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28話:仲間達の本音と泉堂さんの人生

 銀行だから、つぶれるという危険も少ない。冬の間だけ、じっと、こたつに入り、耐え忍んで、やがて、遅い春が、巡ってきて、桜が咲くと、一斉に、多くの花が咲き誇る素晴らしい自然の季節を迎える。


 チューリップ、バラの季節を過ぎると、辰野のホタル祭りとなり、夏祭りが始まり信州で一番良い季節が訪れる。諏訪湖の花火、松本ボンボン、長野のびんずる等々。それらの祭りが、終わると稲刈り、そばの実の取り入れという実りの秋が訪れる。


 それが終わると、冬支度を初めて、車のタイヤも冬支度、昔はスパイクタイヤ、最近は、スタッドレスタイヤに履き替える。厳しい冬は、諏訪湖周辺では、寒天を干す光景が見られた。諏訪湖に氷がはり凍結。


 山々は、雪に閉ざされ、人々も部屋を暖かくしてこたつに入り春を待つ、素晴らしい四季だ。若い頃は、これで、良かったが、年を取ると冬の寒さが厳しく体にこたえる。また、昔から同じ仲間と過ごしていると人情が時として重荷になる。


 それが、やがて、しがらみとなって心の重みになる。特に、俺みたいに地元の大銀行の支店長となると冠婚葬祭を始め、多くのしがらみに、がんじがらめにされて自由がなくなる。それが、嫌になり飛び出したくなったと語った。


 女房の突然の交通事故死もあって、もう故郷の未練がないと、言い切った。それを聞いて下村が、気持ちはわかるが順風満帆の人生じゃないかと言った。都会では、競争が激しく買った者が、総取りで負けたら、お払い箱、競争に勝つための人生。


 そんな中では、心を許せる友人なんて、できゃしない。実力と策略と言う非情な人生だ。階層が決まり、良い大学を出て出世した人間と生まれの良い一部の人達だけが、高級住宅街に住む。成功しても成り上がり者は、豪華なタワーマンションに億を超える金を払って住む。


 普通程度の連中は、一生、賃貸マンションに住み、年金が少なくなれば、東京からはじき出され、千葉、埼玉なら、まだましだが、茨城、山梨、栃木、群馬、福島に追いやられる。これを聞いて、泉堂が、じっと2人の話に耳を傾けていた。


 そして、なるほどねと言った。泉堂が、信州で育った時は,山がきれいでホタルが飛びまわっているのは、当たり前の光景だった。しかし、引っ越してみると、それがない。また、私が、流れ着いた札幌は、大都会で、競争社会。


 まして、水商売は、競争が激しく、お客さんの取り合いばかり、汚い手を何回も使ったわ。気を引くためなら何でもしたのよ、でもね、そんな事、まともな神経では、できない。酒におぼれて、危うくアルコール依存症と糖尿病で体を壊しそうになった。


 そんな時、優しくしてくれ、病気を直してくれたのが札幌の大病院の若手のお医者さん。彼と過ごした数年間は、人生最高の時だったわ。でも、人生、良い時って本当に短いのね。その方は、5年後、肝炎を患い闘病生活を余儀なくされた。


 やがて11月に入院。そこで、お見舞いに行った時、僕の人生は、もう、あまり長くないと思うと言った。これを聞いたときは、悲しくて泣きあかした。彼は、東京の名門高校を出て、実父ともめた。


 そして実父から、今後一切援助しないという条件で1千万円をもらい家出し北海道大学医学部に入ったと話した。しかし入院して、その年を越す事ができず亡くなった。彼の病室の引き出しに遺書と預金通帳が入っていた。


 それも見ると資産を泉堂峰子に託すと署名捺印が押してあった。その通帳の残金合計が1800万だった。その後、内縁の妻として彼の葬儀をして北大病院近くの墓地に埋葬した。それ以降、私の人生が一気に下り坂になった。


 世の中、バブル崩壊、不景気の冷たい風邪が吹き荒れ、すすき野でも飲み屋が、つぶれていった。その頃、知り合ったバーのマスターと同棲し暮らたが、店を守ろうと頑張っていたマスターが借金を増やす結果となった。


 最終的には、借金を苦にマスターは、自殺してしまった。私は、その前に解雇され、悪影響が及ぶことはなかったが、葬式も、あげてやることができなかったと言い悔やんだ。その当時を思い出して泉堂さんが涙を流した。

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