48話:下村に満開の桜を見せよう
もうやめてくれよ、今、俺たちが、しなければいけなのは、下村君を励まして、彼をできるだけ安らかに送ろうと考えることだろと言った。これを聞いて、泉堂さんが、そうよね。考えるべきは、過去の事ではなく未来の事よと言い吹っ切れたような顔になった。
これを聞き、吉沢さんが、下村君が、死ぬなんて、今日知ったばかりで、いちばん、整理がつかないのは、私よと大声をあげた。いつも、私の順番は最後なのよねと言い、私だって、宮入君の事が、好きで、東京へ行った時、泣きはらしたのよと憂さを晴らすように言った。
なんだか、みんな酔いが回ったから、今日は、お開きにして帰ろうと言い、宮入が、精算を済ませて、店を出た。そして、タクシーを呼んで、泉堂さんを乗せ、運転手に京王永山までいくらと聞き前支払いし見送った。その後、吉沢さんと彼女のマンションに送り、家に帰った。
その後、2017年2月1日、吉沢さん泉堂さんと3人で、有明病院へ行った。そして緩和ケア病棟の下村君の病室を訪ねると個室で立派な部屋だった。この頃、下村君は、さらに痩せ、あばら骨が浮き出て、顔も急に老けた気がして死期が近いと予感した。
「吉沢さんは、驚き、目頭を熱くし涙をぬぐい、驚かせてごめんねと言った」
「俺も、こんな体を見せたくないよと寂しそうに語った」
「吉沢さんは、病室を出て少しして、すみません取り乱してと謝った」
「体調は、相変わらず良くないが、精神的には、随分、良くなったと告げた」
「今年の桜を見たいなと、つぶやくと泉堂さんもこらえきれず声を上げ泣いた」
「なんて、かわいそうなの、神様って、意地悪ねと、小さな声で言った」
「下村が、きっと人生ってこんなものじゃないかなとつぶやいた」
「まだ俺なんかベッドの上で死ねるのだからましだと考えてると告げた」
「吉沢さんが、やっぱり下村君は、賢く、すごい人だわと言った」
「君は、中学の時から僕のいい加減な所も見てるし、みんな知っていると答えた」
「辰野は、美しい自然がある、ここで暮らせたのは、幸せだったと懐かしんだ」
「死んで辰野のホタルに生まれ変わり辰野の草原を飛び回りたいとつぶやいた」
「すると、たまらず、まわりから、嗚咽が、聞こえた」
「お前を俺の車に乗せ今生の別れに満開の桜を見せてやると宮入が断言した」
「そんな話で長くなり、これ以上いると下村君の体に障るから帰ろうと告げた」
「3人は、部屋を出ようとすると下村が何かあったら宮入に連絡すると話した」
宮入が、了解と言い、みんなは、病室を出た。帰る途中で、今年の4月までは、下村君の安否が気になるので、できるだけ遠出しないでいてくれと、宮入が、みんなに伝えると、わかったと答えてくれた。この日は、飲み会なしで、各自、家に帰った。
その後、2月中は、下村は、特に急変することもなく過ごした。2月10日、宮入が、吉沢さん、泉堂さんに電話を入れて、2月14日、車で、東京へ行くから、泉堂さんに橋本駅南口に9時半に来てくれと連絡した。
その後、吉沢さんに8時半に家のマンションの前に来てくれと電話した。そして宮沢さんを乗せ、9時過ぎに橋本駅南口に来ていた泉堂さんを乗せた。その後、16号線で横浜に向かい10時には横浜に着き11時前に有明病院に着いた。
事前に担当の先生と看護婦さんに話してあり緩和ケア病棟へ行き、看護婦さんに、車いすにガウンを着た下村君を乗せ駐車場まで来てもらい、後部座席乗せ、車いすを折りたたみトランクに入れた。 病院を出て25分で亀戸天神の近くの旧中川の河川敷に着いた。
近くに車を止めて、車いすをトランクから出し組み立てた。そこに下村君を乗せて満開の旧中川の河津桜の下を見せてやると言った。そして駐車場に車を入れてくると言い走り出した。数分後、速足で宮入が来て、下村の乗る車いすを押した。
すると下村が、宮入に本当にありがとうと言いながら涙を流した。それを見て4人も感涙にむせんだ。そして黙って15分程、桜の花見をすると下村君が、もう充分に楽しんだと言った。すると、宮入が、車をとってくると言い走っていった。




