47話:下村の緩和病棟への入院
そして下村が、2月から、この病院の緩和ケア病棟に転院するんだと告げた。それを聞いて、宮入が、ここは、良い環境だから良かったと言った。すい臓の全摘手術は、しないのと聞くと手術しても長くは生きられないと語った。
その間、この痛みと長く戦わなければならないし、回復の見込みは、まずないと言った。だから、意味なく、苦しむのは、嫌だと、言い切った。それで、本当の良いのと泉堂さんが聞くと、そうだよと笑顔で答えた。
その下村のやつれた顔を見て、泉堂さんは、再び、目頭を押さえた。すると泣くなよ、むしろ喜んでくれよと話しかけた。下村さんって本当に強い人なのねと言った。今まで無理して頑張り過ぎただけで、本当は、弱虫なんだと静かに語った。
わかったわ、1回でも多く会いに来ますと泉堂さんが言うと、耐え切れず、下村の目にも涙が浮かび流れ落ちた。体にさわるといけないから、これで帰りますと言い、宮入と泉堂さんは、病室を後にした。その姿を目で追う姿を見ると宮入もジーンとした。
17時、京王永山で降りて宮入と泉堂さんが、酒を飲みながら居酒屋で夕食を食べた。その時、泉堂さんが、私も、なんだか踏ん切りがついた気がしますと語った。下村さんが生きてる間に恩を返していこうと話した。やっと悟ったねと宮入が言うと仕方ないでしょと言った。
次回は、2017年1月末か、2月初旬、今の病室から緩和ケアの病室に移動した時に面会に行こうと言った。了解ですと、おどけて泉堂さんが敬礼した。やがて2017年を迎えた。宮入が、吉沢さんと泉堂さんの3人で八王子の神社に初詣に出かけた。
その帰り、八王子の駅近くで3人で酒を飲みながら夕食をとった。その時、吉沢さんが、下村さんはと聞くので健診で、がんが見つかり、がん研有明病院に入院してると言うと、何で教えてくれないのと言った。そこで下村が、黙ってろと言うからさと答えた。
状況はと聞くので2月から緩和ケア病室に移ると言うと死を受け入れたって訳なのと驚いた。そんなに悪いのと聞くので、すい臓がんと教えると、ついてないわねと言い、私の以前の旦那のお父さんも、すい臓がんで手の施しようがなくなり亡くなったと話した。
ちょっと前に、グアムに行って、あんなに元気だったのにねと言うと、しんみりして思い出したのか、涙を流して、ため息まじりにそうと答えた。でも、緩和ケア病室に移る時は、連れて行ってと言うので聞いてみると宮入が述べた。
その後、吉沢さんが、下村君の昔話を始めて彼の苦労話や地元に帰って来て地元民へ親切にした事を語った。でも下村君、ずっと泉堂さんの事が好きだったのよと打ち明けた。泉堂さんが辰野を出た時、未成年だったけど佐藤君の店で、やけ酒を数人で飲んだ話をした。
そんな話、知らなかったわと泉堂さんが言った。その後、北海道旅行へ行き、すすき野で働く、泉堂さんを見つけた時の喜びようと言ったらなかったわと話した。そういえば、その後、数回、店に来てくれ、すぐ帰ったと泉堂さんが思い出した。
不景気で、店をたたんだ時に来て、俺が金を出すから小さなバーでもやれと言ってくれたと思い出した。その時は、本気だったのよと言った。その直後、辰野支店長で栄転し札幌に行けなくなったのを残念がっていたと吉沢さんが言うと知らなかったわと泉堂さんが言った。
これを聞いて泉堂さんが、あの時、店を出すなら金を出してやると言ったのは、飲んだ時の冗談だと、てっきり思っていたわと言い涙を浮かべた。追い打ちをかける様に、吉沢さんが、下村君、あー見えても一途なところがあるのよと打ち明けた。
これを聞いて泉堂さんが大泣きして酒を飲むペースが速くなった。泣きながら神様って本当に意地悪ね。なんで教えてくれないのよと怒った。かなり酔って、泉堂さんが、私だって、宮入君が、いなくなった時、天竜川に飛び込んで死のうと思った事あるのよと語った。