐から取り出すと中央の水晶がピコピコ光ながら音を鳴らしていた。

 「それは邪が現れたサインだ。よし。仕事始めるぞ」

 「と言われてもどうすれば」

 「中央の水晶押せ」

 言われるままに僕は水晶を人差し指で押した。するとあたりは一面、まばゆい光に包まれた。

 

 

 「なんなんだ・・・?」

 光と音がやみ、視界が開けてきた。なんだろう。目がシパシパするのはしょうがないとして、胸は重いし重心が変わったように体がぐらぐらする。

 「どうやら成功したみたいだな。よし、行くぞ」

 「行くってどこへ?」

 「邪退治だ。何度も言わせんなバカ」

 罵声を浴びせられながら僕はトイレの個室から出る。外にはちょうど用を足している人がいた。庶務課の下野さんだ。

 「あ、こんにちは」

 「こ、こんにちは・・・」

 なんだろう。不審者を見るような目で見てくるけど・・・。

 「おい、どこ行くんだ」

 「いや、外に出るんでしょ?」

 「窓から飛び降りりゃいいだろ」

 「ここ5階ですよ!?」

 妖精と人間じゃ常識が違うらしい。僕は人間の常識に乗っ取り、ドアから出ることにした。

 そしてドアに差し掛かった直後だった。トイレに貼られている大きな鏡で自分の姿を見た。

 思わず二度見した。

 「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 その姿は中年男性のものではない。女の子の姿だった。

 「なんぞこれ」

 ただの女の子の姿ではない。髪はペンキで塗ったような銀色に染まり、頭には変な金属製の留め具がついている。服はスカートで色んな所にフリフリが付いて、肩からは赤いマントを下げていた。

 見たまんまの僕の印象を言おう。

 「なんだこりゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 今の僕は魔法少女だった。

 「うるせーな、なんだよ」

 「なんですかこれ!僕女!僕は男!女の子になってる!年齢も違う!大体何この姿!!!」

 「うるせぇ。神の力貰って使うのは巫女だろうが。常識だろ。ほら行くぞ」

 「いけるかぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 「うるせーっ!!!とっとと行くんだよ!!!」

 「うわっ」

 僕は窓の近くに連れてこられ、窓から突き落とされた。

 「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 「不審者の通報しといたほうがいいかな・・・」

 庶務課の下野はこの後の自分の行動を考えた。

 

 

 「よし着いた。この辺りに邪がいると思うんだが」

 「チュウネンノオッサンガコンナカッコウデソトデアルクナンテシッショクドコロカハンザイソレニシタガイカテイホウカイイッカリサンノカノウセイガ」

 「ほらいつまでぶつぶつ言ってんだ、そろそろ出てくるぞ」

 妖精さんに小さな蹴りを入れられ僕は我に返る。よく見るとここはよく知った噴水の広場だった。昔、娘の魔奈と魔美を連れて魔子さんとよく来てたっけ。今もちらほら人がいる。

 「ほれ、出てきた」

 「出てくるって何が」

 目を凝らすとそこには異様な光景が広がっていた。虚空に黒い靄のようなものがどんどん集まり、それらが凝り固まって生き物の形になっていく。腕ができ、脚が生え、現れた顔は昔話で出てくる鬼そっくりだった。

 「あれが”(よこしま)”」

 現れた怪物に対して人々は硬直していた。いきなり虚構の存在である鬼が現れたら誰だってそうなる。

 「ライネンーーーーーーッッッ!!!!!」

 遠吠えを上げた鬼に全員我に返ったのか悲鳴を上げて人々が逃げ出した。轟音のあまり空気まで響いている気がする。

 ・・・ん?ていうか鳴き声変じゃなかった?

 「名づけるなら”ライネンノオニ”だな」

 「あっ、そういうジャンルなの!?」

 

 「よし、あれをぶっ殺せ」

 「いや無理でしょ」

 当然だ。こちとら怪物退治どころか喧嘩すらまともにしたことがない。勝率なんて火を見るより明らかだった。

 「大丈夫だ。お前は神の野郎の神通力で強化されてるから。今世界で最強の存在だ」

 と言われても怪物退治なんていきなり言われてもできる人間のが少ないだろう。できるとしたら漫画や小説の主人公くらいだ。

 もうすべて見なかったことにして帰ろう、と現実逃避していた時だった。

 「おい、お前が渋っている間に人間が襲われるぞ」

 「えっ」

 そこには少女がいた。その少女は高校生だろうか、学生服を着て目の前の化け物に震えていた。そしてその少女は見知らぬ他人ではなかった。

 「魔奈・・・?」

 その鬼は今にも娘の魔奈に飛びかからんばかりだった。でも魔奈はいきなりの非常事態に体が硬直しているみたいだ。

 ライネンノオニの鋭い爪が、魔奈の体を引き裂こうとした。

 考える間もなく体が動いていた。

 

 「あっ・・・」

 勉強が馬鹿らしくなって学校をふけたのが間違いだった。でも誰も私を責められないだろう。

 だってお話に出てくるような鬼が現実にいるなんて、そして私を襲おうとするなんてアインシュタインにもノイマンにも予測できない。

 向こうが友好的じゃないのは火を見るよりも明らかだった。鋭い爪で私を襲わんばかりだった。

 こんなことになるならもっと勉強しとけばよかった。魔美にもっと優しくするんだった。お母さんに反抗するんじゃなかった。お父さんを気持ち悪がるんじゃなかった。

 そんな溢れんばかりの思いが一瞬で頭の中を駆け巡った。

 これが走馬灯って言うんだろうな。

 私がそんな風に達観する一方、鬼は私の体を引き裂こうとした。

 「危ない!!」

 そんな声が聞こえた。初めて聞くかわいい声。でも普段から聞いてるような安心する声。

 声が聞こえたと思ったら私は誰かに抱きかかえられていた。体を念のため触ってみるけど、どこも引き裂かれた様子がない。

 「大丈夫?」

 目の前には少女がいた。背丈は私と同じか少し低いくらいだけど恰好は日曜朝に出てくるアニメのヒロインのような異様な姿だった。

 「あなたは・・・?」

 私は思わずその少女に尋ねた。化け物も身構えているようだ。

 「闇を消すため働きます!この世に光がある限り!」

 私はその少女から光が放たれているように感じた。この世の闇を全て照らす、そんな光を。

 「魔働(まどう)少女(しょうじょ)サラリーディ!見参!!」

 名乗りまでニチアサのヒロインのようだ。いや、ちょっと古めかしいかも。平成初期を感じさせる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 でも私は、その少女にまるでお話の中のヒーローのような感覚を感じた。

 「・・・・・・うげええええええええぇぇおえええええぇぇっっっ!!!」

 「は・・・?」

 吐いた。ニチアサヒロインじみた少女が吐いた。

 その少女は私の方を向き直り、肩に手を置いて喋りかける。

 「大丈夫?おえっ?助けに・・・うえっ、来たから安心して・・・」

 「むしろあなたに助けが必要に見える!!!」

 その娘の口は少しゲロ臭かった。

 

 (なになに何なの・・・?)

 さっきの名乗り口上は断じて僕が言ったものではない。ホントです。信じてください。勝手に口が動いてたんです。

 (40のおっさんがさっきの名乗りをこんな姿で・・・)

 そう客観視したとたん公共の場に吐しゃ物をぶちまけてしまった。軽犯罪法違反だろうけど、発狂しなかっただけ褒めてもらいたい。

 「ほら吐いてる場合じゃないぞ」

 「吐いてる場合です・・・」

 「どうでもいいけど。ほら、怪物から娘守るんだろ」

 そうだった。魔奈のことを思うと体が勝手に動いていた。化け物”ライネンノオニ”はまだこちらを狙っていた。

 「もーーーうっ!!こうなったらやってやるーーーー!!!!!」

 自分を奮い立てて、ライネンノオニをまっすぐ睨む。人生初めての正義の行動が始まろうとしていた。

 

 ライネンノオニはその爪を振りかざし、思い切り僕に向けて振り下ろした。思わず僕はジャンプする。

 「うおっ!?」

 自分でもビックリした。50メートルくらい飛び上がったのだ。こんなことできるの日曜朝のヒーローかヒロインくらいだろう。

 「うわああっ!!」

 思わず僕はライネンノオニに脚を向ける。自然とそのままライネンノオニに向けてキックをぶちかましていた。

 ドシャアァという気持ちの良い音とともに、ライネンノオニは後方へ勢いよく吹き飛んでいた。壁にぶち当たり、その壁が衝撃で壊れるほどの威力だった。

 「す、すごい威力・・・」

これが神通力の効果なんだろうか。イメージした通りに体が動く。

 「おい、ぼさっとしてる暇があったらとっとと追撃しろ」

 ライネンノオニはよろけつつも立ち上がり体勢を立て直そうとしていた。もう長くなる前にとっとと終わらせる。そう思いつつ僕はライネンノオニにパンチをぶち込もうとした。

 「うおおー!喰らえー!」

 パンチが決まった。そう思ったけど拳は空を切っていた。どうやら避けられたみたいだ。

 「あっ!」

 ライネンノオニは僕の後ろにジャンプして回り込もうとしている。僕はすかさず拳を背にして裏拳をたたき込もうとした。

 「あれっ!?」

 たたき込もうとしたんだけどライネンノオニはさらに体をくねらせて裏拳を受け流した。図体が大きい割に俊敏だ。

 着地したライネンノオニが爪を光らせながら向かってくる。僕はそれをジャンプしてよけようとした。そうしようとしたけど。

 「うそぉっ!?」

 ライネンノオニは僕がジャンプしたとたんに僕の方に跳躍した。そして鋭い爪で僕を斬り裂いてきた。

 「あ痛ぁっ!!!」

 ズバァッと肉が切り裂かれる音がする。音がするってことはかなり乱暴に斬り裂かれたということになる。

 (でもその割には痛くない・・・)

 乱暴に斬り裂かれた割には激しい痛みもないし血も出ていない。これも神通力の効果なのだろうか。どうやら肉体全部が超人並みに強化されてるらしい。

 「くっ」

 でも苦しいものは苦しい。そして何か違和感が。

 「あの鬼、僕がジャンプする前にジャンプしてきた気が」

 「ああ、何かからくりがあるな」

 タネは分からないけどこのままじゃジリ貧になりそうだ。仕事もほっぽり出してきてるし早急に終わらせた方がよさそうだ。

 (あいつの懐に飛び込んで、パンチしまくってとどめを刺す)

 そう思った直後だった。

 「オーニオニオニオニオニオニオニオニオニオニオニオニオニオニオニ!!!!!」

 「な、なんだ?」

 ライネンノオニがオニオニ言ってる。鳴き声にしてはそのまますぎる。

 「あー、ありゃ笑ってんな」

 「笑い声なのあれ!?」

 いくら何でも安直すぎる。素人でももうちょっと設定ひねるぞ。

 「来年の事を言えば鬼が笑うって言うだろ。ん、まさか・・・」

 「え、何ですか?」

 「サラリーディ。ちょいと俺が指さしたのと逆方向に飛んでみろ」

 言われる意味も分からないまま、僕は妖精さんの指と逆方向に飛んだ。と思った瞬間、ライネンノオニは僕の方向に突撃してきた。

 「ぐわっ!」

 ぶちかましを喰らい、僕は肺の中の空気を吐き出す。ゲホゲホ言ってる間に妖精さんが僕の傍に近づいてきた。

 「分かったぜ、あいつのからくり」

 「何なんですか?」

 「未来予知だ」

 「えっ?」

 「来年の事を言えば鬼が笑う、その名の通り奴は来年、つまり未来のことを見れるんだ。だからさっき、お前が先の行動を考えたとたん笑い出したのさ」

 「何それ!!強すぎません!!?」

 名は体を表しすぎる。というか序盤でいきなり戦う相手じゃないだろ。これ、負けイベントなんだろうか・・・。

 「未来予知なんてされたら打つ手なしじゃないですか・・・。どうやって勝つんですか・・・」

 「そうだな~」

 妖精さんはうーんと腕を組んで考える。大丈夫なんだろうか。

 「あっ、そうだ」

 「何かいい案が?」

 「予知しても対応できない攻撃をぶち込めばいい」

 「えっ」

 「ああ、心配しなくていい。必殺技みたいなもんがあるから、それがありゃあの程度の邪一発よ」

 「最初からそれ使わせてくださいよ!!!」

 「いきなり使うと上の方がうるさいんだよ。この世の予算がどうとかで」

 この世に予算があるの!?こんなに無駄に苦しいの人間世界くらいだと思ってたけど、どの世界も世知辛いらしい。

 「まあそろそろ使えるだろ。試しに腕を伸ばして手を重ねてみろ」

 言われるままに僕は手を重ねた。すると手のひらに熱いものが集まってきてる感覚がする。

 「よっしゃ!そのまま手のひらにエネルギーを集める感覚で!!」

 頭の中で手にエネルギーを集める感覚をイメージする。昔雑誌で毎週読んでた漫画が似たようなことをしていたから割と簡単にイメージできた。

 ライネンノオニは脅えているようだった。そのまま逃げの体勢に入ろうとしていた。

 「よし!凝縮した光を放て!!!」

 僕は手のひらから、全ての力を放出した。

 「ソルファー・エト・イグニス!!!」

 勝手に口が動いて技名を言い、まばゆい光が広範囲に向けて放射された。

 

 カッ

 

 光がやむと、そこには怪物の肉片のひとかけらもなくなっていた。確かにあれならよける隙間もない。でも不思議と周りの建物は無事だった。

 「や、やった・・・」

 「おう、初めてにしては上出来だぞ」

 怪物を倒せたという事実を実感すると、急に力が抜けヘナヘナと地面に座り込んだ。

 「はぁ~~~~っ・・・」

 良かった。これでいつもの日常が帰ってくる。

 ・・・・・日常?

 ・・・・・仕事!!

 「やばっ!!!!!」

 仕事をほっぽり出して会社を無断で抜けてきてたんだった!!下手すりゃクビだ!!!家族一同路頭に迷うことになる!!!!!

 急いで会社に戻ろうとする。でもその前にやることを思い出した。

 僕はその人のもとへ平静を取り繕い歩いて行った。

 「あっ、あっ、あのっ」

 「大丈夫だった?」

 娘の魔奈はまだ隠れて戦いを見ていたらしい。

 「あ、ありがとうございますっ!助けていただいてっ!!」

 魔奈は頭を下げて感謝の言葉を述べる。いい子に育ってくれたな。魔子さんの教育のたまものだろうか。ちょっと誇らしい気分。

 「お礼なんかいいよ。当然のことをしただけ」

 僕、というよりサラリーディは魔奈の両肩にそっと触れた。

 「もう、大丈夫だからね」

 サラリーディは驚くほどやさしい声を出していた。それを聞いて魔奈も安心したようだ。

 「それじゃあね」

 そう言いサラリーディは魔奈に背を向けて颯爽と去っていった。

 

 「ああ~会社ヤバいよぉ~上司になんて言おぉ~~それよりも僕大声で独り言つぶやいてたことになってるんだったぁ~~~」

 「あらら、さっきまでちょっとカッコよかったのに」

 「・・・まあでもこれでいつも通りの生活に戻れる」

 「はぁ?何言ってんだ?邪はまだ出てくるぞ」

 「えっ」

 

 

 「疲れた・・・」

 僕は仕事を終わらせ退社し、まっすぐ帰りの家路に着いていた。

 あの後なんとかクビにはならずにすんだ。ただその代わり、いつもの倍の量の仕事を上司から押し付けられたけど(部下もどさくさに紛れて仕事を押し付けてきた)

 今日だけで色々ありすぎだ。素人のネット小説でももうちょっと内容絞るぞ。もうさっさと帰って寝たい・・・。

 そんなこんな考えていると家に着いた。僕は早速ドアを開ける。

 「ただいま~」

 家の中の空気が、今日は特別美味しく思えた。

 「おかえり、遅かったね」

 珍しく今日は妻の魔子さんが迎えてくれた。旦那の僕が言うのもなんだけど、30代後半とは思えないくらい外見が若々しい。

 「ああごめん、仕事たくさん押し付けられちゃって」

 「・・・味噌汁とおかず、自分であっためて食べて」

 そう言って魔子さんは居間に引っ込んでしまう。なんか傍から見たら倦怠期だけどまあこのくらいの齢になるとこんなもんだろう。

 「ただいま。二人とも」

 「んー」

 「・・・・・・・・・」

 高校生の魔奈は無反応、小学生の魔美はスマホを見ながら空返事だ。何かぞんざいな気がするけどずっと円満な家族なんて現実に居たらどこか不気味な気がするからこれくらいが自然でちょうどいい。自分で思ってて悲しくなってくるけどこれでいいのだ。

 「あ、魔奈。はいこれ、合格祈願のお守り」

 「・・・たまに変な気回さないでよ、つッ」

 舌打ちされた。父親だから多少のことなら悲しまないとでも思ってるんだろうか。でも口に出したら喧嘩になりそうなのでおとなしく引っ込んでおく。

 「ここ置いとくよ」

 お守りを食卓に置き、まずはお風呂に入ろうとする。その瞬間、テレビからニュースが聞こえてきた。

 『次のニュースです。今日のおよそ11時頃、噴水広場にて謎の怪物と少女が暴れ、広場が損壊した事件がありました。怪物は少女によって消し去られましたが謎の少女は依然逃走中とのことです。謎の少女はサラリーディと名乗っており、当局はこの少女の行方を捜索、情報を調査しており』

 サーッと血液が冷える音がする。聞き間違えであってほしい、そう願った。だが無駄だった。

 「あっ、私を助けてくれた人・・・。サラリーディ様ぁ♡」

 冷汗が体中からどっと流れてきた。今の魔奈の発言、聞き間違いであってくれ。そうであってくれ。残業だろうが休日出勤だろうが何でもするから。

 「あっ、サラリーディ。うちの学校でももう持ちきりの噂なんだよね」

 お腹がキリキリ鳴り出した。これが絶望って言うのかな、ハハッ。

 「あんたたち、あんまり変なものに入れこまないでよ。あれ、どうしたのお父さん?」

 「いや、ちょっと調子悪くてさ・・・。トイレ行ってくる・・・」

 「・・・・・分かった。あんま長い間しないでよ」

 魔子さんの苦言を聞きながら、僕はトイレにこもった。

 

 

 

 「うげえええおええええ」

 僕の名前は佐良利満(さらとしみつ)。40歳。

 「おい吐いてんじゃねーよ」

妻子持ちの平凡なサラリーマン。家族構成は僕、妻、娘二人の4人家族。

「しっかりしろよ、また明日から魔働少女サラリーディとして働いてもらうんだから」

 そして魔法少女をやってご町内と、ついでに宇宙の平和を守っている。

 「勘弁してくださーーーーいっっっ!!!!!!!!」

 誰か僕の平和を守ってください。


主人公の姿はプリティでキュアキュアな姿を想定していますがストーリーはもっと別の作品をオマージュしています。分かった人とは気が合うかも。

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